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第26話 的当て

 ある程度方向性も決まった。

 そして、今日は最初からセレイナもいるという事もあり、彼女にも意味がありそうな【諺】の授業を行おうと思う。


「今日試してみる【諺】は【二兎を追う者は一兎をも得ず】と【一石二鳥】。この二つを試してみようと思う」


 【二兎を追う者は一兎をも得ず】の方は、ミリーリアから預かった『【コトワザ】集』に載っていたのだが、【一石二鳥】は載っていなかった。

 【馬の耳に念仏】、【馬耳東風】は感触がイマイチだったので、【二兎を追う者は一兎をも得ず】も意味がないような気がした。

 なので、対義語という訳ではないが、【一石二鳥】も教えてみようと思ったのだ。


 昨夜のうちに授業で使えるように、既に紙に書いておいた俺に死角はない。

 

「両方ともおおよその意味はわかるわね」


 昨日、途中から参加したセレイナは暇そうにしていたので、夕方まで付き合ってもらうのは悪い気がしていたというのも理由の一つだ。


「先に説明しておくけど、一石二鳥の方はミリーとセレイナの連携用だと思ってくれ。効果があればそれなりの成果が期待できると思う。逆に二兎を追う者は一兎をも得ずはあまり期待できないかな」

「わかったよ。じゃあ、今日もよろしくお願いします!」


 もう授業の方法にも慣れてきたのか、ミリーリアは内容を理解し、昼食前にはこの二つの発声を行えるようになっていた。

 なので午後からは庭に出て、二つの【諺】の効果を検証する事になった。



「なあ、二人とも着替えないのか?」

「別に家の前だしいいじゃない」

「今日で最後だから洗い物増やすのも悪いしね」

「多少動くだろうし汚れないか?」

「そんなに激しく動く予定もないし、気にしなくてもいいわよ」


 庭に出た俺達三人は、各自準備運動を行う。


 こうして外に出て、周りの風景をゆっくり眺めるのは初めてかもしれない。

 今までは外に出ても、足を止めることなく移動していた気がする。 

 初めてこの家に来たときは周りを確認する余裕もなかった。


 そう考えると俺はこの世界の事を何も見ていなかったんだと気づく。

 こうして心を落ち着かせようとしていれば土の香りも感じられる。


 準備運動を行いながら、改めて家の周りの風景を眺めていたらセレイナに声を掛けられる。


「なにボーっとしてるのよ。準備運動は終わったのかしら?」


 後ろを振り返ると、準備運動を終えてくれていた二人が待っていた。


「それで、何から試すのかしら? 一石二鳥から?」

「そうなるかな」

「それなら的がいるわね。昔使っていた的がいくつか納屋にあるはずだから、探しに行きましょうか」


 納屋の中は色々な物が置かれていた。

 農作業で使うコートのようなもの、農作業道具、木材など。

 他にも、俺が見ても何に使うのか良く分からない道具がいろいろあった。


「うわー、散らかってるねー」

「お父さん、片付けるの苦手だもの」

「ディーファさんにバレたら大変だよね」

「自業自得よ」


 ディーファさんって誰なのだろうか?


「あぁ、アタシのお母さん。今は王都に出稼ぎに行っているわ。針子の仕事をしているの。王都に着いたら紹介するわね」

「そういえば私たちの家族の話ってしてなかったね」


 的を探しながら、二人は自分たちの事を教えてくれた。


 親同士が元冒険者で、共にパーティーを組んでいた事。

 ミリーリアの両親は既に亡くなっており、幼い頃からセレイナと共にこの家で育ってきた事。

 亡くなった母親から、【コトワザ】の基礎を学んだ事。

 母親のディーファさんは出稼ぎと言っているが、どう考えても二人の事が心配で、王都で見守るための口実である事に気付いている事など。


「教えてくれてありがとう」


 どう声を掛けたらいいのか、俺にはわからなかった。


「あ、アラタは気にしないでね。私が知ってもらいたかっただけだし。それと、私の両親は冒険者として命を落とした訳じゃないから安心してね」


 ミリーリアは続ける。


「私が学園に通って、冒険者を目指している理由は、父さんと母さんが見た景色を見てみたいからなんだ。あんまり覚えていないんだけど、寝る前に聞かせてくれた冒険者時代のお話がすっごく魅力的に感じてさ。私もいつか冒険するんだ! ってその頃から思ってたの」


