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モモゲの非日常4

ミリーリア、セレイナ、シュバルツの三人は帰宅する道中、治療院の前に人だかりが出来ているのを目にする。

 そして治療院から、人込みをかき分け、白衣を身にまとった女性が、慌てた様子で村の外へ駆け出していく。


「もしかして、治療院のポーションでも治らない人がいたのかしら?」

 

 セレイナの疑問の声に答える者は誰もいなかった。


 (私の【コトワザ】が使えたら……ううん。ダメね。成功させたことも無いのに)


 ミリーリアには一つだけ、この場で役立つ【コトワザ】に思い当たる節があった。

 しかし、どれだけ試しても効果が現れず、使い方が間違っていると判断し、諦めたのだ。


 (やっぱり練習しておくべきだったかな)

 

 

 三人が帰宅してからそれなりの時間が経った頃、シュルーケルが遅れて帰宅した。


「おかえりお父さん」

「おう、ただいま」

「おかえりなさいシュルーケルさん」

「二人……三人とも無事だったか。こっちも事後処理はある程度終わった。後は明日、騎士団を交えて正式な会議がある」


 シュルーケルが遅れて帰宅した理由と、今後の予定を告げる。


「とりあえず、疲れてるだろ。まずは風呂でも入ってさっぱりしようぜ」


 

 シュバルツが風呂に入っているタイミングで、シュルーケルが切り出す。


「騎士団の本陣から教会のシスターがこの村に派遣されている。明日、シュバルツを送還出来るかもしれない」

「えっ?」


 急な状況の変化に驚きの声を上げるミリーリア。


「そう……。ねえミリー、急な事だし、驚くのもわかるわ。でもね、今のアタシ達がシュバルツに何をしてあげられるの?」


 突然の状況に困惑するミリーリアを優しく諭すセレイナ。

 セレイナの発言を受け、どうするのがシュバルツにとって最良となるか考えた時、やはりミリーリアも同じ結論に達する。


「そうだよね。シュバルツはずっと不安そうだった。元の世界に帰れるなら帰った方がきっと幸せだよね」

「そうと決まれば今日の夕飯は少し豪華にいきましょうか。気合入れてつくるわよ!」

「わかったよセッちゃん! 私も手伝うね!」

「待ちなさいミリー。あなたはシュバルツを見ててあげて。今日で最後になるのよ?」

「そうだぞミリーリア。俺みたいなおっさんと二人で待つよりも、仮初とはいえ主と共に過ごした方がいいんじゃないか?」


 最もらしい理由でミリーリアが台所に立つのを防ぐことに成功した二人は、内心安堵していた。


 

 最後の夕食が始まった。


 三人は今日の戦いの内容より、今までシュバルツと過ごしてきた、短い日々の思い出話に花を咲かせる。

 

 そして夕食の時間も終わり、少し自分の身体を気にするシュルーケルに気づいたミリーリアは声をかける。


「あれ? シュルーケルさん少し疲れてる?」

「ん? ああ。さすがに久しぶりに張り切ったからなあ。ちょっと身体が驚いてるのかもな」

「あの動きで現役じゃないっていうんだから、やっぱりお父さんはおかしいわよね」

「人を化け物扱いするんじゃねーよ。ほら、俺だってちゃんとそれなりに疲れてるだろ?」


(シュルーケルさんにお願いして少し試してみようかな。ダメだったらそのままサッサージでいいよね)


「ねぇシュルーケルさん。ちょっとここに横になってもらっていいかな?」


 ミリーリアは席を立ち、居間の空いているスペースに布団を敷く。


「お? マッサージでもしてくれるのか? ありがてーな」

「まだわからないよ? ダメならマッサージで我慢してね」

「我慢もなにも、ありがてーことには変わりないだろ」


 ミリーリアに促されるまま、布団にうつ伏せになるシュルーケル。


 (思い出せ私。絶対ここで成功させる)


 ミリーリアは自分に気合を入れる。そして【コトワザ】を唱える。


「【イタイノイ…………………ケ】」

「【イタ…ノ……………ンデ…ケ】」

「【イタイノイ…イ…デ…デケデ】」

「【イターノイタイノデンデケデー】」

「【イタイノイタイノデンデデデ】」

「【イタイノイタイノドンデケデー】」


 ミリーリアは発動することを祈って【コトワザ】を唱え続ける。


「××、【痛いの痛いの飛んでいけ】×××××?」


 『え?』


 全員の視線がシュバルツに集まる。

 ミリーリアが【コトワザ】を唱えるのに苦労している様子を見て、シュバルツが何かを口にしたのだ。


「シュ、シュバルツ、お願い。少しこっちに来てもらえるかな?」


 ミリーリアに「もしかして」という思いが芽生える。 

 

 (シュバルツは【コトワザ】が使える? だから何を言いたいのか分かりそうだった?)


