第09話 ただいま戻りました
何もない、真っ白な空間に送り込まれる前の場所に俺は戻って来た。
まだ状況を理解できていないのか、この場にいる人たちは皆、固まっている。
『え?』
何人かが疑問の声をあげた。
俺を送還? したシスター服を着た女性は、涙目になっている。
「ど、どうしてですか! 私はあなたを送還したはずです!」
シスターさんが後ずさりしながら、疑問を投げかけ、俺から距離を取る。
シスターさんが大声を上げた事で、部屋にいる人たちも正気を取り戻したのか、全員が身構える。
おじさまはチャゲとモモゲを守るように、二人の前に立つ。
「あー、少し話し合いが必要で戻ってきました」
なぜか、俺の発言を聞いてから全員の緊張感が高まった気がする。
「その話し合いってやつは、力ずくでって事か?」
おじ様が不穏な事を言い出した。
どうしてそんな発想がでてくるのだろうか?
俺、結構おじ様とはうまくやっていけてたと思うんだけど……。
「そんなつもりはありません。純粋に、俺が置かれている状況の確認が必要なだけです。言葉通り、ただの話し合いです」
「話し合いっつったって、お前さん言葉が……。本当にシュバルツなのか?」
俺と会話できたことに気づいたおじ様が、驚きと疑問の表情を浮かべる。
そして気になったのは、ステータスを確認したときも思ったけど、シュバルツって何なのかということだ。
その辺も後で聞くことにしよう。
「はい。さっきまで皆さんと一緒にいた者で間違いありません」
俺は数日間、共に過ごしてきた三人の方を見ながらそう答える。
おじ様の後ろにいるモモゲは俺の様子が気になるのか、おじ様の後ろから顔を覗かせ、ずっとこちらを凝視している。
「そうか。今は信じるしかないな。まずは話し合いだったか。その提案を受け入れよう」
唯一まともに動けているおじ様がそう締めくくり、俺の今後を左右する話し合いが始まろうとしていた。
◆
隣の部屋にある会議室に移動した俺たちは、会議室の一画に集まっている。
あの場にいた全員が話し合いに参加することに決まった。
とはいっても、騎士団は口を出すつもりはないらしい。
状況を確認して、どこかに報告するために話し合いの内容を知る必要があるとの理由からの参加である。
シスターは、送還を受け持った責任があるので最後まで見届ける義務があるとのこと。
「さて、まずは軽く自己紹介からだな。俺はシュルーケル。隣にいる二人は俺の娘だ」
シュルーケル?
どこかで聞いた響きだけど、すぐには思い出せない。
何だったかな。シュルーケル、シュルーケル……。
あ! 俺の弱点じゃん!
おじ様の名前はシュルーケルで、俺の弱点もシュルーケル。
俺の弱点がおじ様って何で……。
普通、あっても火属性、とか水属性、みたいな感じじゃない?
