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第30話 共犯

 俺にとっては隊員さん達の野営地点というより、訓練場所としてなじみ深くなった村外れの一画は、普段と様子が違っていた。

 いつもは声を控えめに談笑している隊員さん達の姿が見当たらない。


「先輩のご厚意で会議室で盛り上がってるはずです。酒も振舞われていましたが、明日からの行軍に影響はないでしょう」


 俺たちは明日、王都へと向かう。

 しっかり休んでもらうために今日は集会所で一晩過ごすようだ。

 

 この宴会には村の住民も参加しているらしい。

 元々は騎士団の不手際で襲撃事件が起こったとの話だが、ロイさん達は村と畑を守ってくれた。その上、復旧作業にも手を貸してくれたので、むしろ感謝されているそうだ。

 

 隊員さん達がいない代わりに、という訳ではないのだろうが、今日はサーナさんがいる。


「本日はお招きいただきありがとうございます。明日以降の予定のすり合わせがあると伺っております。その前に色々と私にも確認してほしい事柄があるのだとか」


 そう言ってサーナさんは微笑み、確認するって何をかしら、といった感じで辺りを見渡す。


「時間も限られてる事だし、さっさと戦おう(やろう)ぜ」


 今日、この状況をセッティングしたシュルーケルさんはワクワクが抑えきれないといった表情だ。

 

「先輩……サーナ殿に説明してなかったんですね……」

「お前もだけど、実際に見た方が早いはずだ」

「それ程ですか」

「おう。期待は裏切らないぜ?」


 ロイさんは困惑した表情を浮かべている。

 

「シュルーケルさん、俺たちはどうすれば?」

「そうだな。セレイナとミリーリアの『アレ』をお披露目と行こうか。アラタはそこで見てろ」

「わかったわ」

「はーい」

「了解です」


 『アレ』とは【一石二鳥】の事だろう。

 俺はサーナさんの隣に立ち、成り行きを見守る事にした。


「何か準備は必要ですか?」

「そうね……。ロイさんにはこの指輪を装着してもらおうかしら」


 そう言ってセレイナはロイさんに指輪を渡す。


「へぇ、そう。セレイナちゃんは俺に矢を当てる自信がある、と」


 あれ?

 指輪を渡されたロイさんが不敵な笑みを浮かべている。


「そうじゃなくて、人を相手に使うのは初めてだから、念のためよ」

「念のためでも備える必要がある、と。楽しみですね先輩」

「だろ?」


 なぜかロイさんのハートに火が付いたようだ。

 ロイさんは違うタイプの人だと思ってたんだけどなー。


「あれ? 先輩は指輪してませんね」

「そんなもんいらねーだろ」

「そうですか。そうですよね」


 そう言ってロイさんはセレイナに指輪を返す。

 返されたセレイナは指輪とロイさんを交互に見て、諦めたような表情をしながら指輪をケースにしまった。


「こんなもんか?」

「そうね。問題ないと思うわ」


 素手のシュルーケルさんと、少し離れた位置で両手で真剣を持ち、戦闘態勢を整えたロイさん。

 そしてある程度距離を取り、対峙するセレイナとミリーリア。


「いつでもいいぞ」


 緊張感を一切感じない、軽い口調でシュルーケルさんが合図を送る。


「【イッセキニチョウ】!」


 ミリーリアの【コトワザ】を受けたセレイナがシュルーケルさん目掛けて矢を放つ。

 矢は一直線にシュルーケルさんに向かう。


 本当に受ける気なのかよ!


 そう思えるほどギリギリの距離まで矢が達した時、シュルーケルさんは無造作に、左腕を外に向けて高速で払う。


 矢は逸れ、そのまま一直線にロイさんの方へ向かう。


 ロイさんは両手で握った剣の側面をその軌道上に置き、矢が触れる寸前に地面に向かって振り下ろす。


 

 カツン、と矢が地面に触れる音がした。



 シュルーケルさんは自身の左手の甲の状態を確認している。

 ロイさんは地面に落ちた矢と、シュルーケルさんの方を交互に見ている。


 攻撃側の二人はそうだよねといった感じで落ち込んでいる様子はなさそうだった。


「先輩、これがどうかしました?」


 ああ、なるほど。

 ロイさんからすれば、セレイナが放った矢をシュルーケルさんが弾き、流れ弾が到達したようにしか見えないのか。


「わりーわりー、俺のミスだな。セレイナ、ミリーリア、もう一発行けるか?」

「アタシはいけるわよ」


 シュルーケルさんは左手首をプラプラさせながら二人に確認を取る。


 その様子に気付いたミリーリアは、シュルーケルさんの下へ近づき【イタイノイタイノトンデイケ】をかけ、元の位置へと戻る。

 

