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第03話 距離の壁

 シュルーケルさんに挨拶を済ませ、三人に追い付きそうになったのだが、俺は少し距離を取る事にした。


「実際の所はどうなの? 気付いていたけど、あえて濁したのかしら?」

「と、言いますと?」

「サーナさん、いいんだよ? 私たちしかいないんだし、本当の事を言っても」

「本当の事と言われましても……。率直な私の想いをお伝えしただけなのですが……」

「わかったわ。まず前提として、彼はサーナさんに恋愛感情を持った。ここまではいいかしら?」

「それはないと思います。知り合って間もないですし、お互いの事を何も知らないですから」


「ねぇセッちゃん。私、これ以上はダメだと思うんだ」

「そうね……。彼の名誉のためにもここまでにしておきましょうか」

「もしかして、お二人のうちのどちらかが、あの男性が気になっているのでしょうか?」

「いいえ」

「違うよ」


 近付きたくない……。

 どこの世界でも恋バナというのは盛り上がるんだなあ。


「アタシとしてはアレで良かったと思うのよね」

「えー、セッちゃんは可能性に賭けないの?」

「可能性は置いておいて、どちらかが生活拠点を変える必要が出てくるじゃない?」

「あー、そっか。すぐにってわけにもいかないよね」

「ちなみに、これは上手く言った場合の話ね。逆に失敗したら?」

「そこでお別れで終わりじゃない?」

「公衆の面前で撃沈ってなったら村中に広がるわよ?」

「あー、しばらくは立ち直れないかも」

「そういう事。そう考えると丁度良かったっていうのも変だけど、悪くない結末だったって思わない?」

「当事者の立場なら悪くないのかな?」

「アタシはそう思うわ。仮に上手くいっても距離の壁っていうのはどうにもならないわよね」

「ねぇ、アラタはどう思う?」

 

