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第08話 アルさん

 ここは一体どこなのだろうか?


 魔法陣の上に立って、光に包まれたのは間違いない。

 そして気づいたらこの何もない、真っ白な空間にいる、と。


 普通、家のベッドの上じゃない?

 あー、夢かー。ってなって、いつの間にか内容も忘れてる。

 それが普通だと思うんだ。


 しかし俺は今、意識がはっきりした状態で未知の空間にいる。



『───────』


 発砲スチロールをこすり合わせたような、黒板を引っ搔いたような音が聞こえてきた。

 

 本当に夢の音は碌なもんじゃない。


『キ……マ…カ』


 さっきよりはマシだけどまだ辛い。

 耳をふさいでも音が小さくなることもない。


『これで……』


 不快感はかなり薄れてきているけれど、まだ聞き取り辛い。


『これでどうですか。理解できるはずです』


 聞き取れる。

 けれども、これは誰の声なのだろう?


 声に抑揚がなく、感情を読み取るのが困難で、男か女かもよくわからない。


『私はただここに在るだけです。性別の概念もありません』 


 ちょっと何言ってるかわからないですねー。


『そういうものだと考えてください』


 さっきから気になっていることがある。

 俺、声に出してた?


『いいえ。出していませんでした。しかし、私は知る事が出来ます』


 外国語の怪しい翻訳みたいな感じで言われても……。


『私は、あなたに伝えるにはこの方法しかありませんでした』


 ……もしかして神様……とか?


『いいえ。違います。私はただここに在るだけです』


 わからん。


『そういうものだと考えてください』


 話戻すの?


『いいえ。話を進めます』


 お願いします。


『あなたは召喚される立場にありませんでした』


 ……召喚?


 召喚……された?

 俺が? いつ? どうやって?


『私はそれを知りません』


 と、いう事はさっきまでのは夢じゃない?


『はい。そして今も夢ではありません』


 ちょっと理解が追い付かない……。

 

『正しい手順で召喚が行われた場合、召喚を管理する存在が、全ての采配を行います』


 では、あなたが召喚を管理する存在?


『いいえ。私はただここに在るだけです。召喚を管理する存在とは別です』


 本来は、召喚されたら──まだ納得できないけど、こことは違う場所で、その召喚を管理する存在? だかと何かをして、召喚された所に行くと?


『はい。その認識で間違いありません』


 でも、正しい手順で召喚されたわけじゃない俺は、この場所に戻されたと。


『少し違います。戻された、という表現は適切ではありません。他に行く先がなかったので、ここにいます』


 行き先はそのまま、俺の部屋でいいと思うんだけどな。


『まだ契約が終了していないので、帰還することはできません』

 

 契約……。結んだ覚えがないんだが……。

 そもそも誰と契約したんだ?


 モモゲか……?

 契約内容が全くわからないけど、どうすれば帰れるんだろう?

 

『はい。あなたは正しい手順で召喚されませんでした。誰と契約を結んだか、どんな内容かは私は知る事ができません。なので、あなたが確認する必要があります』


 まさか、あそこに戻れと……?


『はい。あなたは契約を履行する必要があります。そうすれば、あなたの望む世界に行くことができます』


 あの、人間が瞬間移動して突然背後に回り込んだり、見た事ない生き物が襲ってくるあの世界に戻れと?


『はい』 


 他に方法は?


『ありません』


 詰んだ……。

 完全に詰んでるよコレ……。

 

 そもそも契約も何も、言葉すら分からない。

 あの世界の言葉を覚えるだけでどれだけ時間がかかる事か。

 そもそも言葉を覚える前に死ぬような気がする。


『必要ありません。あなたは言語がわかります。そしてあなたは死にません』


 ここ数日間誰とも会話してないんですが……。

 【痛いの痛いの飛んでいけ】は何故かわかったけど。


 それよりものすごく不穏な言葉が聞こえて気がしたんだけど……。


 死なないって何?


『まず、あなたは私の言語が理解できます。なので他の言語も理解できます』


 ……?


『あなたがここに来た時、調整しました』


 え? 何それ怖い。

 

『問題ありませんでした』


 問題しかねーよ!

 死なないってのも、もしかして調整したから?


『いいえ。召喚された者は、他の世界では死ぬことはありません。召喚を管理する存在の空間に送還されます』


 あー、ゲームの召喚獣が倒されてもまた使えるようになる原理か。


『その認識で問題ありません』


 随分物分かりがいいですね。


『あなたがここにいるので、私はあなたを知る事ができます』


 ……やっぱりあなたは神ですか?


