第04話 出費
洗い物を済ませたセレイナは、食器と調理器具を魔法袋機能付き矢筒にしまう。
矢筒なのに魔法袋とはこれいかに。
「別に手伝いとかは気にしなくてもいいわよ。手早く済ませないと移動が遅れる可能性もあるしね」
どうでもいい事を考えていたのだが、セレイナには俺が手伝おうとしているように映ったようだ。
「拭き上げくらいならできるし、何もしないっていうのもな」
「それじゃ、今日の夜は手伝ってもらおうかしら」
俺たちの移動の準備が出来たのを確認したからなのだろうか。
隊員さん達は移動を開始した。
俺たちも姿が完全に見えなくなる前に、その後をついていく。
「ところで、この魔法袋ってどういう仕組みなんだ?」
俺はマントの内側に縫い付けてある魔法袋を見せながら聞いてみた。
「仕組み……仕組かー。アラタの気持ちが少しわかったかも。二人は説明できる?」
ミリーリアはセレイナとサーナさんに助けを求めるように視線をさ迷わせる。
「物を溜め込む性質を持った魔物の素材で出来ているっていうのは間違いないわね」
「私も詳しい事はわかりませんね。言われてみるとどういう仕組みでこれほど物が入るのですかね?」
二人もはっきりとはわからないようだ。
「アラタのいた世界にはなかったの?」
「ないない。正直夢のようなアイテムだ。物流に革命が起きる事間違いなしって感じ」
「商人の世界では魔法袋を持てるようになって、一人前と呼ばれるようになるとは聞きますね」
「何でも入るのはいいけど、紛失したらショックで立ち直れないだろうな」
「見せびらかしたら盗まれる可能性もあるわよ?」
「やっぱりお高いんだよな?」
「そうね……モノ次第ね」
「シュルーケルさんから借りたコレ、考えたくないけどかなりの価値があると思うんだよなぁ……」
「お父さんがそんなもの持ってたのは知らなかったわ。アタシがこの矢筒を買うのにどれだけ苦労したか……。入学祝いとしてくれても良かったのに」
セレイナにジト目で見られた。
俺は悪くないと思う。
「私のは母さんが使っていたポーチ型だよ」
ミリーリアは、肩からかけているポーチを指差す。
「ちなみに、これは私しか使えないんだよ」
「どういう事?」
「試した方が早いかも」
そう言ってミリーリアはポーチを開く。
「はい、試してみて」
手を入れろって事か。
【二兎を追う者は一兎をも得ず】のように触れない状態になるのだろうか。
恐る恐るポーチに手を入れる。
俺の手はスルスルっとポーチに侵入し、何かに触れた。
軽く握ってみる。
何だろう? 布?
俺の足に巻いてくれたやつか。
「ちょ、ちょっと待って! なんで! ストップストップ!」
ミリーリアは俺の手をポーチから引き抜く。
「何でアラタが私のポーチを使えるの! おかしいよ!」
引き抜かれた俺の手には純白の布。
足に巻いてくれた布ってこんな色だったっけ?
……絶対違うよな。
握った手を開く前に、ミリーリアは俺の手から布を無理やり引き抜く。
「アラタ!」
耳まで真っ赤なミリーリア。
そうだよなぁ……。どう考えても下着だったよなぁ……。
「ごめん!!」
「忘れて……」
無理です!
