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第18話 やりすぎ注意

 夕飯の準備はすでに出来ているので、配膳を済ませて全員でいただくことにする。


「そうえば、今日はトマトジュースはないんだ」

「トマトジュース……。ごめんね。昨日全部空けちゃった。あった方がよかったかな?」

「いや、ないならないで問題はないよ。トマトジュースって何か意味があったりするの?」


 料理は元の世界と比べても遜色ない味どころか、かなり美味しくいただけたのだが、トマトジュースが常に側にあったのだけが気になった。


 料理を作ってくれていたセレイナは、俺が味を褒めたからか上機嫌だ。


「トマトジュースなぁ。意味があるといえばあったのか?」


 シュルーケルさんがミリーリアをチラチラ横目で見ている。

 トマトジュースを高く掲げていたミリーリアが関係しているのは間違いないようだ。


「シュルーケルさん! 食事中は静かに!」

「お、おう」


 娘に叱られるお父さんってこんな感じなのだろう。

 あのシュルーケルさんがタジタジだ。


 そして気づいてしまった。

 ミリーリアは何かを誤魔化したのだと。


 気になる。聞いてもいいものか……。


 わざわざ地雷を踏みに行く必要はないか。


 話題を変えるべく、俺は元の世界の事を少し話す事にした。

 全員が興味深そうに聞いていたのが印象的だった。



 夕飯の後片付けも終わり、全員が居間に集まったタイミングで、セレイナが俺の前に来た。


「そういえば、まだアラタを拘束した理由を話してなかったわね」

「ん? 不審者を見つけたからじゃないの? この世界では普通の事なんでしょ?」


 拘束された時は非常に腹が立ったが、襲撃事件を経験した今となっては気にしていない。


 戦闘が普通に行われ、人の背後に瞬間移動する事が出来る世界だ。

 村の近くに見知らぬ男が現れたら、警戒するのが当然だと思う。


「普通はいきなり拘束はしないわね。どこから話せばいいかしら……」


 そう言って、セレイナは俺を拘束するに至った経緯を話し始めた。


 ミリーリアが、俺を召喚する前に変な生き物を召喚しかけた事。

 既に俺が完全に召喚されており、送還の手立てがなかったので拘束して様子を見る事にした等、包み隠さず教えてくれた。


 一歩間違えたら俺もあの矢で射られていたと考えると、少しゾッとする。


「本当にごめんなさい」


 そう言って頭を下げた。


「なるほどね。わかった。うーん、仕方ないんじゃないか? 人型の使い魔って珍しいらしいし、慎重になるのは理解できるし」

「ありがとう」


 そう言って頭を上げたセレイナの表情は心の底からホッとしているように見えた。


「ミリーじゃないけど、吸血鬼とかだったらどうしようかと思ったのよね。アタシじゃ手も足も出ないだろうし、何とかしなきゃって思ったのよ」


 ん? 吸血鬼?


「セッちゃん! それ以上はダメぇぇぇぇ!」


 ミリーリアの絶叫がこだまする。

 

 あ! あー! なるほど!


「それでトマトジュースだったのか。納得した。この世界でも吸血鬼は銀とか流水とか、十字架に弱かったりするの?」

「そう言われているわね。と、いう事はそっちの世界にはいるのかしら?」

「いやー、空想上の生物になるのかな? おとぎ話というか、都市伝説というか」


 古い時代に生き血をすすった人がいるとかいないとかの話は別だろう。

 種としての吸血鬼の存在として伝える。


「こっちも同じ感じね」


 なるほどね。


「そうすると……」


 チラっとミリーリアの顔を確認するとトマトジュースと同じくらい真っ赤になっていた。

 全力で叫んだから、という理由だけではないのだろう。

 

 なんでかなー?

 なんでだろうなー?

 わからないなー。

 

 言葉に出さなくても、俺の表情から何を思い出したのか察したと思われるミリーリアは、目元に涙を浮かべながら物凄い勢いで居間から出て行ってしまった。


「うわ、アンタ最低ね」

「アラタ、今のはねーな」


 二人に叱られてしまった。

 自分でも少しからかい過ぎてしまった思う。


「ごめん。ちょっと謝ってくる」

「はぁ……世話が焼ける……。アタシが行ってくるから、アンタはここで待ってなさい」


 そう言い残し、セレイナはミリーリアの下へ向かった。


「浮かれていたようです。反省してます」

「俺じゃなくミリーリアに伝えてやんな」


 シュルーケルさんは怒っているようには見えない。

 それどころか、この状況を楽しんでいるようにも見える。


「そういえば、そろそろロイの所に行く時間になるな」


 そう言ってシュルーケルさんは手元の懐中時計に目を向ける。

 

「もうそんな時間ですか。二人で向かいますか?」

「ちょっと待ってろ」


 シュルーケルさんも二人の下へ向かった。


 一人残された俺は、今後は軽はずみな行動は控えようと固く誓った。



 しばらくすると、三人が戻って来た。

 最後尾を歩くミリーリアはまだ俯いたままだ。


「よし、んじゃ向かうか」


 シュルーケルさんがそう提案してくれるが、このまま向かうわけにはいかない。


「ミリーリアさん、本当にゴメン! デリカシーに欠けていた。謝っても許される事じゃないけど、心から反省してます!」


 俺は頭を下げ続ける。


「別にミリーでいいし……。気にしてないし……。怒ってもいないし……」


 これは致命的なミスを犯したのかもしれない。

 

「ほら、ミリーもいい加減にしなさい。アラタも反省してるようだし、いつまでもウジウジしないの」


 セレイナさん……。初めて会った時、悪魔の化身だと思ってごめんなさい。

 今のあなたは紛れもなく救世主です。


「ウジウジしてないし……。別に何とも思ってないし……」

「だーかーら、それよ、それ。さっきも話し合ったじゃない」

「……」


「おーい、そろそろ行かないと間に合わないぞ」


 先に玄関に向かったシュルーケルさんから声が掛かる。


「アラタもいつまでも頭下げてないで行くわよ。アンタが行くって言ったんでしょ」


 頭を上げてミリーリアの様子を伺うと、彼女も俺の方を見ていた。


 その表情は怒っているというのがふさわしいのだが、不思議な事に、心から怒っているという風には感じられなかった。

 むしろ、困惑しているといった感じに受け取れる。


「おーい、まだかー」

「今行くわ。ほら、二人とも早く動く!」


 希望的観測ではない事を祈りながら、ロイさんが待つ村の外へ向かうのだった。

次話は本日22時に投稿予定です。

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