第19話 野営地点にて
村の外へ出て、隊員さん達の野営地点に到着すると、各々がくつろいでいた。
村から少し離れているとはいえ、声量には気を使っているようだ。
ロイさんがこちらに気づき、立ち上がって俺たちを出迎えてくれた。
「こんばんは。夜分遅くに失礼します。俺からお願いしたのに出迎えまでしてもらって……」
「ようこそいらっしゃいました。何もない所ですが、ごゆっくりお過ごしください」
「お仕事の時間は終了でしょうし、言葉遣いなどはお気になさらずに」
「そう言っていただけるのはありがたいのですが、隊員達の手前、なかなか難しいですね」
俺のお願いでロイさんに負担をかけたのかもしれない。
「な? 頭固いだろコイツ」
「これはこれは村長殿。こんな何もない所によくぞお越しくださいました。ご多忙かと存じますが、ごゆっくりとお寛ぎください」
この二人って実は仲が悪い?
「こんばんは。お父さんがごめんなさいね。後でキツく言っておくわ」
「ロイさんこんばんはー」
「セレイナちゃ……殿と、ミリーリア殿もご一緒ですか。ご挨拶が遅れました。ようこそいらっしゃいました」
ロイさん無理してる?
「別に王都で会ったわけでもないんだから、そんなに改まらないでくれた方がアタシとしては楽ね。ミリーはどう?」
「私も普段通りでいいと思うよ。別に知らない人がいるわけでもないしね」
ミリーリアさん……やっぱり怒ってらっしゃる?
「しかし……アラタ殿の手前、私だけでも──」
「メンドクセー! いいから普通にしてろ!」
シュルーケルさんが耐えきれなかったのか、ついに叫んだ。
「あっ、違くて、そういう事じゃなくて、アラタが知らない人とかじゃなくて……私はアラタの事知ってるからというか──」
何かもう混沌としてきている。
パァァン! と、セレイナが一度手を叩き、注目を集める。
「はい、うるさい。時間を考えなさい、全く。アラタは何か用事があるんでしょ?」
ボーっとしている場合ではない。
俺はここに来た目的を達成すべく、気を取り直してロイさんにお願いする。
「大変なことになってごめんなさい。実は、皆さんの目から見て、俺の戦闘力ってどの程度に見えるか確認したくてお時間をいただきました」
「なるほど。アラタ殿の目的は理解しました。しかし、今の時間を考えると戦闘力を測るというのはいささか難しいかと……」
確かにロイさんのいう事は最もだ。
それでも他に時間がないという事を考えると、このタイミングしかない。
太陽が出ている時間帯は畑の復旧作業を手伝い、帰宅後にミリーリアに【コトワザ】を教えるとするならば、今日、このタイミングしか残されていない。
「なるほどな。いいじゃねーか。どれ、俺も見ててやるよ」
「また先輩はそうやって面白そうだからって理由で無理を通そうとする……。時間も時間ですし、軽くしか確認できませんよ?」
俺は騒ぎを聞きつけた隊員さん達に見守られながら、ロイさんと対峙している。
俺もロイさんも素手の状態だ。
どうしてこうなった。
剣を振るにも、渡された剣が真剣だったので、勢い余って自分を切るのを恐れてへっぴり腰……。
投擲武器を試そうにも、夜なので参考にならないため機会もなく……。
斧やハンマーは持ち上げたら足がふらつき……。
この時点で全てを察したロイさんが、まずは受け身が取れるかどうか確認しようと提案してくれた。
断る理由もないので了承したが、冷静に考えたら受け身の取り方すらわからない。
伝えないとマズイかな……。
俺が不安な顔をしているのに気付いたのか、ロイさんが近づいてくる。
「最初はゆっくり背中から落とします。少し背中を丸め、衝撃を逃がしてください。その際に、腹部をみるように意識すると、後頭部を守れます。タイミングを見て、地面を両手で叩くと、衝撃が軽減されます」
嫌な予感しかしないのですが……。
「では、いきます!」
ちょっと! 復唱が! 心の準備が!!
……。
あれ?
俺の瞳に映るのはロイさんの顔。
背中には地面の感触。
なのに痛みはない。
「お見事。では次は──」
その後もロイさん監修の下、色々な受け身の型を試した。
そのほとんどが、それほど痛みを感じなかった。
上手く衝撃を逃がせていた、あるいはこの世界に適した体になった影響かもしれない。
何とかやっていける自信がついた。
受け身の確認もひと段落つき、俺は休憩のため三人が固まって座っているところに戻る。
「どこか痛いところはない? 【イタイノイタイノトンデイケ】」
ミリーリアは俺を気遣って、【コトワザ】をかけてくれた。
「ありがとう。助かるよ」
完全に嫌われたと思っていたのだが、ミリーリアの様子を見る限り、そうではなさそうなので少し安心した。
外から見ていておかしな所はなかったかなど、色々と確認していたら、シュルーケルさんから声が掛かった。
「なぁ、アラタ……それでいいのか?」
シュルーケルさんが真剣な眼差しが俺を貫く。
「それでいいのか……とは?」
「それでいいなら別にいいんだけどよ」
静かに、そして重みのある言葉が俺に突き刺さる。
「あんなヌルい投げの受け身が取れたくらいで満足なのか?」
その言葉からは、怒り、呆れ、諦めなどがこもっているのがはっきりとわかる。
シュルーケルさんが放つ重圧から、俺は視線を逸らせずにいた。
【蛇に睨まれた蛙】とはまさにこんな状態なのだろう。
考えろ。
シュルーケルさんはヌルいと言った。
ロイさんが手加減してくれていた?
その可能性は大いにある。
あらかじめ、どの受け身を取るか教えてくれていたから?
それもあるだろう。
速度か?
確かにゆっくり、確実に俺が受け身を取れるように気遣ってくれていた。
「わかってきたか? で? それでいいのか?」
俺はここに戻ってくるまで、どんな顔をしていてたか……。
俺は今、どんな顔をしているのか……。
わからない、わかりたくもない。
甘く考えていたのだろうか。
間違いなく甘く考えていたのだろう。
あの襲撃事件を思い出せ。
今の受け身はあの場で役に立つのか?
立つわけがない。
はぁ……。
本当に嫌になる。
少し上手くいったからってそれで満足していたら駄目だな。
今日、この場に来た目的は何か?
この世界で生きるのに必要な戦闘力があるかどうかの確認のためだ。
「ダメダメですね。お話にならないでしょう」
「だな」
「シュルーケルさん、頼みがあります。ここまで来て他人頼みになるのは申し訳ないのですが、シュルーケルさん流で俺を試してください。どんな結果になっても構いません」
「ん」
短く、そう答えたシュルーケルさんが立ち上がる。
いつのまにか近くにいたロイさんに一礼すると、彼も状況を把握しているのか、シュルーケルさんについていくよう促された。
途中で交代してもらう事になってしまい申し訳なく思うが、俺の状態を測るのに、今のシュルーケルさんより適した人はいないだろう。
甘えの気持ちがあってはいけない。
そして俺はシュルーケルさんと対峙する。