 振り向いたミリーリアは、確実に俺に届く声量で問いかけてくる。


 捕まってしまった。

 どうしたものか。とぼけるか……。

 いや、意味はなさそうだ。

 仕方がない。合流しよう。


「恋愛においての距離の壁かぁ。別に気にならないかな。そもそも距離の認識が違うのかも」

「あー、そっか。ちなみにマノトからサマクレア……王都だよ? サマクレアまでってどれくらいで移動できるの?」

「わからん。けど徒歩六日だっけ? どれくらいだろう? 一日あれば余裕で着くかな」

『え?』


 女性陣三人の声が重なった。


「ピーちゃん……あ、私の使い魔です。鳥型ですね。ピーちゃんでも王都まで片道一日かかるのですが、人が一日で王都までというのは想像できませんね……」

「アタシ達がわからないと思って大袈裟に言ってない?」

「馬車でも三、四日はかかるんだよ?」


 疑いの眼差しが俺に向く。

 自動車基準で考えても一日かからないだろうし、他の交通機関を使えば、それこそ数時間の距離だと思う。


「事実なんだよなぁ。だからと言って、その乗り物を作れと言われても作れないから証明のしようがないんだよなぁ……」

「じゃあさ、移動で六日かかるところに恋人がいたとして、耐えられる?」


 くっ、逃げ切れなかった。


「俺は経験ないから何とも言えないなぁ。でも、この離れた距離がスパイスになって、より相手の事を想うようになるって話は聞くかな」

「あ、なんかわかるかも!」

「故郷に残してきた家族を想って頑張るって話は聞くわよね」

「そういう事。だからアリかナシかで言えばアリじゃないか?」

「アラタ様は距離は気になさらないと。私は近くに想い人がいてくれた方が安心できますね」


 ここに来てサーナさんが会話に加わる。


「そうなのよね。やっぱり近くにいるのがベストっていうのはアタシも同意見ね」

「それはそうだよー。やっぱりさ、一緒に過ごす時間は幸せだと思うんだ」

「私の担当部署ではないので、詳しい事は言えませんが、旦那が遠方へ出稼ぎに──」


 俺は早歩きで三人から距離を取った。



 お昼を少し過ぎた頃、今日最初の休憩地点の村に到着したようだ。


「アラタ殿、やはり慣れない移動は負担になっているのでしょうか?」

「そういうわけではないです。精神的疲労といいますか、何といいますか……」

「まだ初日ですので無理はなさらないでください。何かあれば馬車を空ける事もできますので」

「恐らく大丈夫です。一過性の疲労ですので……」

「アラタ殿がそうおっしゃるならいいのですが……。昼食はどうされますか?」

「あっちでセレイナが作ってくれてるのでそこで食べようと思ってます」

「わかりました。それではまた」


 俺の様子を確認しに来てくれたロイさんは隊員さん達の下へ戻って行った。


「アラター、出来たよー。早くおいでー」


 何故かミリーリアに呼ばれた。

 料理を作っていたのはセレイナだった気がするのだが。


「ありがと。ところで食費ってどういう扱いなんだ?」

「アタシとミリーが出してるわね。後はサーナさんが食材を分けてくれてるわ」

「シュルーケルさんから報酬も受け取ったし、俺も出せるけどどうすればいいんだ?」

「んー、もう清算は済んじゃったし、今回の移動分はいらないわ。そもそも、使い魔の生活費ってどういうものなのかしら……」

 

 セレイナはチラリとサーナさんを見る。


「アラタ様の場合は特殊なので難しい質問ですね……。使い魔というより、私たちと同じと考えてよろしいかと」


 使い魔の生活費って扱いになる可能性もあったのか。

 言われてみると納得できる。

 使い魔としての自覚が足りなかったのかもしれない。


 ……使い魔としての自覚って何だろう?

 ヒモ? 無いな。


「それではアラタに問題です! 今回の食事の材料費はいくらでしょうか!」


 昼食の内容は、パン、野菜入り塩スープ、干し肉だ。

 これがいくらになるのか。

 

「四百円くらい?」

「エン?」


 そうですよね。単位が円なわけないですよね。

 よし、誰か教えてください。


「そうよね。まず、この国の通貨の単位は『 (ヴィル)』。これは覚えておいて」

「わかった。大丈夫」

「それで、お父さんに渡された報酬出してもらっていいかしら?」


 俺はマントの内側の魔法袋から、お金が入った布袋を取り出す。


「まずはこの金貨。両面に数字が刻印されているでしょ? 今アラタがもっているのは中金貨ね」


 この金貨には『5』と刻印されている。


「他にも大金貨と小金貨があるわ。それぞれ『10』、『1』と刻印されているわ」


 そう言って、セレイナは矢筒のようなものから財布を取り出した。

 その腰の矢筒は魔法袋でしたか。


 大金貨は持っていなかったので、小金貨を見せてもらった。

 確かに数字の『1』が刻まれている。


「小金貨五枚で中金貨一枚と同等の価値になるわ。ここまでは大丈夫かしら?」


 失礼な。そんな初歩的なところで躓くわけがない。


「あら、ごめんなさい。それなら次は銀貨。これも大、中、小とあるわ」


 俺の銀貨には『5』と刻まれている。


「上から、『5』、『2』、『1』ね」


 ここまでは問題ない。


「そしてこれが銅貨。一般的なのはこれも大、中、小なのだけれど……小の下にもあるのよね……。これは後回しね」


 銅貨はそれぞれ『10』、『5』、『1』と刻印されている。

 金貨と同じ幅のようだ。


「小銅貨が十ヴィル。小銀貨が千ヴィルで、小金貨が一万ヴィルね」


 貨幣については大体わかった。

 

「金貨の上に白金貨があるのだけれど、気にしなくてもいいわ。しばらく目にすることはないでしょうから」

「大金貨十枚分の価値くらいか?」

「百枚ね」


 白金貨一枚で一千万ヴィルらしい。


「なるほど。大体わかった。で、昼食の値段だっけ?」


 物価がわからないけど、四百円というのはそれほどズレてないような気がする。


 狼退治の報酬が均等割りなら、一人あたり十万ヴィルという事になる。

 命を賭けた対価として適正かどうかは置いておくとして、かなり高額なのではなかろうか?

 これで大した価値がないとなったら泣ける。


「四百ヴィルと見た!」


 さぁ、どうだ。


「あら、せ──」

「よし、次の村に着いたらアラタには買い物をしてきてもらおう!」


 セレイナの口を、後ろから塞いでいるミリーリアにそう提案された。


 正解って言おうとしてた気がするけど……。

 この歳で初めてのお使いを経験する事になるとは。

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