第32話 手応え
検証を終えたところで、今日の訓練は終了となった。
明日から、王都と呼ばれる地への移動が始まるので疲れを残さないためらしい。
「アラタをあっちでどう過ごさせるかだが……」
シュルーケルさんがそう切り出す。
どう過ごさせるも何も、二人と一緒に学園の寮で過ごすのでは?
「人型の使い魔としてか? それとも外部の一般人としてか?」
そうなるのか。どちらの選択肢も現実的ではなさそうだ。
それで今日はサーナさんも呼んだのか。
「お母さんの所でいいんじゃない?」
セレイナさんは何を言い出すんだ。
一瞬、シュルーケルさんの眉間に皺が寄った気がするが見なかったことにしよう。
「それは最後の手段だな」
ですよね。
気まずいなんてもんじゃない。
「住む場所でしたら、教会で手配できます。司祭様に手紙を送ったところ、返信がありました」
サーナさんによると、司祭と呼ばれている人は協力してくれるらしい。
俺という使い魔がどういう存在であるかを見極めた上で、という条件がつくが。
「では、王都に着いたら真っ先に教会へ向かうという事ですかね?」
「そうしていただけると助かります。皆様もそれでよろしいでしょうか?」
全員が頷く。
「アラタ、他に聞いておきたい事はないか?」
聞きたい事、というより、確認しておくべきことがある。
「生活費はどうやって稼げばいいのでしょうか?」
この世界に来てからは、ずっとシュルーケルさんにお世話になりっぱなしだった。
しかし、王都ではそうはいかないだろう。
隊員さん達の話によれば、学生であっても自活しているとの事だった。
そう考えると俺も何かしらの仕事をしないといけないだろう。
「俺が出すから気にしないでいいぞ?」
「シュルーケルさんの気持ちはありがたいのですが、この世界で過ごす以上、自分の事は自分でやってみたいと思いまして」
「そうは言っても俺が出すのが筋ってもんだ。アラタは気にするな」
シュルーケルさんは本当に俺の事を気遣ってくれている。
しかし、受け取るわけにはいかない。
ミリーリアとセレイナの話を聞いた限り、シュルーケルさんは元トップクラスの冒険者なので蓄えもあるのだろう。
俺の生活を支援しても懐は痛まないのかもしれない。
受け取れば俺の心配事は一つ減る。
ただ、受け取ればミリーリアとセレイナにも間接的にとは言え還元されるという事になる。
この二人とパーティーを組み、課題とやらをクリアすると考えた時、果たしてそれでいいのだろうか?
俺のちっぽけな意地なのか、プライドなのか。
それを満たすために、わざわざ困難な道を歩もうとしている自覚もある。
それでも、元の世界へ戻るとき、この世界で頑張ったと胸を張って言える自分でありたい。
そんな思いが俺に芽生えている。
「冒険者は自己責任って聞きますし、甘えてばかりもいられないと思うんですよね」
「はぁ……そうかよ。俺が使ってた物で、使えそうな物だけは持っていけ。これは譲らねーぞ」
俺の意思は固いとふんだのか、シュルーケルさんにそう提案された。
何も持たずに二人とパーティーを組めば、俺は足手まといになるか。
ままならないものだ。
「そうさせてもらいます」
俺はシュルーケルさんの提案を受け入れた。
「後は騎士団の方か……。サーナさん、アラタに用事があれば教会に行けば?」
「はい。当面は教会がアラタ様との窓口になるかと」
「俺はしばらく村に残って後から向かうからよ、先輩の所に行くのは俺が着いてからだな」
どんどん予定が決まっていく。
「わかりました。団長にもそう伝えておきます」
「任せた」
「アタシたちも王都についてすぐに寮で生活するってわけじゃないし、教会にも顔を出すわ」
セレイナとミリーリアは学園が始まるまで母親と一緒に過ごすようだ。
「よし、明日出立だし、今日はこの辺にしておくか」
シュルーケルさんの号令で、今日は解散となった。
集会所へ向かうロイさんとサーナさんと別れ、俺たちは家へと戻って来た。
「明日から体力使うんだ。今日は早く寝ろよ」
そう言い残し、シュルーケルさんは俺に貸し出す物を探しに納屋へ向かった。
「何かあっという間に決まったな」
「確認的な意味合いが大きかったしね」
「いよいよだね」
俺たちは今日あった出来事を振り返る。
「それにしても……」
セレイナは何かを思い出したのか、笑みを浮かべる。
「あの時のお父さんの顔見た? あんな顔、アタシ初めて見たわよ」
「“イッセキニニチョウ”と“ニトヲオウモノハイットヲモエズ”使った時だよね? 私も初めて見たかも!」
獰猛な笑みでしたが?
「戦うときに、あんな楽しそうな顔をしたシュルーケルさんなんて見た事なかったよ! 私たち、認められたのかな?」
「どうかしらね? ミリーの【コトワザ】のせいで思うように動けなかったのが新鮮だったって可能性もあるわよね」
「でも、セッちゃんと稽古してる時はあんな顔した事なかったよね?」
「そうなのよね。そう考えるとちょっと悔しいのよね」
俺は二人の会話に口をはさむことなく、黙って見守る事にした。
「もしかして、自分の力だけで認められたかった?」
「どうなのかしら? それに越したことはないのだけれど、アタシ一人で出来る事なんてたかが知れてるわ。そう考えると、やっぱりミリーの協力は必要になるのよね」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
「アタシの方こそ、頼りにしてるわよ」
長い間共に過ごしてきた二人には、二人の想いがあるのだろう。
その手助けが出来たと考えると感慨深いものがある。
「それにさ──」
ミリーリアが指に輝く指輪を見つめる。
「アラタもパーティーに加わってくれたし、私たちはもっともっと強くなれると思うんだ」
俺は自分の右指に嵌っている指輪に一度視線を向ける。
「だからさ、これからもよろしくね!」
会議室で見た、自身の無力さに悲観する少女はもういない。
俺の目の前にいる薄桃色の髪の少女からは、不安の色は一切見えない。
「当然よ。こっちこそよろしく」
茶髪の少女も同じ気持ちのようだ。
二人の視線が俺に集まる。
「俺も最大限、協力するさ」
「アラタは少し自重しなさい。アンタの【コトワザ】はデタラメなのよ」
「セッちゃんの言う事は気にしないで。これからも色々教えてください。よろしくお願いします、アラタ先生!」
──上手くやっていけそうだな。
俺はこれから待っている冒険に胸を躍らせるのだった。
これにて第一章終了です。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
第二章一話目は4月26日(月)10時投稿予定です。
引き続き、お楽しみいただければ幸いです。