『いいえ、違います。私はただここに在るだけです』


 それでも何か上位の存在っぽいんですが……。

 ダメだ。考えがそのまま漏れてると口調が安定しない。

 どうするのが適切なのだろうか。


『上位、下位という概念はありません。私はただここに在るだけです。そして何も気にする必要はありません』


 信じていいのだろうか?

 打算的な考え方をすると、丁寧な対応をとると特典があるパターンも……。


『何も気にする必要はありません。そして私は、いくつかあなたにできることがあります』 


 あるんだ……特典が。


『その中の一つが「言語理解」です』


 なるほど。

 あの世界に行って、契約内容を確認して、履行するために必要だから授けてくれると。


『すでに調整済みです』


 あっ、もしかして最初の黒板を引っ掻くような音から、声に変わっていったのはその調整ってやつをしたから?


『はい。その通りです』


 まずは言語の壁クリア。

 あの世界に行くなら、おじ様とチャゲが使ってた瞬間移動も使えるようになったり?


『私にはそれはできません』


 ダメなんだ。

 全くあの世界の事がわからないけど、戦闘力って大事な必要な世界なの?

 常にあんな生き物に襲われる可能性ありますって世界だと、すぐに死ぬ気……死なないのか。

 いや、死なないにしても痛いのは嫌だし、身を守るすべは欲しい所だけど……。


『私はその場所の事はわかりません。あなたは自分の身は自分で守る必要があります』


 ハード過ぎる……。

 なんかこう、ステータス的なものを見ることができるようになったりしない?


『ここで確認することができるようにします』


 お? それっぽくなってきた。


「ステータスオープン!」


 やっぱり一度はやりたいよね。

 ……いくら待っても出てこないのですが?


『終わりました。こちらをどうぞ』


 あ、はい。ありがとうございます。

 紙で確認するんだ……。

 本当に、この場所限定の能力ですか。


〇〇〇〇


名前 :コトエダ アラタ (シュバルツ)

主  :ミリーリア (仮)

種族 :人間

性別 :男

年齢 :十七

弱点 :シュルーケル

スキル:言語理解

    

〇〇〇〇


 何かイメージと違う……。

 もっと体力とか、数字で表現されてる情報が欲しいかも。


『私にはそれをすることはできません』


 ごめんなさい。贅沢すぎました。


 主ってのが、俺を召喚した人だとしたら、モモゲの事になるのか。

 ミリーリアって名前なのかな。「(仮)」ってついてるのは、正しい手順で召喚されなかったからって事かな。

 それにしても、弱点のシュルーケルって何だ? 魔法? の属性みたいなものかな?

 あの世界の常識がわからないから自分の弱点が何を指しているのかわからない。

 これは要確認かな。


 後は、防御力? 体を硬くする? 力を強くする? みたいな調整はできますか?


『私にはそれをすることはできません。すでに適した体になっています』

 

 お? マジで?

 そういえば筋トレも思ったより出来てたし、そういう事なのかな。


 後は何ができますか?


『私はそれを教えることはできません』


 困った。

 一応聞いておこう。


「俺はこの状態で、快適な生活をあの世界で送る事はできますか?」


『私にはそれはわかりません。それはあなた次第です』


 ふぅ。肝心なことがわからないな。

 この神様……じゃないのか。

 なんなんだろう? 

 在るだけとしか言わないし、アルさんでいいや。

 

 アルさんにとっては俺の事はどうでもいいのかもしれない。

 いや、そうでもないのか?

 何かを俺に伝えたりすることは禁止されてる可能性もある?

 わからんな。

 

 違うな。今考えることはあの世界でどうするか、かな。

 

 言葉がわかるようになった。

 体もあの世界に適したものになった。

 そして死なない。


 ……これ、俺人間辞めてない?

 元々召喚ってのも超常現象みたいなものだし、深く考えるのは止めよう。


 前向きに考えるとゲームの世界みたいなものか。

 夢ではなく、現実って話だから、厳密には違うのかもしれないけれど、そう考えないとやってられない。

 何が出来るのかわからないけれど、とりあえず色々試してみよう。


 ゲームの世界に憧れがないわけじゃないし。

 ただ、あんな事があったし、若干不安ではあるけど。


 楽しめそうなら楽しむ。

 ダメそうならまた後で考える。


 わからないことが多すぎるし、情報を集めつつ考えをまとめていこう。

 

 俺はそう決意する。


『そろそろよろしいでしょうか』


 アルさんに問われる。


「はい。お待たせしました」


『それでは元の場所に戻します』


 やっぱり元の場所って俺の部屋ではないですよね?


『はい。違います』


 よし、覚悟は決まった。

 あの世界でしばらく生きていくのだし、思いっきり楽しもう。


『それでは戻します』



 俺は光に包まれ、そして先ほどの部屋に戻された。

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