第11話 村長
俺の意志は固まった。
後はそれが許されるかどうかになる。
いまだ感情の昂りが収まらないミリーリアの事は、セレイナに任せるとしよう。
「お待ちいただきたい! 勝手に決められては困ります!」
「そ、そうです! これは個人の一存で決めていい事柄ではありません! 教会の方針としてはコトエダアラタ様のお考えは、最大限に尊重するべきものであるのは間違いありません! しかしながら、教会が全く状況を把握していないという事は、あってはならない事なのです!」
組織のしがらみがあると、そう簡単に「ハイそうですか」とはならないのだろう。
さぁ、少し困った。
シスターのサーナさんは、何とかできる気がしている。
しかし、王国騎士のロイさんは現状、材料が足りないか。
俺が模擬戦でもして戦闘力皆無であるとわかってもらう?
いや、却下だな。
危険視してるのは戦闘力の有無だけが理由ではないだろう。
騎士団の上層部に俺の情報が伝わったら、囲い込まれるっていうのが最悪の事態で、そうはならない可能性に賭けるっていう手もあるのか?
不確実過ぎるし、少し楽観的か。
ミリーリアとの契約を履行できないと本末転倒だし、握り潰してもらう方向で考えた方がいい。
「なあ隊長殿。いや、ロイ。どう感じた?」
妙案が思いつかない俺は、黙っておじ様の話に耳を傾ける事にした。
「村長殿、どう、というのは戦闘面に関する脅威という意味でしょうか?」
「ああ。戦闘面も含めてもいい。いや、まずは戦闘面についてはどう感じた?」
「今の所、全く危険性は感じません。それは今が戦闘の場ではないからであると考えます。実戦で対峙した際は、また違った評価を下す事になると考えます」
「そうか。俺もほぼ同じ見解だ」
俺の戦闘面に関する評価がすこぶる低い。
実際に戦闘経験なんて皆無だし、俺がいた世界の話もしているので間違ってはいない。
間違ってはいないけど、何か悔しい。
「なら、元冒険者のロイとして答えてくれ。一人の男が、一人の少女の涙で自分の想いを曲げてまで協力を申し出た。これについて、お前さんはどう感じる?」
ん?
おじ様とロイさんは知り合い?
「村長殿……。はぁ、そんな怖い顔しないでくださいよ、先輩。お互い立場ってものがあるでしょう」
ロイさんの表情が少し緩んだ気がする。
そして、騎士としての威厳を感じさせる雰囲気から、親しい相手と共にいる時の雰囲気に変わる。
「えぇ、そりゃ男としてはアラタ殿の想いは最大限尊重したいですよ。むしろ懐かしい気持ちになりましたとも」
「ありがとよ。俺もお前さんも若い頃はそんな感じだったよな。依頼報酬なんかよりも大事なモノがある、なんてな。だから俺はお前さんを気に入ってたんだ。ダルドス村での──」
「村長殿! 話を戻しましょう!!!!!」
改めて第三者目線で俺の行動を指摘されると凄く恥ずかしい。
恥じる事ではないし、後悔もしていないけど、何か恥ずかしい!
でもいい感じにまとまりそうだし、俺は静観することにする。
「ん、そうだな。親バカって思われるかもしれねーけどよ、アラタの力はミリーリアの助けになるのは間違いねーんだ。それは俺が実際に目にしている。だから確信を持って言える。だからよ、学園が終わるまでの期間でいいんだ。見なかった、知らなかったことにしてくれねーか。頼む!」
シュルーケルさんが深々と頭を下げる。
どれくらいの時間が経ったのだろうか。
シュルーケルさんが頭を下げ続けている間、ロイさんは深く考えているのか、目を閉じている。
ロイさんが何かを決意した表情と共にその目を開く。
そして、そのまま俺の方を向き、鋭い視線を向けてくる。
言葉は無い。
この視線は逸らしてはダメだと本能が告げる。
俺はミリーリアに、協力すると約束した。
俺がそうしたいと強く想ったからだ。
邪魔はしないでくれ。
「はぁ……。本当に……。先輩、まずは頭を上げてください。少し、いや、かなりズルくないですか? アラタ殿に、こんな良い表情されたら決意が揺らぐ事は無いってのは嫌でも伝わってきますって」
シュルーケルさんはまだ頭を下げたままだ。
「先輩、本当に勘弁してください。落ち着かないです。いい加減、頭を上げてください。俺なんかに頭を下げないでくださいよ。そもそも、先輩が立場だとか取っ払ってアラタ殿を見極めろって言ったんじゃないですか。わかりましたから。先輩とアラタ殿の気持ちは十分理解できましたから」
「ありがとう。恩に着る」
シュルーケルさんが頭を上げ、短く告げる。
「第五小隊隊員に告ぐ! 今日は会議が終わってからは何も無かった! 今、見聞きした事を口外する事を禁ずる!」
『はっ!』
「ありがとうございます!」
少し反応は遅れたけど、俺も感謝の気持ちを伝える。
「アラタ殿はお気になさらずに。これは私が、私の信念に従い決定を下しただけの事です」
ロイさん……。
おじ様もロイさんも、一本の芯を持った素晴らしい、見習いたい大人だという事がわかった。
俺も将来はこういう大人になりたいと思える出来事だった。
「あの、先輩……。つい先ほどあんな事言っておいて、今更なのですが……。団長にだけはアラタ殿の事を伝えたいと思うのですが……」
「あー、そうか。先輩に伝えないのはマズいか。わかった。どうせ俺も今回の襲撃事件があった村の村長として王都に行くしな。俺も挨拶しに行く必要があるし、俺からもアラタがどんな男か伝えるか」
俺の存在を伝えるべき人がいるようだ。
「そうしていただけると助かります」
「で、隊長殿はいつ王都にお帰りで?」
「あ、戻すんですね。そうですね……。明日には一度王都に戻り、村の被害状況等を説明しようと考えております。その後、復興に必要な人材を確保した後、再び戻ってくる予定であります」
あれ?
何かおじ様が悪い顔してる。
「ほう。一つ提案なんだが、出立は三日後にならねーか?」
「と、申しますと?」
「いやな、ウチの娘達の学園が始まるのが丁度二週間後でな? 襲撃があったよな? 道中が不安でな。騎士団と一緒に王都まで行けたら安心だなーって思ってよ?」
「護衛として同行しろと?」
「そうだな。それと、アラタと少しでも長く過ごして、コイツの人間性を見極めてもらえたらなってところか」
シュルーケルさんの気持ちの、どちらが本題か俺にはわからない。
けれど、本心から二人の事、そして俺の事を考えてくれていることはわかった。
「騎士団を私的な護衛として利用するのはいくら何でも無理ですって」
「ならよ、村の復興のために帰還が遅れたって事にすればいいんじゃねーか? 実際問題、畑も荒れてるしよ。正直、元に戻すのは不可能ってのはわかるから、被害が少ない所だけでも早いうちに元の畑に戻せたら色々楽なんだ」
そして村長としても抜かりはないと。
「そう言われると弱いですね。わかりました。ウチの隊から騎士団に使いを出します。村を出立するのは三日後、それまではしっかり現地の復旧作業を行う。これでいきましょう」
「助かる」
「今回の襲撃は、元はと言えば騎士団の不手際からですから。謝るのはこちらの方です」
「ちょっと待ってください! 何勝手に決めてるんですか! 教会としては、まだ認めるわけにはいきません!」
まだ、ね……。
次は俺が頑張る番だ。