「はい……」
少し落ち着いたミリーリアから話を聞くと、魔法袋の所有者以外は使えないように加工を施していたらしい。
セレイナの矢筒型魔法袋も同様の加工が施されているそうだ。
俺のも試してもらったら誰でも使える状態であった。
元の所有者がシュルーケルさんで、マントの内側に縫い付けられている事を考えると、所有者を限定する必要がなかったのだろう。
ミリーリアのポーチは壊れているわけでもなかった。
セレイナが手を入れようとしても入る事はなかった。
「アラタ様が良ければ私の魔法袋でも試してみませんか?」
サーナさんは腰にぶら下げていた魔法袋を手に持ち、そう提案してきた。
どうやら俺が使い魔である事が関係しているのではないかと推測したようだ。
もしもサーナさんの魔法袋に手を入れる事が出来たら、新しい発見になるらしい。
「手が入るかどうかの確認だけで十分ですので」
釘を刺された。
俺だって悪気があったわけじゃないんだけどな……。
覚悟を決め、サーナさんの魔法袋の口にゆっくり手を近づける。
何の抵抗もなく入っていく俺の手。
手首まで入ったところで一度止める。
驚いた表情のサーナさんが目に映る。
普通に入った。
これが率直な俺の感想だった。
同じミスは繰り返さない。俺は手を引き抜く。
「入りましたね……。私が提案した事ですが、正直信じられません……」
俺はセレイナの矢筒に目を向ける。
「絶対にイヤよ」
俺の視線に気づいたセレイナに拒絶された。
さすがに不味いのは俺でもわかる。
鍵を掛けた部屋に、勝手に侵入できるようなものだ。嫌がるのも無理はないだろう。
結局、王都に着いてから詳しく検証するという事で落ち着いた。
他人の魔法袋にむやみに近づかないように言い含められたり、どうして俺は他人の魔法袋を使う事ができるのか考証しているうちに、今日の目的地である村に到着した。
俺たちの到着を待っていたロイさんの姿が見えた。
「今日の移動はここまでです。この後はここで野営となります。少し休んだらこの村の村長に挨拶に行きましょう」
勝手に野営拠点を設置していいとうわけではなく、その土地の責任者から許可を得るのがマナーのようだ。
騎士団からはロイさんのみ、俺たちは四人全員でこの村の村長の下へ向かった。
村長に挨拶を済ませ、村の外へ出ようとしたのだが、待ったがかかる。
「アラタ、買い物買い物」
忘れていなかったようだ。
とはいえ、特に買いたいものも思い浮かばない。
「あそこの青果店で何か買っていきましょうか。気になる食材があれば買ってもいいわよ」
セレイナの視線の先には、今日の営業を終わらせようとしている青果店が。
俺たちは駆け足で店に向かった。
「お? この前の学生さん……と、シスターさんに……冒険者さんか? それほど残ってないけど見て行ってくれ。この辺は今朝取れたばかりだから鮮度は補償するぜ」
不思議な組み合わせの俺たちを見た男性店主は、疑問を口にしながらもしっかり営業トークを繰り広げる。
「この前買ったアスパラ美味しかったわ。まだ残ってるのね。これは買うわ」
「毎度あり!」
あれ? 俺が選ぶんじゃなかったっけ?
「そうだったわね。ごめんなさいね。つい、ね」
正直俺が選ぶ必要はないと思う。
それでも俺は並んでいる野菜を見渡す。
異世界の変わった野菜があればと思ったのだが、どれも見覚えがある物ばかりだった。
それほど疲れているわけでもないが、英気を養うために食後のデザートとしてフルーツでもと思い、二つあったグレープフルーツを購入する事にした。
「毎度あり! 一個千五百ヴィルだけど二個買ってくれるならサービスだ! 二個で二千八百ヴィルでいいぜ!」
たっか!!
グレープフルーツ二個で二千八百円??
マジで?
思ったことを悟られないよう、平静を保ちつつ懐から布袋を取り出す。
そして、『5』と刻印された中銀貨で支払いを済ませる。
お釣りを受け取り、布袋を懐にしまうが、内心穏やかではない。
足元を見られた?
いや、誰も何も言わないところを見るとそれはないだろう。
そうするとこのグレープフルーツは適正価格という事になる。
もしかしたら見た目はグレープフルーツだけど、中身は別物なのだろうか。
そう考えると納得できる。
少し楽しみだ。
セレイナはアスパラだけ購入し、俺たちは店を後にした。
「アラタはお金持ちだねー。そんな高いものを買うんだもん。ビックリしたよ」
「それが好きなのかしら?」
二人の様子からして、変わったグレープフルーツの可能性が低くなっていく。
「この辺ですと、輸送費の関係で少し割高になりますね。王都ですともっとお安く購入できます」
サーナさんにとどめを刺されてしまった。
輸送費か……。魔法袋があるし、そこまでかからないと思うんだが……。
「この辺は生産地から離れてますからね。仕方がないかと」
予想外の出費。
どうやら初めてのお使いは失敗だったようだ。
いや、まだわからない。
美味しければ成功と言えるのだから。




