第25話 役割
翌朝、シュルーケルさんは畑仕事に向かう前に一言だけ残して出て行った。
「三人とも、夜までに立ち位置を決めておけよ」
この発言が何を意味しているのかは何となく察してはいる。
「アラタも薄々勘づいてはいるでしょうけど、ハッキリさせておくわ。学園の課題には戦闘に関するものがあるの。そして、基本的にはパーティー単位で活動する。ここまではいいかしら?」
「ああ。大丈夫。続けて」
「恐らく、学園に戻ってもパーティーメンバーが増える事はない。そして、今はアタシとミリーの二人しかメンバーはいないの」
セレイナの説明で確信に変わる。
「そこに俺が加わる、と。そうすると俺の立ち位置、つまり役割は必然的に前衛って事になるのか」
「そうなるのよね。お願いできないかしら?」
セレイナは申し訳なさそうな表情で頼み込んでくる。
初日の夜間訓練でも近接武器を勧められた。
そして、投擲武器は試す事もなかった。
昨夜の訓練では布ボールを使って回避の訓練が出来たのに、だ。
そして、受け身の練習の比重が大きかった。
そうなるよなあ。
今から遠距離武器の練習をしたところで使い物になるわけもない。
そもそも遠距離はセレイナの弓がある。
瞬間移動を駆使すれば、前衛のような事も出来そうではあるが、彼女が前衛を担当する姿が想像できない。
同様にミリーリアも前衛という感じはしない。
聞くべきか悩んだ。
どの道、俺に出来る事といえば前衛として攻撃を引き付け、後ろに控える二人に攻撃が向かないようにする事くらいだ。
俺は死なないらしいし、問題は……ある気がするが、覚悟は出来ている。
なので、俺が前衛担当になるのは良い。
しかし、襲撃事件の際、二人は戦闘に慣れていたように見えた。
そうなると、この二人だけで常に活動していたのかという疑問が浮かんでくる。
普段は二人パーティーでも問題なく戦闘が行える可能性もあるが、リスクが高いように思える。
俺は意を決して疑問を投げかける。
「今までって、前衛はいなかったのか?」
訪れる沈黙。
二人の表情は何かを思い出したのか硬い。
セレイナが口を開く。
「前はいたわ。基本的に、冒険者パーティーの人数は四人か五人が推奨されているの。これは役割や安全マージン、そして報酬の分配を考えると必然とそうなるの。フルメンバーで失敗するような依頼なら、それは自分たちにとって適正ではない。逆に、少ない人数で達成できる依頼も適正とは言えないわね。一部例外もあるけれどもね」
俺は頷く。
「それで、今までは前衛をどうしていたかっていう話なのだけれど──」
「その先は私が話すよ」
何かを決意した表情のミリーリアが、セレイナの発言を遮る。
「最終年に学園から課題が与えられて、戦闘に関する課題もあるってていう話はしたよね? 今までも授業の一環として実技はあったの。その時は、担当の先生がパーティーを割り振ってくれたり、仲のいい人同士で組んだりしていたの。でも──」
なるほどね。
最終年の課題の成績で、将来が決まる。
好成績を修めたらそれなりの位置から冒険者としてスタート出来る。
逆に成績が悪かったら?
