第24話 裏切り
夕食を済ませ、今日も隊員さん達の野営地点へ全員で向かう。
「シュルーケルさん、昨日不穏な事言ってましたが、今日は何をするんですか?」
「着いてからのお楽しみだな」
お楽しみ……。
「昨日みたいな事は止めてほしいわね」
そうだそうだ!
セレイナさんもっと言ってやってください!
「今日は俺は何もしねーよ」
おや?
「本当かしら?」
「おう。もう仕込みは済んでるしな。よし、到着だ」
もう嫌だ……。
何、仕込みって……。
今日もロイさんが出迎えてくれる。
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
ロイさんに昨日の場所まで案内される。
昨日とは違って、異様な静かさだ。
昨夜騒ぎ過ぎた隊員さん達が気を遣って、声量を下げていると思ったのだが、どうやら違うらしい。
途中ですれ違った隊員さん達の顔からは、疲労の色が滲み出ていた。
今日の作業が過酷だったのか。
それとも昨日の居残りの……。
考えないでおこう。
いや、俺と同じ目に合ったのなら、彼らは同志。
きっと分かり合えるだろう。
訓練する場所に着き、準備運動を終えた俺は、今日もロイさんと対峙する。
「アラタ殿、昨日と同じだと考えているなら怪我をする可能性がありますので、お気を付けください」
「わかりました」
望むところだ。
戦闘において、遥かに格上の相手が俺の訓練に付き合ってくれる。
これ程恵まれた環境があるだろうか。
「お願いします」
こうして今日もロイさんとの訓練が始まる。
ロイさんに投げられ受け身を取る。
投げられては受け身を取る。
受け身を取る。
違うな。
確かに昨日よりは速度は上がっている。
その上がった速度にも対応できているのか、衝撃はほとんど逃がせている。
だがそれだけだ。
避けてみるか。
投げられるのを覚悟して、受け身の準備をしている状態と、回避に失敗して受け身を取らざるを得なくなった状態。
どういう差が生まれるか気になった。
ロイさんに捕まりそうになる。
少し体を捻って、ロイさんの手から逃げるように体をズラす。
お? 上手く回避できたか。
そう思ったのもつかの間。
俺の動きに気付いたロイさんは、バランスを崩すこともなく、流れのまま俺を地面に組み伏せる。
回避できたと思った油断からか、体を捻った影響からか、いつもより強めの衝撃が俺を襲う。
なるほど。
動きながらだとここまで変わるのか。
これは待ってるだけじゃ駄目だな。
俺は回避を試みるが、全てロイさんに見破られ、対応されてしまう。
その中で、いくつかやってはいけない動きというものがわかったのは収穫だった。
ロイさんが額の汗を拭う。
「そろそろ休憩しましょうか」
「はい。ありがとうございました」
俺はロイさんの提案に同意する。
昨夜と同じように固まって座っている三人の下へ向かう。
「【イタイノイタイノトオイオヤマヘトンデイケ】」
「お疲れ様」
「生意気に避けようとしてたな? いいじゃねーか。常に最善は何かを考えろ。そして、同時に最悪の事態もだ。そうすりゃ引き時を見誤る事もねー」
シュルーケルさんは昨日とは違って満足そうだ。
「でも気づきやがったか。せっかく用意したのによ」
気づきやがった? やがった……?
「もしかして何かマズかったです?」
「いや、むしろ上出来ってもんよ」
シュルーケルさんが悪い顔をしている。
この顔はいけない。
「よし、んじゃこの後は回避に専念してもらおうか」
回避に専念?
休憩中、隊員さん達が松明を設置して訓練場の範囲を広げているのが目に入っている。
なぜこんな大掛かりな仕掛けを施しているのか。
訓練再開の時間になる。
シュルーケルさんが、定位置に移動した俺を中心に、半径二メートル位の円を地面に描く。
隊員さん達がいたるところに立っている。
彼らの足元には野球ボールサイズの布で出来た塊が置いてある。
「アラタはこの円から出るな。アイツらは土を布で包んだ球を投げてくるから回避しろ。ルールはそれだけだ」
これまでの訓練とはガラっと内容が変わっている。
どんな意味が……。
ゴブリンの投石対策か。
確かにあれは直撃したら大変な事になりそうだった。
「まずはやってみるか。よし、始め!」
そして飛んでくる石を模した布ボール。
この人たちは加減というものを知らないのだろか?
四方八方から投げられたら全部避けるのは不可能だって!
「オラオラ、アラタ! 足が止まってるぞ! そんなんじゃ命がいくつあっても足りねーぞ!」
直撃しても痛みが全くないのが救いといえば救いだが、シュルーケルさんのヤジも相まって俺の精神力はゴリゴリ削られていく。
「小さいのは当たってもいい! 大きいのだけは直撃させるなよ!」
言われてみれば布ボールの大きさにはバラつきがある。
あるのだが……わかるか!!
「はぁはぁ、む、無理ですって……」
「よし、まだ大丈夫だ!」
何が!!
地獄の投石対策は、俺が立てなくなるまで続いた。
そして時間も遅くなった事もあり、シュルーケルさんも一緒に家に戻る事になった。
隊員さん達が安堵の表情を浮かべていたのを俺は見逃さなかった。
同志だと思っていたのに!