これも正しくない手順で召喚された弊害なのかな。
俺が弱点について考えていると、チャゲとモモゲが続けて自己紹介を始める。
「アタシはセレイナよ。それと、初めてあなたに会った時、いきなり拘束してごめんなさい。言い訳になるけど、あの時はああするしかないと思ったの。その辺の事情も後で話すわ」
チャゲの本当の名前はセレイナというらしい。
意識しないとチャゲって呼びそうな気がする。気を付けよう。
「私はミリーリア。アナタを召喚しました。突然召喚してごめんなさい。頼りない主だったせいで、不安にさせてごめんなさい」
モモゲの名前はミリーリア、と。
そして続く謝罪の言葉。
モモゲ……ミリーリアの表情からは、本当に申し訳ない事をしたという思いが十分に読み取れる。
しかし、その表情から読み取れる以上に、本心から俺に対する謝罪の気持ちが俺に伝わってきているように感じられる。
「一応確認するが、言葉は伝わってるんだよな?」
おじ様が本当に言葉が伝わっているのか俺に確認をとる。
「はい。大丈夫です。シュルーケルさん、セレイナさん、ミリーリアさんですね」
「アタシの事は呼び捨てでいいわ」
「私も、ミリーリアでもミリーでもいいよ」
「了解。今後はそうさせてもらうよ」
いきなり呼び捨てでいいって言われてれも、ちょっと心の準備が出来ていない。
二人との距離感も掴めていないし、いきなり親しげに接するのはどうかと思うし。
そんな内心を悟られないように、俺は少し誤魔化すことにした。
「そして謝罪の言葉も確かに受け取った。ひとまず謝罪を受け入れようと思う」
少しだけ、上から目線になっているような気がするが、何もわからない状態で相手に主導権を握られるのは避けたいので仕方がない。
「ひとまず」と付け加えたのも、話し合いの内容によっては、俺の今後の動き方も変わってくるから念のためである。
何ができるかもわからないけど、されるがままになるつもりはない。
「大丈夫そうだな。で、こっちのシスターは『教会』ってところから派遣されてきたんだが……」
おじ様は、どう説明したものかと、一度発言を区切って少し考え込んでいる。
考え込んでいるおじ様に助け舟を出すかのように、シスターがその発言を引き継ぐ。
「お初にお目にかかります。わたくし、教会にて召喚と送還のお手伝いをさせていただいております、サーナと申します。よろしくお願いいたします」
俺が戻って来た時は涙目だった気がするが、そんな出来事はなかったのではないかと思わされるくらい、しっかりとした、そして丁寧な自己紹介だった。
銀色の髪は肩の辺りで綺麗に切り揃えられ、キレイな光沢を放っている。
自己紹介の後、一礼し、上体を起こしたとき、胸元が揺れた気がするが気のせいではないだろう。
体のラインを強調しているわけではないのであろうが、ピッタリと張り付いていると表現するのが適切なシスター服を身に纏っている。
この女性が俺が元の世界に帰るまで、俺の担当者になるのだろうか?
そうなら嬉しい事この上ない。
「丁寧にありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします」
無難に返せてたと思う。アルさんみたいに考えてることが筒抜けって事はないと思いたい。
筒抜けだったら今すぐ布団にダイブして悶える事間違いなしだろう。
続いて、銀の鎧を身に着けた騎士団の人が一歩前へ出て、自己紹介を行う。
「王都第七騎士団、第五小隊隊長、ロイと申します! 人型の使い魔が召喚されたと聞き、状況を把握するためにこの場におります。最後まで話し合いの内容を確認することをお許し願いたい」
ハッキリとした口調で自己紹介をしてくれたロイさん。
短髪の赤髪で、三十歳くらいだろうか。
整った顔から発せられたその言葉は、有無を言わさぬ迫力があり、気圧されそうになる。
何か大事になってないかな?
別に話を聞くくらい問題ないような気がするけど。
「ロイさんですね。この話し合いの内容を確認するのは一向に構いません」
「はっ! 感謝いたします!」
騎士の人って礼儀正しいというか、こういう感じなのかな?
最後に俺が自己紹介をして、本題に入る事にしよう。
「俺はコトエダ アラタ。十七歳。高校三年。日本という所からこの世界に召喚されたらしい。らしいってのは、後で本題に入ったときに説明するけど、俺もよくわからないからなんだ。だから、その辺の話からしていくことになると思う。この世界の事は何一つわからないから、おかしな点などがあれば、その都度教えてくれると助かる」
シュバルツはコトエダアラタって言うんだ、という声が聞こえてきた。
シュバルツって呼ばれてたのか。どこにシュバルツ要素があったのか謎である。
しかし、俺もチャゲとかモモゲって呼んでいたので、他人の事は言えないから触れないでおく。
こうして、ひとまず各々の自己紹介が終わった。
いよいよ、俺の置かれている状況についての会議が始まろうとしていた。




