表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/87

第29話 一体感

「さて、と。俺はそろそろ戻るぞ」


 シュルーケルさんはそう言って席を立つ。

 そして、玄関ではなく風呂場へ向かった。


「アラタも入っておけよ。ビッグウルフの臭いがこびりついてるぞ」


 自分の服を引っ張り臭いを嗅ぐと獣臭が。

 予想以上に強烈でむせ返ってしまった。



 臭いを落としたシュルーケルさんは畑へと戻って行った。


「俺も入ってくる。上がったら訓練の事を少し考えるか」

「いってらっしゃーい」

「わかったわ。お父さんのあの様子だと、ミリーの【コトワザ】込みでアタシの矢を受けるつもりだと思うのよね」


 セレイナも気づいていたようだ。


「だよなあ。大丈夫だと思う?」

「アタシの矢が当たったことは一度もないのよね……」

「……。風呂入ってくる」

「いってらっしゃい」


 心配はいらないようだ。



 風呂場に来たが、風呂は沸いていなかった。

 水で体を洗う。


 冷たい水が俺の身体と頭を冷やしてくれる。

 

 これが実践か。

 体は動いた。

 動いたのだが、ただそれだけだ。

 今のままじゃ、囮としてしか役立てない。

 いや、囮としても役立てるかどうか。


 攻撃手段……か。


 攻撃するということは、命を奪うという事。

 俺に出来るのだろうか。


 セレイナはためらいもなくあの狼の命を奪っていた。

 この世界で生きるという事はそういう事なのだろう。


 ミリーリアも戦闘経験があると言っていた。

 ならば彼女も命を奪う事を経験しているのだろう。


 ふう……攻撃手段、か……。


 背中に感じた狼の体温を忘れるべく、頭から水を被り風呂場を後にした。



 俺が風呂から上がると、二人は対シュルーケルさん用の作戦を練っていた。

 俺も混ざる事にする。


「おかえり。今ミリーと話してたんだけど、どうしても一撃入れるイメージが湧かないのよね」

「私が思うには、シュルーケルさんは強すぎるんだよ。出会ったら逃げる相手ナンバーワンだよ。でも、せっかくなんだから、私たちがしっかり戦えるってシュルーケルさんには体感してもらいたいよね」


 セレイナさんや、あなたは何を考えているんですかね?

 胸を借りるどころか一撃入れるつもりって……。


 そしてミリーリア。

 それは誰もが知っている。俺も間違いなく逃げる。


 二人はシュルーケルさんとの戦力差を嫌という程理解しているのだろう。

 それでもさらに上を目指すため、自分に出来る事を考えている。


「俺がシュルーケルさんを止めて、その間に二人が攻撃する? 止められるのか? あの人を」

「こう言っちゃ悪いけど、素通りよね」

「うん。間違いなく……」


 俺もそう思う。


「もしも俺がシュルーケルさんを捕まえたら、【一石二鳥】で俺ごと──」

『却下!!』

「冗談だよ」


 二人に凄い形相で同時に拒否された。

 

 空気を変えようと思っての冗談だったのだが、不評だった。


「そういえば、誤射についての話の途中だったわよね。はいこれ。渡しておくわ」


 何かそんな話をしていた気がする。

 狼の乱入ですっかり忘れていた。


「指輪か?」

「そ。高いんだから、なくさないでよね」


 そうか。指輪をプレゼントされてしまったか。

 困ったなー。

 どうやら溢れる魅力ってのは俺の意思では隠せないらしい。


「その指輪とアタシが戦闘で使う矢はセットになっている魔道具で、指輪を装備している人には矢が刺さらなくなるの。これが誤射の心配はないって断言した理由ね」


 あ、はい。

 そうですか。

 わかってましたとも。


 ん?

 そんな指輪、今初めて見たんだが。

 そうするとさっきまでは……。


「あのね、この指輪は保険よ、保険。指輪の補助なしで獲物に狙いを定められないようなら、弓使いを名乗る資格なんてないわよ」


 あくまでも保険らしい。

 言われてみればそうか。

 指輪に頼る必要がない腕をもっているのが大前提で、それでも万が一の事故防止のための指輪なのだろう。


「私も借りてるんだよ」


 そう言って、ミリーリアも指輪を見せてくれた。


「ねーねー、着けてみてよ」


 どこに着けようか。

 アクセサリーに興味がなかった俺は、どこに着けるべきか迷う。


「ほら、こうやって着けたらサイズも自動で調整されるんだよ」


 ミリーリアは自分の指に指輪を着け、実演してくれた。


「こうか?」


 俺はミリーリアと同じ、右手の人差し指に指輪を装着する。

 ゆとりがあった指輪は、俺に指にピッタリと合うように輪の大きさを変えた。


「見せて見せて―」


 ミリーリアにお願いされたので、手のひらを向ける。


「お揃いー」


 そう言って、ミリーリアも笑顔で俺に手のひらを見せてくる。


 何この可愛い生き物。


「セッちゃんは?」

「アタシが着けてどうするのよ。人数分しかないんだから無駄にできないの」

「えー、いいじゃんいいじゃん。今だけ今だけ」

「はあ……しょうがないわね」


 そう言ってセレイナは指輪を人差し指に嵌める。


「お揃いの物を身に着けてるとパーティーって感じがしていいよねー」

 

 ミリーリアは本当に嬉しそうだ。


「そうね」


 セレイナも満更ではなさそうだ。


「ねぇねぇ、アラタもそう思うよね?」

「ああ。悪くないな」


 パーティーって感じ、か。

 ミリーリアの発言にどんな想いが込められているかは俺にはわからない。

 学園で彼女がパーティーを組めなかったという境遇は聞かされている。

 

 ──期待に応えなきゃな。


 これから行動を共にするパーティーメンバーにカッコ悪い所は見せられない。

 そう考えるとこの指輪は俺の身を守るだけではなく、内に秘めた想いを強く自覚させてくれる、そういう効果もあるような気がした。


「次の敵はシュルーケルさんだね! 頑張ろう!」


 ミリーリアの発言で俺の決意は霧散した。

 台無しだよ……。


「はあ、本当に……」


 セレイナも苦労してるんだなあ。


「アラタ、何かいい【コトワザ】ない? シュルーケルさんが動けなくなるようなのがあれば最高かな?」


 そんな都合のいい【諺】があってたまるか!


「ねーよ! あるかもしれないけどすぐには思いつかねーよ!」

「あるかもしれないのね……」

「いや、言葉の綾だ。かなり動揺してて自分でも何を言ってるのかわからん」

「そう、それなら安心? してもいいのかしら……。アラタの【コトワザ】はデタラメなのよね……」


 何かを思い出したセレイナは、疑うような目で俺を見てくる。


「こうしていても何も始まらないし、庭で動きでも合わせないか?」

「そうしましょうか」

「賛成ー」



 俺はやらかしたのだろうか?


 いや、俺は悪くない。

 だって、『【コトワザ】集』に書いてあったんだもん!


 ……。

 多少現実逃避するのは許してほしい。

 

 セレイナのどこか冷めたような、それでいて呆れたような視線が俺の心を抉る。

 今回は効果を実感できなかったミリーリアは、よくわかっていないようだ。


「はぁ……、ホントにもう……」


 セレイナさん、俺も同じ気持ちです。


「ま、まあ一度きりとはいえ、切り札にはなるんじゃないか?」

「切り札どころか……もういいわ。考えるのは止めましょう」


 その後も最低限の動き方の確認をし、シュルーケルさんが帰宅するのを待つことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