「いつでもいいよー」


「さあ来い!」


 シュルーケルさんの声色がさっきと少し違う。


「【イッセキニチョウ】」


 そして再び矢が放たれる。


 先程の軌道をなぞるように、矢はシュルーケルさんの下へ向かって行く。


 そしてシュルーケルさんは今度は右腕を外へ向かって払う。


 誰もいない所へ弾かれた矢は、弧を描くようにその軌道を変え、ロイさんの方へ向かって行く。


 少し驚いた様子のロイさんだったが、さすがは隊長といったところか。

 一発目と同じように剣を振り、矢を地面に叩きつける。


 

 地面に接触した矢が音を立てる。



 一瞬の静寂。


 最初に口を開いたのはロイさんだった。


「これが先輩が見てもらいたかった事なんですね。なかなか面白い軌道でしたね」

「それだけか?」

「と、いいますと?」

「この矢はな、木を貫通して、さらに軌道を変えて隣の木に刺さる代物なんだ。矢というより、ミリーリアの【コトワザ】の効果だけどな」

「木を貫通、ですか?」

「信じられねーって顔だな。どれ、俺と立ち位置を変えてみるか。威力の警告はしたからな? 油断はするなよ? 現に初撃で俺の左手は痺れたからな」

「……わかりました」


 二人は位置を入れ替える。


「いつでもどうぞ」


 ロイさんが開始の合図を送る。

 その表情からは油断は感じられない。


 ミリーリアが【コトワザ】を唱え、セレイナが矢を放つ。そしてロイさんの元まで到達する。

 ここまでは一緒だった。


 ロイさんが剣を構え、矢を払う。


 パキン!


 は?


 ロイさんはまるで先読みしていたかのように体を捻って矢を回避する。

 

 真剣を真っ二つにした矢は、ロイさんの横を通り抜け、そのままUターンしてシュルーケルさんへと向かう。


 そしてシュルーケルさんの左手へと収まる。



 折れた剣を見つめるロイさん。

 

 矢を放ったセレイナと、【一石二鳥】をかけたミリーリアもロイさんが持つ、本来の役割を果たせなくなった剣を見つめている。


 シュルーケルさんは自身が握っている矢を見つめている。


 そっかー、剣も折るかー。

 あの剣は何でできてるんだろう?

 アルミニウムかな?

 アルミって折れるのかなー?

 シュルーケルさん矢をキャッチしたよね。

 凄いなー、憧れちゃうな―。


「だ、大丈夫なのでしょうか……」


 サーナさんの声で我に返る。


「お二人とも大丈夫ですか?」


 俺の声に気付いた四人の視線が集まる。


「ロイ、大丈夫か?」


「ロイさん怪我はない? 【イタイノイタイノトンデイケ】」

「ごめんなさい! 大丈夫?」


「心配には及びません。それにしても凄いですね。まさか折られるとは……」

「な? 人払いして正解だったろ?」


 隊員さん達がいなかったのは明日に備えてだけではなく、人払いも兼ねていたようだ。

 と、いう事は……。


「これはいきなり人前では見せられませんね。正直疑ってましたがこれなら納得です」


 やっぱり異常らしい。


「人前では見せられないって事は、使っちゃダメって事?」


 少し不安そうな表情のミリーリア。


「その辺の確認のためにサーナさんを呼んだんだ」

「私、ですか?」


 突然、シュルーケルさんに自分の名前を呼ばれて戸惑うサーナさん。


「使い魔から力を授かるみたいな事ってあったりするんですか?」


 シュルーケルさんの丁寧な口調は珍しい。


「そうですね……、無いという事は無いですね。ですが、一般的ではありません」

「あるにはあると」

「はい」

「率直にお聞きしますが、秘匿する必要はあると思いますか?」

「私の口からは何とも……申し訳ございません」

「そうですか」

「ロイはどう思う?」


 ロイさんからも確認を取る。


「そうですね、本当に難しい問題ですね。剣を折る矢の威力と軌道ですか。不可能ではないですが、相当大掛かりな仕掛けが必要になりますし、学生の身分でそれを用意できるかと問われると難しいと思います」

「そうだよなあ」


 答えが出ない三人には悪いのだが、実はもう一つ試したい事がある。

 

「おいおい、まだあるのかよ……」

「アラタ殿……」

「……」


 三人とも、そんな目で見ないでほしい……。


 百歩譲って大人三人の視線は許そう。

 だがミリーリアとセレイナ。なぜ君たちもそんな目をする!

 二人も共犯だからな!

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