 ミリーリアが冒険者を目指す理由。

 それがはっきりとわかった。


「アタシはお父さんの影響かしら? 見ての通り、あんなお父さんでしょ? 他にやりたい事が思いつかなかったっていうのもあるわね」


 セレイナの気持ちも何かわかる気がする。

 冒険者というのが珍しいのかはわからないが、両親が元冒険者なら目指してみたくもなるだろう。


 こうして事情を知ると、俺が死なないって伝えた時のミリーリアの反応が理解出来てしまう。

 何か思う所があったのかもしれない。

 

 知らなかったとは言え、少し安易過ぎたと思う。

 そして、俺は絶対に死なないようにしようと決意する。

 

「あったわ。あそこね」



 的を三つ横に並べて設置した俺たちは、【一石二鳥】の検証を行う。


「【イッセキニチョウ】!」


 ミリーリアが【コトワザ】を唱え、セレイナが的を狙って矢を放つ。


 矢は一つ目の的を貫通し、Uターンして裏から隣の的に突き刺さる。


『は?』

「え?」


 俺達三人は、傍から見れば物凄く間抜けな顔をしているだろう。


「ちょ、ちょっと! 何よコレ? どうなってるのよ?」

「し、知らないよ! セッちゃん強くなった?」

「強くなったとかいう次元じゃないわよコレ!」


 一つの石で二羽の鳥を捕える。

 石なら跳弾で二羽に当たる事もあるだろう。


 では、矢なら……。


 こうなるのか……。

 そりゃ矢が刺さったら跳ね返ることはないから、同時に二羽捕えるためにこうなるのはわかるのだが……。


 俺は試しに手頃な石を投げてみる。

 普通に的の中心部に当たった。狙い通りの場所だった。


 ミリーリアに【一石二鳥】をかけてもらい、再び同じ場所を狙って投げる。

 今度は一つ目の的の隅に当たり、そのまま跳ね返って隣の的の側面に当たる。

 そんな所を狙ったつもりはない。


 再び石を的の中心部目掛けて投げる。

 的の中心に当たるだけだった。

 

 効果は一度きりのようだ。


「魔法? っていうのかな? 同じことを再現する方法ってあったりする?」


 返ってきた答えは聞いたことがないというものだった。

 

 矢の威力を上げる魔法はあるにはあるのだが、より深く突き刺さるようになるというのが普通らしい。

 熟練の魔法使いが使う、あるいは弓の使い手、矢じりの性能によってはこの的程度なら貫通させる事はできるかもしれないとの事だった。


 Uターンして戻って来た点に関しては、風魔法というものを使えば再現できる可能性はあるが、そんな事をするくらいなら魔法で直接攻撃した方が効果的だと言われた。


 さらに検証を進めと、他にもわかったことがある。

 

 まず、放つ前に【一石二鳥】をかけないと効果がない事。

 タイミングを合わせれば、クールタイムのようなものもなく連発出来る事。

 【二階から目薬】と重複してかけられる事。

 

 これらの事が判明した。


「本当に【コトワザ】ってデタラメね……」

「私もちょっと信じられないかも……」


 俺も同意見である。


「他に検証しておきたいことはないか?」

「この的だから貫通したのか、何でも貫通するのかは気になるわね。気になるのだけれど……もしもなんでも貫通するなんて事があったらと考えると恐ろしくてね……」


 何かわかるかも。


「庭から出たくないし、訓練所にも適当な的はなかったと思うから、王都に向かう道中で試してみようかしら」

「試すのは良いけど、これって知られても問題ない性能なのか?」

「……」

「わかんない」


 二人は着替えるために家に戻る。


 そして俺たちは森へ向かう事にした。

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