「【イタイノイタイノデンデイケ】」 

「【痛いの痛いの飛んでいけ】」

「【イタイノイタイノトンデケデ】」


 ミリーリアは何かを掴みかける。そしてついにその時は訪れる。


「【痛いの痛いの飛んでいけ】」


「【イタイノイタイノトンデイケ】」


 ミリーリアの手に優しい光が現れ、その光がシュルーケルの身体に吸い込まれるように消えていく。


 ミリーリアは【イタイノイタイノトンデイケ】が発動した驚きで固まっている。

 

 最初に動いたのは、自身の身体から倦怠感が消えたシュルーケルだった。

 娘のおかげで体調が良くなる。喜ばない父親はいないだろう。


「凄いな。一気に身体が軽くなったぞ」


 ミリーリアに向け、満面の笑みでサムズアップ。


 やっとの事で状況を飲み込めたミリーリアは、喜びと達成感でどうしていいのかわからなかったが、笑顔のセレイナを見つけたので、勢いよく駆け寄る。


「セッちゃああん! 出来た! 出来たよ! これは成功だよね?」

「やるじゃないミリー! 凄かったわよ!」

「だよね? だよね? ちゃんと出来てたよね? セッちゃんにもかけてあげる! 【イタイノイタイノトンデイケ】!」


 喜んでいたミリーリアだが、セレイナに【イタイノイタイノトンデイケ】をかけた瞬間、脱力感に襲われる。


「そういえば、命中率が上がる魔法を初めて使った時もこうだったわね。お父さん、ミリーを部屋に連れていくわ」

「おう! 初めて使う魔法は感覚が掴めなくて必要以上に魔力を込めるって聞くしな。一晩寝たら元気になるだろ」

「じゃ、少し早いけどアタシももう寝るわ。おやすみなさい」

「おう。おやすみ。明日は会議だから忘れるなよ」

「大丈夫よ」


 娘二人が自室に戻った後、父親のシュルーケルはいかに二人が凄いか、そしてどれだけ父親思いで可愛いかをシュバルツに語っている。


 シュバルツは興味なさそうに、早々に眠りにつく。


「ありがとよ、シュバルツ。お前さんがフォローしてくれたんだろ」


 

 翌朝、普段通り目を覚ましたミリーリアは、自室で昨夜の出来事を振り返る。


 (【イタイノイタイノトンデイケ】が使えるようになったのは嬉しいけど……今日でシュバルツともお別れなんだよね……。もしシュバルツとちゃんとお話しできたら、【コトワザ】の事もっと教えてくれたのかな?)


 もうすぐ訪れる別れがどうしても頭をよぎり、嬉しさよりも寂しさ、そして後悔の感情が強くなっていく。

 

 (もう少し【コトワザ】の言語を理解してたら、お話しできたんだよね……)


 朝食の最中もミリーリアはシュバルツの事が気がかりで、料理の味も感じ取れなかった。


 

 そしていよいよ会議が始まる。


 ミリーリアは会議の内容よりも、会議の後に訪れる別れの事に頭がいっぱいになり、内容はほとんど覚えていない。


 ただ、騎士団の不手際により今回の襲撃が発生したため、人的、物的補償は騎士団の名において、必ず履行するという事だけは覚えている。


 会議が終わり、参加者が各々会議室を後にしている。

 現在残っているのは騎士団と、ミリーリア達四人のみとなる。


 シュバルツが外に出ようとしていたので、ミリーリアは反射的に腕を掴む。


「ごめんね、シュバルツ。今日でお別れなの。あなたが帰るところはあっちにあるの」


 ミリーリアは会議室の奥にある別室を指差し、そう告げる。


 別室には騎士団により派遣されたシスターが、すでに使い魔を送還するための魔法陣を描き、準備を終えていた。

 

 (あっ……やっぱりそうだよね……)


 魔法陣をみたシュバルツは、吸い込まれるように魔法陣の方へ向かう。


 しかし、ミリーリアがまだ腕を掴んでいるので途中で止まってしまう。

 

 まだ別れたくない。

 もっと【コトワザ】について教えてほしい。


 そんな想いでいるミリーリアだが、シュバルツが何かを話しているのに気付く。

 そして、ゆっくりと掴んでいるその手を離す。


 シュバルツが一礼し、魔法陣の中心に立つ。


「それでは、これより送還を行います。構いませんか?」


 シスターの問いかけに頷くことしかできない。


 ミリーリアはただ、シュバルツが光に包まれ、そして消えていく様子を眺めている。


 (しっかりお別れできなかったな……)


 シュバルツの姿が完全に消える。






 そして魔法陣が再び輝き、シュバルツが姿を見せるのであった。

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