学園に通った事は無駄にはならないが、特にメリットもないと。
そして、会議の時のミリーリアの涙の理由がわかった。
「恥ずかしい話、誰も私とパーティーを組んでくれなかったの。でも、セッちゃんは真っ先に私に声をかけてくれて。アラタは知らないかもしれないけれど、学園ではセッちゃんはすっごい人気者なんだよ」
セレイナは飛びぬけて強いらしい。
そりゃ瞬間移動できて、遠距離攻撃も出来る学生と考えたらそうなるか。
そのセレイナはミリーリアとパーティーを組むことを選んだ。
パーティーメンバーは多くて五人。
基準はわからないが、ミリーリアの話を聞く限り、彼女は戦闘面では少し劣っていると思われているのだろう。
セレイナの戦闘力は魅力的だが、ミリーリアも加入するとなると、一枠余計に埋まる。
それならば、安定感を求めて他の人と組むという感じらしい。
「別にアタシはミリーと二人でも良かったのよ。どうせ卒業したら会う事もない連中の事なんて気にしないの」
思う所があるのか、セレイナのクラスメイトに対する評価は辛辣なものだ。
「うん。もう大丈夫。私は私に出来る事をするだけ。でも、セッちゃんには迷惑をかけて、アラタにも悪い事をしたなって思ってるの……」
俺とセレイナは顔を見合わせる。
お互い「やれやれ」といった表情をしていた。
「俺は俺がしたい事をしているだけだ」
「アタシはアタシがしたい事をしているだけよ」
俺の発言は見事にセレイナと被る。
俺たちは思わず吹き出してしまった。
「モロ被りしてるじゃん」
「ちょっと、真似しないでくれる?」
俺たちの様子に釣られたのか、それとも自分の気持ちに整理がついたのか。
ミリーリアは明るい表情で俺達に思いを伝える。
「二人とも、よろしくね!」
「おう」
「当然よ」
さて、俺が前衛を務める事が決まった今、伝えようと思う。
俺が死なないらしいという事を。
伝えておかないと、俺が前衛を務める意味がない。
タイミング的にも今が一番良いだろう。
「なあ、ちょっと聞いてくれ」
二人が俺の顔を見る。
「俺は死なないらしい」
セレイナは何言ってんだコイツって顔をしている。
何だかこの表情を見るのは久しぶりな気がする。
ミリーリアは理解できないのか、キレイに固まっている。
「アルさんの所で言われたんだけど、俺は死んだらアルさんの所へ行くことになるらしい」
「アラタが何を言っているのか全然わからないわ。もう少しわかりやすくお願いでできるかしら?」
俺は、アルさんの所で受けた説明を二人にそのまま伝えた。
「はぁ……。アンタって本当に……。何ていうか疲れるわね……」
なぜかセレイナに呆れられた。
ミリーリアは無言のままだ。
「一応前衛を引き受けるからには伝えておかないとって思ってさ。俺に万が一があっても気にするな! って言えたらいいんだけど、少しは気にしてくれたら嬉しいかな。死にたくないし」
「当り前だよ!」
「当り前よ!」
今度はミリーリアとセレイナの発言が被る。
「いくら死なないって言っても、そんな無茶を織り込む時点で冒険者失格よ!」
「そうだよ! アラタはもっと自分を大事にするべきだと思うよ!」
ダメ出しされた。
「いや、ほら、前衛が崩れてパーティー壊滅、なんて事になるのは俺としても本意じゃないからさ」
「私、アラタと出会ってからイタイノイタイノトンデイケが使えるようになったんだから、アラタの事はしっかり守ってあげる!」
「それならアタシはさっさと敵を倒すのが仕事ね」
彼女たちは逞しかった。
何かイメージと違ったが、俺たちの結束は強くなったように感じた。
上手くやっていけそうな気がする。
「ところで、ミリーは召喚ってどうやってやったんだ?」
ミリーリアが召喚を行う所を見た事がない俺は、軽い気持ちで聞いてみた。
「あっ……」
何、その「あっ」って。
ミリーリアの目が泳ぐ。
「何か気軽に使えない理由があるとか?」
「召喚……出来ないかも……」
え?
何で?
「アラタを召喚するときに、図書室で借りた本を参考にしたんだけど、その本はアラタを召喚したら消えちゃった……」
「ん? サーナさんは魔法陣を使って召喚してたけど、ミリーの召喚は何か違うのか?」
「私のは、サーナさんの召喚魔法とは少し違う気がするんだよね。古代語で書かれた本を参考にして召喚魔法を使ったから」
「再召喚出来ない可能性があると?」
「可能性はあるね……。でも、万が一の事があっても私は頑張ってアラタを召喚するから!」
どうしよう……。
本当にどうしよう……。
王都って所に行けば何とかなるのだろうか?
なるといいなー。
サーナさんに送還を頼んだけど、安心できる材料が見つかるまで送還は待ってもらおう。
「一応、王都って所に着いたらサーナさんと教会って所に行くことになってるから、何かわかるまでは死なないように頑張るって事で」
「アンタ……そこは常に死なないようにするって言えなかったのかしら」
そんな事言われても、実戦経験皆無なのだから大きな事は言わない方がいいに決まってる。
「まぁ、それは置いておいて。安全な冒険者? 生活を送るためにもコトワザの授業を始めるとしますか」
「はぁ……アラタがそれでいいのなら構わないけれど……」
「頑張るよ!」
諦めたような表情のセレイナと、より気合が入ったのかやる気満々のミリーリア。
そんな対照的な二人と今日の授業を始める事にした。




