第10話 想いと決意
話し合いを始める前に、俺が伝えるべき情報、伝えるべきでは無い情報を整理することにする。
ポロっと漏らしたら困るからね。
伝えるべき情報としては、俺の居た世界の事か。
大半の人は戦闘とは無縁という事を伝えないと、どうなるか分からない。
もしも、あの襲撃現場に放り込まれてたら俺は一分も掛からないで大怪我する自信がある。
むしろ大怪我で済めばラッキーと言ってもいい。
次に、元の世界に帰還するための条件。
これが話し合いの軸の一つになるだろう。
誰に召喚されたのか。
契約内容とはどんなものか。
この辺の確認は必須になる。
そして、伝えるべきでは無い情報。
まずは俺の弱点。
シュルーケルさんには悪いけど、俺の弱点はシュルーケルさんになっている。
何故そうなったのかは不明だが、恐らく事実なのだろう。
考え方によっては、シュルーケルさんが人質に取られると、俺が手だしできなくなるって意味の弱点とも受け取れるが、その可能性は万に一つもないと思う。
おじ様が人質とか……そんな相手には俺じゃなくても手も足も出ないだろう。
そして、俺は死んでも、あの何もない場所に送還されるだけで、死ぬことはないという事。
死なないってのがバレたら、囮、肉壁、生贄、何にでも使える。
自分で考えても嫌になるけど、使い捨て感覚で扱われたら堪らない。
短い付き合いとはいえ、そんな事をする人たちではないように思えたが、これは伝えられないかな。
……でも待てよ。
仮に死んだとして、あの場所に戻るとしよう。
再びこっちの世界に来るには召喚される必要があるのか。
今回戻って来られたのは、あの魔法陣があったからなのかな?
常に魔法陣があるわけでもないし、少し困るな。
もしも伝えずに、あの場所に戻ったら、そのまま召喚されずにずっとアルさんとあの場所で過ごすって事になるのか。
それはマズイな。
なら伝えるか?
伝えるとしても誰に?
伝えるのは確定としよう。
いつ、誰に伝えるかは保留かな。
これからの話し合いで誰が信用できるかも見極めが必要になりそうだ。
考えはまとまった。
後は話の流れを読みつつ、適切なタイミングで伝えていくとしよう。
よし、いざ勝負!
「まずは、俺の身に起こった事から説明するかな」
俺はこの世界で目を覚ました時の事から、確認の意味を込めて話し始める。
寝て起きたらこの世界にいた事。
言葉が通じなかった事。
襲撃事件があったが、元の世界ではあり得ない出来事であり、俺には対処する術がない事。
そしてそして何も無い場所で、アルさんにこの世界の言葉を理解できるようにしてもらった事。
全員が真剣な表情で俺の話に耳を傾けている。
シスターのサーナさんは、アルさんの話をしてる時、どんどん前のめりになっていたけど。
「元の世界に帰るためには、契約を履行する必要があるという事なので戻って来た。っていうのが今ここにいる理由かな」
ここまでで一度話を止める。
少し間が空き、シュルーケルさんが話始める。
「なるほどな。それは本当に悪い事をした。済まなかった」
謝罪の言葉を口にし、話を続ける。
「なぁシスターさん、召喚ってのは、相手の意志とは関係なく、突然呼び出されるもんなのか?」
「あ、いえ、あの、人と会話できる使い魔が召喚されたという話は、数が少なく、私もそれほど多くの事例を知っているわけではなく……。本部に戻った際、確認いたします」
人と会話できる召喚獣は珍しいらしい。
俺が会話できるようになったのはついさっきだけどね!
