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第01話 出発準備

 覚束ない足取りで、全身が土で汚れた一人の少女が森をさ迷っている。

 

 ポニーテールだったエメラルドグリーンの髪は、縛るものを失い見る影もない。

 身に纏っていた純白の鎧も、無数の擦り傷によって光沢を失っている。

 髪色と同じエメラルドグリーンの瞳は充血し、焦点は定まっていない。


 どれ程の間歩いていたのか、もはや定かではない。


 宛てもなくさ迷っていた彼女の尖った長い耳に、遠くから滝の音が届く。

 朦朧とする意識の中、音に吸い寄せられるように彼女は滝へと向かう。



 魔物の群れと交戦し、敗北を悟った彼女は隊長としての責任から、自ら殿(しんがり)を務めた。


 せめて部下だけは無事に逃がす。

 この異常事態を誰かが国へ伝えねば。

 守りが得意な自分なら、時間を稼ぎつつ頃合いを見計らい、離脱する事も可能だろう。


 彼女はそう考えていた。



 時間を稼ぐことは出来た。

 しかし、自らの離脱は叶わなかった。


 ただそれだけ。


 川の水を口に含んだ少女は、自らの身に起きた出来事を振り返る。


 陶器の様に白い頬を、涙が伝う。

 

 騎士としての誇りも、己の尊厳も木端微塵に砕け散った。


 魔物に囲まれ、もう最期であると覚悟した。

 しかし自分は生かされた。


「…………」


 生かされた理由。

 思い当たる節は一つしか浮かばなかった。


 水を口に含んだことで、彼女には思考する余裕が生まれた。

 いや、生まれてしまった。


 涙が止まらない。

 少し遠くから響く水の音に、彼女が鼻をすする音が紛れ込む。


 彼女は立ち上がり、川の流れに沿ってふらつく足取りで歩を進める。


 耳に届く滝の音はどんどん大きくなっていく。


 足は止まらない。


 川は滝に。

 地面は崖に。


 その姿が変わる位置まで彼女は到達した。


 さらに足は進む。

 進む、進む。


 これ以上足が進まなくなり、浮遊感に包まれた時、彼女の意識は途絶えた。



 ◆



 一夜明け、朝食を取った俺たちは各自移動の準備をしている。


 準備とはいっても、俺はシュルーケルさんから借りる魔道具の説明を受けているだけだ。


 居間で説明を受けているのだが、出てくる出てくるファンタジーアイテムの数々。


 薬として、飲んでヨシかけてヨシの傷を癒すポーション。


 水を補充しなくても、生成してくれる水筒。

 これらを重さや体積を感じさせず収納できる『魔法袋』が縫い付けられた、俺の膝まで長さがある漆黒のマント。

 この魔法袋は、体積が約一立方メートルまで収納できるらしい。


 これらの魔道具は、魔石と呼ばれる電池の様なもので動力を確保するらしい。

 

 マントを身に纏い、鏡の前で自分の姿を確認する。


 うん、悪くない。

 むしろ凄くいいんじゃないかな?


 元の世界でこんな格好をしていたら、生暖かい目で見守られる事間違いなしだが、ここは異世界。

 実用性があれば、見た目なんて問題にならないはずだ。

 

「似合ってるじゃねーか。魔法袋もついてるし、さらに防御面もそこそこの性能だぜ」


 このマントは魔物の素材でできているらしく、元の魔物の特性を引き継いでいるそうだ。

 衝撃を吸収し、耐熱性に優れているらしい。


 ……そんな魔物が存在してるんですか。

 そして、このマントのお値段が気になります。


「そんな昔の事は覚えてねーな」


 シュルーケルさんはカッコイイ事を言っているが、かなり貴重な品ではなかろうか。

 使い潰しても気にするなと言われても、使い潰すという事はそれだけ危険な目に合うわけで……。


「お? アラタは準備万端って感じだねー。似合ってるじゃん!」


 声がした方を確認すると、学園の制服に身を包んだミリーリアの姿が確認できた。


 紺色のブレザーに第一ボタンを開けた白いブラウス。

 赤と黒のチェックのスカートからは膝がギリギリ見えるか見えないか。

 ポーチを肩から掛け、手には襲撃事件の際に見たオシャレな棒。


 普段着姿しか知らなかった俺には、彼女の姿は新鮮に映った。


「どう? 似合う?」


 しばらく眺めていると、しびれを切らしたのかミリーリアに感想を求められた。

 

「似合ってるんじゃないかな? 学生って感じがするな」

「そっかー」


 何故かミリーリアは少し不満そうだった。


「あら? アタシが最後なのね。二人とも、もう準備は出来てるみたいね」

 

 少し遅れて、準備が出来たセレイナも居間にやってきた。


 服装は同じだが、着こなし方が違っていた。


 ブラウスは第二ボタンまで開けている。

 そして、太ももが少し見えるミニスカート。

 弓を背負い、腰には矢筒のようなもの。


 ミリーリアの着こなし方が教科書通りだとするならば、セレイナはファッションに拘りがある学生といった感じだろうか。


「お、いいじゃん。二人とも制服姿似合ってるじゃん」

「そ? ありがと。座学の時と移動時は制服着用なのよね。動きにくいし好きじゃないんだけどね」

「さすがに制服で戦闘ってのも無理だろうしな」

「それでも最低限の防御力はあるのよね」


 聞くところによると、二人の通う学園の制服も、俺が借りたマント程ではないがそこそこの機能を備えているらしい。

 

「よし、そろそろいいか? それじゃ行く前に報酬を渡しておく」


 そう言って、シュルーケルさんは俺達に布袋を渡してきた。

 袋の中には金色の硬貨が一枚と銀色の硬貨が十枚入っていた。


 中身を確認した二人が特に何も言わないところをみると、昨日の狼退治の報酬として適正なのだろう。

 なのでありがたく受け取る事にした。


 家を出ると、日差しは強いがそれ程暑さを感じない、過ごしやすい気温だった。

 絶好の旅立ち日和だ。


 俺達四人は、騎士団の隊員さん達が待つ村の外へ向かった。

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