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第17話 楽しみ

 セレイナが突然「痛いの痛いの飛んでいけ」と言い出した。

 気持ちはわかる。わかるのだが……。


「別に試すくらいいいでしょ! もしかしたらって事もあるじゃない!」


 少し恥ずかしそうな表情でセレイナが叫ぶ。


「セッちゃん。その気持ちは大事だよ! 私もそうやって【コトワザ】が使えるようになったんだしね」

「別に【コトワザ】が使えるようになりたかったわけじゃなく、ただなんとなーく試してみたくなっただけというか……忘れて」


 後半になるにつれ、徐々に圧力を感じた俺は、素直に頷く事しかできなかった。

 俺は何も見ていない。聞いていない。そう、何もなかった。


 ミリーリアはニコニコしている。


「検証に付き合ってくれてありがとう。ミリーは【痛いの痛いの飛んでいけ】ってどういう意味かわかってた?」

「なんとなーく? 【イタイノイタイノトンデイケ】ってそういう意味だったんだ」


 ミリーリアの話から推測すると、日本語で発声すると、詠唱という扱いになると考えてもよさそうだ。


「そもそも、痛いの痛いの飛んでいけって、俺の居た世界では【諺】ではなかったと思うんだよね。その辺が微妙に違うかな」

「そうなんだ。【コトワザ】じゃなかったら何になるの?」


 これはまた難しい質問を……。


「おまじない? になるのかな。子供がどこか痛めた時に、気休めとして声をかける時に使う感じだね。上位互換というか、痛いの痛いの遠いお山へ飛んでいけってのもあったりするかな」

「ほうほう。それはなんて言うの?」

「【痛いの痛いの遠いお山へ飛んでいけ】」

「【イタイノイタイノトオイオヤマヘトンデイケ】?」

「そう、合ってる合ってる」


 今回は覚えるのが早かった。

 同じ系統の【コトワザ】が使えるようになったからだろうか。


「他に何か使える【コトワザ】ってあるの?」


 気になったので聞いてみた。


「【ニカイカラメグスリ】と【イヌモアルケバボウニアタル】が今使える【コトワザ】だね」

「ちなみに、どんな効果があるの?」

「【ニカイカラメグスリ】は、命中精度が上がって、【イヌモアルケバボウニアタル】はコボルト相手に使うと、面白いくらい安全に武器にコボルトがヒットするよ!」


 【コトワザ】の説明をしている時のミリーリアは、非常に生き生きとしている。


「ちなみにこの世界の言葉で言える?」

「両方とも分からないかな。教えてくれるなら教えてほしいかも」


 両方とも【諺】として有名だし、存在しているのも当然知っている。

 しかし、どうも話を聞くと意味が違う様に感じられた。


「【二階から目薬】の方は、二階から目薬で、【犬も歩けば棒に当たる】は犬も歩けば棒に当たる、になるかな」

「おー。そうなんだ。なるほどなるほど。納得だね」


 俺はイマイチ納得できないが、本人が納得出来ているのならそれ以上は言わなくても良いだろう。


「意味がわからない【コトワザ】って、どうやって使えるようになるんだ?」

「あ、そうだね。ちょっとまっててね」


 ミリーリアはそう言い残し、居間を後にした。


 セレイナと二人っきりになった。

 セレイナは何か言いたそうにしているが、特に何も言ってこない。

 

「ありがとう」


 相当考え込んでいたが、彼女が発したのはシンプルな感謝の言葉だった。


「何が?」

「色々よ。い・ろ・い・ろ」

「どういたしまして、でいいのかな?」

「それでいいわよ」

「じゃ、そういう事で」


 深く聞くのは野暮ってものだろう。


 セレイナと軽いやり取りを交わしていると、ミリーリアが戻って来た。


「はい、私が集めた『【コトワザ】集』だよ。これを読めば使える【コトワザ】なら使えるようになるの。学園の寮にも置いてあるから、着いたら見てもらうね」

「少し借りていいか? 内容を確認して、ミリーにわかりやすく伝える事が出来れば、新しい【コトワザ】を使えるようになる手助けになるかなって思ってさ」

「はい! よろしくお願いします、アラタ先生!」

「まだ教えられるって決まったわけじゃないけどね」

「それでも可能性があるなら、私には十分だよ!」


 ミリーリアの期待に添えるよう、しっかり読み込むとしましょうか。

 

 彼女から『【コトワザ】集』を受け取ったのだが、非常に使い込まれていて驚いた。

 角は折れて丸みを帯び、頻繁に持ち運んでいたのか表紙も少し汚れている。

 だが、汚いとは思わない。

 これは、紛れもなくミリーリアが努力した証なのだから。


 読むのが楽しみという気持ちと、ミリーリアが『【コトワザ】集』を片手に特訓している姿を思い描けてしまい、少しニヤけたのは仕方がないだろう。


 ミリーリアには汚かった? と心配されたが、読むのが楽しみだからとだけ伝えておいた。


「それで、講義はいつから始まるのですか、先生!」

「あー、どうしよっか」

「私は今日の夜からでもいいよ!」

「いや、まだ俺が読んでないし」

「読みながら、私に教えるってスタイルはどうでしょうか!」


 ミリーリアのテンションが妙に高い。

 

 読みながら教える……か。

 アリ、だな。

 

 マンツーマン授業。

 教え子と同じ教科書。

 程よい距離感。

 時折触れる肩。


「それも悪くないけど、今日の夜はまだ約束できないかな」

「何かあるの?」

「まだ未定。その辺は夕飯後にかな」

「そっかー。わかったよ」


 ……。

 俺は頑張ったと思う。


 第一印象が大切という話をよく耳にする。

 今の俺なら自制できる自信もある。

 なので、非常に、ひっっじょうに魅力的な提案だった。


 しかし、今日の俺にはやらねばならない事がある。

 夜に顔を出すと、ロイさんと約束してるのだ。


 自分の身は自分で守る必要があると、俺はアルさんに言われている。


 戦闘があるこの世界で、俺は果たして自分の身を守れるのか?


 そう考えた時、今の俺の状態を、元冒険者である隊員さん達に確認してもらうという方法を思いついた。

 確認方法については、この世界の基準がよくわからないので丸投げしようと考えている。


 剣を振れと言われたら振ってみるし、突きの型が見たいと言われたらやってみる。

 組み手が必要と言われたら、当然全力で拒否する所存だ。


 そんな事を考えていると、シュルーケルさんが風呂から上がってきた。


「よし、そろそろメシにしねーか? アラタが騎士団に用事があるみたいでよ。後で行かねーとダメなんだ」

「それで未定だったんだ。それって、私達も一緒にいっていいのかな?」

「アタシも行くのは確定なのね。何をしに行くのか気になるから、一緒にいっていいなら行きたいわね」


 少し予定と違う感じになってきた。

 コッソリ色々試して、自分の実力を知った上で、初戦闘の時に活躍するっていうのに憧れていたのだが、全てが筒抜けになってしまう。

 本当は二人にはついてきてほしくはないが、ここで断るのも不自然だ。


「ついてきても楽しい事はないと思うよ」

「楽しい、楽しくないは別として、ただ気になるだけよ」

「私も気になるからついていくね」


 どうやらついてくるようだ。

 良く考えたら襲撃事件の時に無力なのはバレてるし、隠す必要はないのかもしれない。

 

「確かに面白そうだな。んじゃ皆でいくか」

  

 あ、シュルーケルさんもですか……。

 大丈夫かな俺。


「了解。では全員でお邪魔しましょうか」

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