第15話 畑仕事
サーナさんと話し合いを終えた俺は村の外の畑に向かった。
シュルーケルさんの家に戻るのはまだ早いと考えると、俺に出来る事は畑の復旧作業くらいしか思いつかなかったからだ。
畑では騎士団の隊員さんらしき人達と、村の住民が協力して畑の復旧作業を行っている。
皆が作業を行っているのを眺めていると、俺に気付いたシュルーケルさんに手招きで呼ばれた。
「おう。そっちはもういいのか?」
そう聞かれたので、サーナさんとの話し合いの内容を軽く説明し、こちらの手伝いに戻って来た事を伝える。
「それなら、今日は俺の手伝いだな」
そう言われ、鍬を手渡された。
鍬の使い方をレクチャーしてもらい、いざ実行と思ったのだが、シュルーケルさんの動きが明らかにおかしい。
俺に教えてくれていた時は普通だっとと思うのだが、耕す速度が先ほどよりも上がっている。
具体的には俺の五倍以上といったところか。
俺が素人とはいえ、ここまで差がでるものなのか。
後でコツでも聞いてみようと思っていたが、俺の作業内容が別のものに変わる事になった。
「こっちのネコでどかせた石を運んでくれ」
ネコとな……。
周りを探すが、それらしい生き物は見当たらない。
「わりー、手押し一輪車って言わねーと通じねーか」
どこにネコ要素があるのかはわからなかったが、一輪車で石を畑の外に出す作業が今日の俺の仕事に決まった。
シュルーケルさんの担当エリアだけではなく、畑全体を回って邪魔な石を回収していく。
ある程度集まったら邪魔にならない場所へ。
畑全体を回るが、やはりシュルーケルさんの作業速度が異常なだけであって、特に俺が遅いという事はないように感じた。
その道のプロの人たちと比べると効率が悪いのは仕方ないとしても、悪くない動きができていたのではないかと思う。
黙々と一輪車で石の回収をしていると、昼休憩の時間になったようだ。
ロイさんに誘われ、隊員さん達の輪に加わる。
「全員そのままでいいが、聞いてくれ。改めて紹介するが、こちらがコトエダアラタ殿だ。粗相のないように」
「ご紹介にあずかりました、コトエダアラタです。気軽にアラタで構いません。どうぞよろしくお願いします」
会議に参加していたのか笑顔の人、軽く頭を下げる人、拍手をしてくれる人、様々な反応があったが、皆一様に俺への興味を隠しきれていなかった。
隊員さん達とはいい関係を築きたいので少し付け加える事にした。
「既にご存知かもしれませんが、俺は使い魔としてこの世界にきましたが、別に偉い人間だったとかでもないので粗相だとかは気にしないでください。逆に、俺もこの世界のマナーだとかはわからないので、教えてもらえると助かります。後、この世界の戦闘方法なども皆さんから聞けたらとも思ってますので、話しても問題の無い程度で構わないので教えてもらえると嬉しいです」
「アラタ殿はこうおっしゃっているが、節度ある対応を心がけるように!」
隊員さん達は各々了承の意を示した。
こうして俺の昼休憩が始まったのだが、会議での俺の啖呵に始まり、俺の世界の事など質問攻めに合った。
見かねたロイさんが途中で割り込んでくれたので、何とか昼ごはんを食べる時間は確保できたが、俺が聞こうと思っていたことは何一つ聞くことが出来なかった。
それでもいくつかわかった事がある。
冒険者を志す人っていうのは、興味と好奇心を忘れないという事が一つ目。
俺という未知の存在を恐れることなく、むしろ積極的に関わろうとしてくれていた。
ロイさん達が所属する王都第七騎士団の隊員さん達は、元冒険者という話だったので、騎士団に所属する事になっても根っこの部分は変わらないのだろう。
俺が話した内容は当たり障りのない話だ。
普段どう過ごしていたのかだったり、この世界との差異だったりである。
それでも俺が答えた内容について、隊員さん達はお互いに話し合ったり、よくわからない部分は再度説明を求められたりした。
その際に車の話をしたのだが、少し驚かれた程度だった。
そんな大型の魔道具が量産されているのかと言っていたので、何かと便利な道具はこの世界にもあるらしい。これがわかった事の二つ目。
車の具体的な作り方とか聞かれても答える事はできなかったので、専門家が作っていて、あくまでも俺は消費者であることを強調しておいた。
そもそも、俺がまだ学生で、働いていないという事を伝えた時の方が驚かれた気がする。
どうやらこの世界では、学生と言えども自分で食い扶持を稼ぐ人が大半で、完全に実家からの支援で学生生活を送る人は稀らしい。
元の世界でもアルバイトをしている友人はいたが、そういう次元の話ではなく、学費・生活費等なども完全に自分で賄うのが主流のようだ。
ミリーリアとセレイナも学生のようなので、その辺も後で聞いてみようと思った。
そんな昼休憩が終わり、作業を再開したのだが俺のやる事は変わらない。
せっせと一輪車で石を回収していく。
