第28話 不足
「怪我はなさそうだな」
木から飛び降りたシュルーケルさんは、俺たちを見渡し、そう言った。
「ちょっと! 見てたなら教えてよ!」
セレイナがシュルーケルさんに食って掛かる。
「あん? 索敵はオメーの仕事だろ? アレくらい気づけ」
「……」
悔しさからなのだろうか。
セレイナは拳を握り、肩を震わせている。
「ま、詳しい話は家に帰ってからだな」
そう言ってシュルーケルさんは二匹の狼をヒョイヒョイっと担ぎ、歩き出した。
その狼、すっごく重かったんですが……。
家に戻る途中、隊員さん達の野営地点に寄り、二匹の狼を引き渡した。
ロイさんは四人で倒したと思っていたようだが、シュルーケルさんは一切手を出していない事を伝えると、微妙な表情になった。
「先輩が急いで後をつけていったから、てっきり手助けするつもりだと思っていたんですけどね……」
「まあいいじゃねーか。んじゃ、解体は任せたぞ。使えそうな素材は夜にでも持って帰るからよ」
「わかりました。夜までに終わらせておきます」
家に戻るなり、セレイナが冷たい声でシュルーケルさんに説明を求める。
「で、どういう事かしら?」
「お前たちが狼狩りに行くのを見かけて、気になったから後をつけただけだぜ」
狼狩りに行った記憶はないんですが?
「シュルーケルさんは、ビッグウルフが近くにいる事を知ってたの?」
「あの時二匹逃げただろ? ロイの所の隊員が交代で探してはいたな」
「ちょっと、アタシそんな話知らないんだけど」
「私も知らなかった。村のみんなは知ってるの?」
「まだ危険だから、しばらくは森に入るなとは伝えてあるぞ」
「どうしてそんな大切な事をアタシたちには伝えないわけ?」
「お前たちは冒険者を目指してるんだろ? それくらい考えろ。森は危険です、入らないでください、って言われて、はいそーですか、で終わるな」
セレイナとミリーリアは俯いている。
「ダンジョンでモンスターを狩るだけが冒険者じゃねーんだぞ。依頼なんて色々あるんだ。今回はビッグウルフが二匹逃げている。コイツらがどんな動きをするかまで考えて、対策を練るところまでが冒険者の仕事だ」
村の護衛依頼を受け、目に見える敵を倒しても討ち漏らしが出たら成功とは言えない。それどころか、本当に見えている敵で全てなのか、別動隊はいないのかまで考えねば本当に依頼を達成したとは言えない。
冒険者とは依頼主の依頼に完璧に応えてこそなのだとシュルーケルさんは示してくれている。
「と、まあ説教はこの辺にしておくか。予定ではこんな事言うつもりじゃなかったんだけどな」
しんみりとした空気を変えるべく、シュルーケルさんは俺たちの戦闘を見た感想を伝えてくれた。
「まずはセレイナ。接敵に気付かなかったとはいえ、リカバリーは悪くなかった。一発でキッチリ二匹仕留めたのも……アレについては後回しだな。まぁ、キッチリ仕留めたのは良い仕事と言ってもいいな」
セレイナは複雑そうな顔をしている。
先程までの心構えの甘さを指摘されたのが残っているが、戦闘内容は褒められたので喜びたい。そんな表情だ。
「で、ミリーリアは……何かやってただろ? 木を貫通させて隣の木に刺さる矢なんて見た事ないぞ?」
「アラタに新しい【コトワザ】を教えてもらったから、試すのに森に入ったんだ」
「庭にある的はそういう事か。物足りなくて森に入ったと。本当に狼狩りが目的じゃなかったんだな」
狼狩りで森に入るのは普通の事なのだろうか?
わからん。
「話を戻すか。二匹目が割り込んで来たのにも気づいたし、声掛けも良かった。あそこでアラタの名前だけ呼んだら、固まって直撃だった可能性もあるからな」
あー、思い返せば「伏せて」って言われたかも。
名前だけ呼ばれたら振り返ってたかもしれない。
声掛けは内容も大切なのか。覚えておこう。
「木をきっちり遮蔽物として使えていたし、その辺も考えていたみたいだな。ただ、あの程度の木なら体当たりでへし折ってくる可能性もあるから油断はするなよ。あのビッグウルフなら……どうだろうな? あの木は折れねーか」
ミリーリアの頬は若干緩んでいる。
ほぼ完璧と言ってもいい評価だったのでその気持ちがわかる。
「で、最後にアラタだな」
いよいよ俺の番か。
「初の実戦になるのか? 体も動いていたし、前衛として崩れなかったのは評価できるな。周りの声も聞こえてたみたいだし、後は慣れだな」
少し甘口の評価に感じる。
なので、改善点を聞いてみる事にした。
「ありがとうございます。必死だったので良く覚えていないのですが、ここはこうしろっていう所ってありませんでしたか?」
シュルーケルさんは少し考えた後、口を開く。
「あるといえばあるんだが……。聞きたいのか?」
「今後のために是非」
「そうだな、色々言い過ぎても消化しきれないだろ? 一つだけ伝えておく」
俺は黙ってシュルーケルさんの言葉に耳を傾ける。
「攻撃しろ。ただ受けてるだけだと敵には脅威とみなされない。前衛を引き受けるからには注目を集めろ。後衛に攻撃が届かないように守り切る前衛っていうのもあるが、今のアラタには無理だ」
なるほど。
攻撃手段がないと思われたら俺を後回しにして二人に攻撃が行くと。
「わかりました。考えておきます」
「当てはあるのか?」
攻撃手段……。
無い……。
「考えるだけじゃ駄目だ。自分に何が出来て、何が出来ないのか。まずはそれを知るところからだ。王都に着いたら武器を探すのも悪くないかもな。俺が剣を買った所を教えておくから寄ってみろ」
「ありがとうございます」
そうか、何かしらの方法で攻撃もしないとダメだよな。
俺に出来るのだろうか。
いや、やるしかないのか。
この世界で生き残るため、そして二人と共に課題をクリアするためには俺も頑張らなければならない。
「で、セレイナのあの矢の軌道は何だったんだ? ミリーリアの【コトワザ】だってのはわかるんだけどよ」
俺が新たな決意を胸に思考にふけっていると、シュルーケルさんがワクワクといった表情で俺達に聞いてきた。
「あぁ、アレはね──」
セレイナが一通り説明する。
「ほー、そんな事になるのか。よし、夜の訓練内容は決まったな!」
嫌な予感しかしないのですが……。
いや、予感じゃない。確信したと言っても過言じゃない。
シュルーケルさん、セレイナの矢を受けるつもりですよね……。