そして召喚獣じゃなくて、使い魔って名称になるらしい。
「そう、か。俺から一つ提案があるんだが、まずは聞いてくれないか。シュバルツ……コトエダアラタだったか。こいつの事は、ここだけの話って事で握り潰せないか?」
何を言い出すのですかね、このおじ様は。
「教会や、騎士団、いや、王国が、か。人型の使い魔って事で警戒しているのはよくわかる。実際俺も人型の使い魔を見た事があるが、アレはヤベーなんてもんじゃなかった。でもな、短い間だが一緒に過ごしてきて、アラタが危ない奴じゃないってのも分かったんだ」
おじ様……。
「信用できないってわけじゃねーけど、教会にせよ、王国にせよ、上に報告したら監視、もしくは身柄を確保する事になるってのは容易に思いつく。そんな不便な生活をアラタには送らせたくない」
なるほど。
俺がこの世界の事について知らなかった弊害が出てきている。
召喚は一般的で、よくある事だと思っていたが、どうやら人型になると話は変わるようだ。
確かに、会話できる異世界の人型の使い魔が現れたら、少なくとも相手の世界の知識で、役立つものは取り入れたくもなるか。
そうなると待っているのは自由のない生活。
金の卵を産む可能性がある鶏を誰が手放すものか。
「貴殿も人型の使い魔の危険性は承知しているはず。王国を守る騎士として、この事を国に報告しないわけにはまいりません」
「教会といたしましても、人型の使い魔が顕現したというのであれば、その事実は非常に重く、今後の運営に関わりますので報告の必要があります」
「どうしても、か?」
「それが騎士の務めですから」
「はい」
剣呑な雰囲気になってきた。
これは俺が何か言った方がいいのか?
「あ、あの……アラタ……さんは、どうされたいのですか?」
俺がそう考えていると、ミリーリアがおずおずといった感じで俺の意志を確認する発言をする。
「俺かぁ。そうだなぁ。誰がどこで俺の管理をするのかはひとまず置いておいてもらってもいいかな。まだ分からない事だらけなんだ」
ひとまず流れを変える事にする。
さっきの話の流れはマズそうだった。
「俺が元の世界に帰るためには、召喚の際に結んだ契約を履行する必要があるんだ。これはさっき話したよね。念のための確認だけど、俺を召喚したのはミリーリアさん、って事で間違いはないのかな?」
「はい。私で間違いありません」
そんな悲しそうな顔しないでほしい。
「どんな契約内容だったか教えてくれる?」
俺は精一杯優しく問いかける。
「えっと……。私が通っている学園では、最終年に生徒に課題が与えられます。その課題を達成するためのお手伝いをしてほしいなって気持ちで召喚しました」
「それは俺にできる事?」
「あの……わかりません……。ただ、その……アラタさんが苦手な戦闘に関する課題もあります……。私、戦闘では全く役立たずで、学園では落ちこぼれなんて呼ばれて……バカにされて……」
うぉぉぉぉい!
ミリーリアさんや! ちょっと待って。
その瞳に溜まってる涙はマズいって。
「で……も、そ、そんな私とセッちゃんが……パーティー……を、組んで……くれるっ……で、言っで……ぐれで……」
申し訳なさと、悲しさと、悔しさがごちゃ混ぜになったような感情が彼女から流れてきているような感じがする。
俺までやるせない気持ちになってくる。
どうなってるんだろう?
「ごべん……なざい。アラダざんを召喚しだと……き、こん……な、ごどになる、……んて、思わなぐで……。すごじ、でぼ、セッ、セッちゃんの役、に立てた……らなっで、思っで……」
はぁ。何だろう。
我ながら単純というか何というか。
色々考えてたのがバカバカしくなる。
ミリーリアの感情がダイレクトに伝わってきているからなのだろうか。
これも召喚の影響なのかね。
──力不足を嘆く可愛い少女が可能性を求めて召喚を行った。
学園の課題ってやつを達成する手伝いをしてほしいと。
なるほど。
依頼内容は理解した。
【痛いの痛いの飛んでいけ】は俺が言語理解を手に入れる前から伝わっていた。
日本語と何か関係があるのかもしれない。
これ以上ミリーリアが泣いているところは見たくないな。
そう思った俺は、考えがまとまるよりも先に自分の意志を伝えていた。
「わかった。それ以上泣く必要はない」
ミリーリアに、そして自分に言い聞かせるように俺は告げる。
「その想い、確かに受け取った。全力で協力しよう」