昼休憩前には無かった事だが、隊員さん達の担当場所に行くと、作業が滞らない程度に会話を交わすこともあった。
受け入れてもらえたと思えて嬉しくなる。
作業中に気付いたのだが、不慣れな作業なのでそれ程長く働く自信はなかった。
しかし、多少疲れたと感じる程度で済んでいる。
恐らく、翌日筋肉痛になる事もないと思える程度の疲労感だ。
アルさんが言っていた“適した体”っていうのがどういうものかはわからないが、その恩恵であると考えても問題はなさそうだ。
辺りが暗くなり始め、そろそろ今日の作業も終了かといった感じになった頃、シュルーケルさんとロイさんが何やら揉めていた。
揉めていたと言っても、そう大した事ではない。
「だからよ、今日の作業はもう終わりだって」
「では、我々だけでももう少し作業を続けます」
「そんな事されたらウチの連中が戻れなくなるだろ」
「我々の事はお気になさらずに」
「だーかーらーよ、んな事できるわけねーだろ」
作業を切り上げたいシュルーケルさんと、原因を作った負い目からか、作業を続けたいロイさんで話がまとまらないようだ。
「よし、村長命令だ。今日の作業は終了! 朝まで畑への侵入は禁止!」
「受け入れられません! 今は緊急事態です! 一刻も早い村民の方々の生活の安定を目指すため、我々騎士団だけの作業の続行を求めます!」
何か雲行きが怪しくなってきた……。
村の住民と、隊員さん達も異変を察知したのか集まってきている。
「オメーは昔っから頑固だな。今日のペースなら出立までにある程度は終わるから今日はもういいだろ」
「先輩は楽観的過ぎます。天気が崩れたらそのペースが乱れる可能性だってあるじゃないですか」
「長年の経験から言ってしばらくは晴れだ。よし、今日は終わり終わり」
「俺の長年の経験が、俺達だけでも作業を続けるべきだと囁いています」
やっば、これダメなヤツじゃん。
俺は勇気を振り絞り、流れを変えるべく参入する事にした。
「お疲れ様でーす。今日は終わりですか?」
「おう、アラタか。お疲れさん。今日はもう終わりだ」
「お疲れ様ですアラタ殿。我々はもう少しだけ作業を続けますのでお気になさらずに」
うわー、二人とも顔が怖い。
若干、いや、かなり後悔しているがこのままでは引き下がれない。
「あら……。隊員さん達に色々聞こうと思っていたのですが、時間を改めた方がよさそうですかね? 夜、とかだと……。そういえばシュルーケルさん、俺ってどこで過ごせばいいんですかね?」
「あぁ、そういえばはっきり伝えてなかったというか、気にもしてなかったな。今まで通り、ウチで過ごしていけよ」
「ありがとうございます。そうさせてもらいます。ところで夜に外出しても問題はないですか?」
「あんまり遅くない時間なら構わねーぜ」
「ありがとうございます。……っと。その前にロイさんに確認しないとダメでしたね。夜ってお時間あったりします? お昼に隊員さん達とお話を出来たのが楽しかったので、もう少しお話できたらなぁと思いまして」
「あまり遅い時間でなければ構いません」
ロイさんは少し悩んだ後、そう答えてくれた。
「では何時……どれくらい後がいいですかね?」
そもそも時間を知る術がないのを思い出した。
これも後で確認かな。
「そうですね……。あまり待たせるのも申し訳ないですし、三時間後でいかがでしょう? 今日は我々も作業を終了させ、明日の準備などを終わらせてアラタ殿を待つことにします」
時間を知る術はあるらしい。
シュルーケルさんの家には掛け時計がなかったから、貴重品なのかな?
魔道具の話も出ていたし、そういうものがあったりするのかもしれない。
「ありがとうございます! 俺の我儘に付き合ってもらうみたいで申し訳ないですが、楽しみにしています!」
作業終了の方向で話がまとまったからか、シュルーケルさんとロイさんがお互いに熱くなり過ぎたとか悪かったとか謝り合っている。
本当に熱くなり過ぎだったと思う。
生きた心地がしなかった。
こうして、隊員さん達はそれぞれが野営地点へ、村の住民達と俺、シュルーケルさんは村へと戻って行った。
「ロイのやつは頑固過ぎてな。真面目っていうか、融通が利かないっていうか。あのまま口論が続いていたらどうなってたことか。止めてくれてありがとよ」
シュルーケルさんも他人の事は言えないんじゃないかと思ったけど、思うだけにして「そうなんですねー」と相槌を打ってお茶を濁しておいた。
「ところで娘たちとの話し合いはいいのか?」
「あっ!」
夜に隊員さん達の所に行くことにしたけど、ミリーリア達との話し合いをどうするか考えていなかった。
「さっきのフォローは助かったし、どっかで抜けられるようにしてやんよ。場合によっては俺がロイの所に行ってアラタが行けなくなったって伝えてもいいしな」
「後先考えずに約束しちゃいましたね。ごめんなさい」
「気にすんな。アラタのやりたいようにやりゃいいさ」
こんなやりとりをシュルーケルさんとしながら、俺はミリーリア達が待つ家へと帰ってきた。




