第02話 甘酸っぱい思い出
村の外へ出ると、自警団の団員さん達と、騎士団の隊員さん達が村の住民に囲まれながら談笑していた。昨夜は盛り上がったのだろう。
そして、少し離れた所にロイさんとサーナさんを見つけた。
俺たちは二人の下へ向かう。
「皆様おはようございます」
一足早く俺達に気付いたサーナさんの挨拶で、ロイさんもこちらに気付いたようだ。
「おはようございます。昨夜の当部隊の隊員達への心遣い、感謝いたします」
ロイさんは隊長モードのようだ。
「おう、気にすんな。こっちも助かったんだからな」
通常モードのシュルーケルさん。
俺達もそれぞれ挨拶を交わし、移動の際の注意事項の説明を受ける。
どうやら俺たちは騎士団の行軍に加わるのではなく、たまたま行軍中の騎士団を見つけたので、少し離れた位置からついて行くという事になるらしい。
護衛依頼で動いているわけではない騎士団に、一般人が紛れ込むのはおかしいのだそうだ。
だからと言って、休憩時も離れている必要はないとのこと。
建前は大事なのだとか。
説明を受けている最中、気になる事があった。
騎乗用の馬が三頭と、馬がそれぞれ二頭繋がれた幌馬車三台しか見当たらない。
話の流れから、予想は出来ているが確認は大切だ。
「移動手段は徒歩だったりします?」
全員が何言ってるんだコイツって顔で俺を見る。
「そういえば、アラタ殿の世界では長距離の移動手段が発達しているという話でしたね。こちらの世界では移動は基本徒歩になります。馬車を借りる事もできますが、返却も必要ですし、費用も掛かります。王都周辺では乗合馬車が通ってますが、この辺には通ってませんね」
徒歩確定のようだ。
「サーナ殿が乗ってきた馬車はありますが、我々の荷物を積む許可を頂いたので、人が乗るスペースはないかと」
「私はお三方と行動を共にしたいと考えておりますが、よろしいでしょうか?」
サーナさんは、騎士団ではなく俺達と共に移動するつもりのようだ。
「徒歩ですが、大丈夫ですか?」
「シスターですから」
サーナさんに確認すると、笑顔でそう返された。
徒歩移動とシスターにどんな関係があるのかわからないが、断る理由もないので了承する。
「今日は隣の村を超え、その先にある村の外で野営となります。日没までには野営地点となる村に到着予定です」
ロイさんの説明は続く。
王都までの移動日程は、何事も無ければ徒歩六日。
途中で二ヵ所は宿がある町を経由するので、その町では野営を選ぶか宿を取るかの判断は俺達の自由らしい。隊員さん達はフルに野営だそうだ。
「多少距離を取るとは言っても、一切近付くなというわけではないので、何かあればその都度聞きにきていただいても構いません。皆様の後ろにも何人か隊員を配置しますので、彼らに伝えてもいいですし」
俺たちの前後を騎士団が挟む形で移動する事になっている。
普通に騎士団に紛れ込んでもいいような気がする。
「これくらいですかね? では村長殿、我々はそろそろ出発します。後の事はよろしくお願いいたします」
「おう。先輩によろしく伝えておいてくれ。俺も落ち着いたら行くからよ」
「第五小隊隊員注目!」
ロイさんが声を上げると、談笑を止め、一斉に声の主の方を向き背筋を伸ばす隊員さん達。
改めて騎士団なんだなあと実感する。
「我々はこれより王都に帰還する! 各自配置につくように!」
隊員さん達は談笑していた村の住民に別れを告げ、それぞれ配置につく。
そして、全員が村の方を向く。
「礼!」
『お世話になりました!』
一糸乱れぬ動きで頭を下げ、感謝の念を伝える。
「直れ! それでは出発する!」
隊員さん達は住民から拍手と歓声で送り出された。
「さて、それじゃアタシ達もそろそろ行きましょうか」
「そうだね。それじゃ、シュルーケルさん行ってくるよ」
「おう。道中気を付けてな。俺もそのうち王都に行くからその時にまた会うだろ」
「お母さんにも伝えておくわ」
「そうしてくれ」
家族のやり取りが終わった頃合いを見計らい、サーナさんが口を開く。
「シュルーケル様、並びにマノト村の皆様には大変良くしていただきました。改めてお礼申し上げます。一刻も早い村の復興を心よりお祈りいたします」
この村の名前を聞いたのは初めてかもしれない。
そうか。マノト村っていうのか。
「サーナ殿には自警団の団員も助けていただきましたし、こちらこそ感謝しています。本当に助かりました」
「私は私の役割を果たしただけですから」
二人が会話しているところを眺めていると、住民達が少し騒がしくなった。
何事かと思い、周囲を見渡すと、一人の青年がこちらに近づいてきた。
「あ、あの……。サーナさんには命を救ってもらい感謝していまふ」
あ、噛んだ。
噛む前から赤みを帯びていた青年の顔は、自分が噛んだと気づいた瞬間さらに赤くなった。
「お気になさらないでください。あなたが無事、日常生活を送れるようになったのはあなたが生きたいと強く願ったからなのですから。私はそのお手伝いをしたに過ぎません」
「そ、それでも感謝しています。ありがとうございました!」
そう言って青年は頭を下げる。
これは、アレだよね。
さすがに俺でもわかる。
ミリーリアとセレイナも状況を理解したのか、興味津々といった様子だ。
「感謝の気持ち、確かに受け取りました。もしも困っている方を見かけたら、今度はあなたがその方に出来る範囲で構わないので手を差し伸べてあげてください。きっとその方も救われるはずです」
サーナさんは微笑み、青年にそう返した。
うーむ、これは嚙み合っているようで嚙み合っていないのか?
もどかしい。
「あの……。いえ、そうですね。サーナさんに救っていただいた事、そして教えていただいた心構え忘れません。旅の安全を祈ってます」
「はい。ありがとうございます。私も皆様の安全と健康をお祈りいたします」
そう言って、青年は仲間たちの下へと戻って行った。
甘酸っぱい……。
「それじゃ、改めて私たちも出発……していいんだよね?」
「そうね……」
「いいのか……いいんだろうなあ。それじゃ行きますか」
「はい。皆様よろしくお願いします」
何とも言えない表情の俺達三人と、青年の気持ちに気付いていないサーナさん。
そんな四人で王都へと向かう。
「あ、先に行ってて。すぐ追い付くから」
シュルーケルさんに挨拶してなかった。
慌てて戻る俺。
「おいおい、いきなり忘れ物か? しっかりしろよ」
すぐに戻って来た俺を見たシュルーケルさんは呆れ顔だ。
「シュルーケルさんにまだお礼を言ってないなーと思いまして。タイミングを逃したと言いますか……」
チラっと青年が居た方に視線を移す。
彼はジッとサーナさんの方を見つめている。
「なんつーか律儀だなあ。別に今生の別れでもあるまいし。どうせ俺もすぐに王都に行くんだからその時でもいいだろ」
「そうかもしれませんけどね。それでもありがとうございました! お世話になりました! 王都でも頑張ります!」
俺はシュルーケルさんに感謝の気持ちを伝える。
「おう。アラタも気を付けろよ。二人の事は頼んだぞ」
「まだまだ二人には頼りっぱなしになりそうですけどね。精一杯出来る事はやりますよ」
「それでいいさ」
「ではまた」
「おう、またな」
こうして俺は村を後にし、小走りで三人の下へ向かった。




