モモゲの非日常2
ミリーリア視点です。
ミリーリアが家にもどると、居間にはセレイナと使い魔の男しかいなかった。
「一番高いの買っちゃった」
戦利品を天高く掲げ、満足げな表情のミリーリア。
「そう。お父さんも戻ってきたみたいだし、アタシも戻るわ」
シュルーケルが自室から戻って来るのを察知したセレイナは、そう言い残し台所へ戻っていく。
「おかえり。本と地図を探してきたぞ。これで何かわからねーかな」
「試してなかったね。盲点だったよ」
しかし、残念ながら状況が改善される事はなかった。
念のため、の意味合いが強かったのでそれほど落胆した空気が流れなかったのは幸いであった。
手持ち無沙汰なミリーリアは、使い魔の男を観察しているが、照明の魔道具を気にしている事に気づく。
(使い魔さんってきっと館に住んでるんだよね。そろそろ暗くなるし、驚かせてあげよう)
ミリーリアが持つ吸血鬼のイメージは、古びた洋館の地下に、蝋燭の火が揺らめく。そんな空間で生活しているというものだった。
そうと決まればミリーリアの行動は速い。
カーテンを閉め、壁に設置されている照明の魔道具のスイッチを、少し勿体ぶりながら入れる。
(ふっふっふ。蝋燭ではないのです。これが文明というものなのです)
照明に明かりが灯る。
しかし、使い魔の男に驚いた様子は見られない。
(あれ? おっかしーなー。 照明の魔道具は珍しくない?)
期待していた反応が返ってこなかったミリーリアは、少し残念に思いながら元の席に戻る。
「出来たわよ」
台所から調理を終えたセレイナが完成した料理を持って居間に入ってくる。
「で? ミリーはなんでそんな顔してるわけ?」
「何でもないよ。気にしないで」
「そう? ならいいけど。配膳済ませちゃうわね」
「照明の魔道具を使い魔が気にしてたから、明かりをつけてみたけど何の反応もなくて、どうしていいかわからねーみたいなんだ」
「ちょ、ちょっと何言ってるんですかねー」
「あ、凄くどうでもいいかも」
そんなやり取りをしたあと、人数分の配膳を終えたセレイナが、最後に使い魔の男用に、カップを手渡す。
使い魔の男は何故自分の分だけカップがあるのかといった感じで首を傾げる。
周囲の反応を確かめていた使い魔の男に気づいたシュルーケルは、台所に移動し、全員分のカップを手に持ち、戻ってくる。
「ちょっとお父さん。私はいらないからね」
「うん、シュルーケルさん。私もいいかなー」
「おいおい。この男を見てみろ。自分だけカップ渡されて不安そうにしてるだろ。全員で同じものを頂く。こうやって信頼ってのは積み重ねていくもんだ」
それらしい事を言っているシュルーケルだが、娘二人がトマトジュースがそれ程好きではないことを知っている。
学園での食事事情はわからないが、この機会に少しでも好き嫌いをなくし、バランスの取れた食生活の大切さを学んでほしいという親心からの行いだ。
そしてほんの少し、自分の知らないところでトラブルを起こした娘二人へのペナルティの意味合いが含まれているのも仕方ない事である。
シュルーケルが全員にトマトジュースを注いぎ、夕食の準備が完了する。
「それじゃ、乾杯!」
「「乾杯……」」
目の前に鎮座するトマトジュースに気が重くなるミリーリア。
(使い魔さんはやっぱりトマトジュース飲めるんだ。テイスティングもしてたし……)
飲み物の正体を探るべく、匂いから推測していただけの使い魔の男の行為も、ミリーリアには品質チェックをするその道のプロに見えた。
夕食が終わり、今後の予定の修正もある程度済み、ミリーリアは自室に戻っていた。
(どうしよう。使い魔さんはシュルーケルさんと一緒に寝ることになっちゃったし……)
当初、使い魔の男は納屋で一晩過ごす予定であった。
しかし、この男に対してあまりにも思いやりが欠けているのでは? となり、居間を寝床とすることで話し合いは落ち着いた。
ミリーリアはこっそり血を飲ませようと考えていたが、シュルーケルが側にいるので、計画を実行に移せないでいた。
コンコンコン
「はーい」
「ミリー、ちょっといいかしら」
ミリーリアがドアを開けると、真剣な表情をしたセレイナの姿があった。
「どうしたのセッちゃん、こんな時間に」
「ちょっと話があってね。入っていい?」
そう尋ねられたミリーリアは、セレイナを部屋へ招き入れる。
二人はベッドに腰掛け、顔を見合わせる。
少し気まずい沈黙が訪れる。
「あー、何から話そうかね。んー、夕食前の事覚えてる?」
妙に歯切れの悪いセレイナであるが、ミリーリアは夕食前と聞き、説教の続きが始まると身構える。
「あ、別に怒ってるとか、別にそういう訳じゃないの。えっと、ミリーのあの行為で、男の人がどんな気持ちになるのかというか、何というか……」
セレイナが何を言いたいのかイマイチ理解できないミリーリア。
「ご飯が来たとか? でも飲まなかったし、美味しくなさそうだったのかなーって。走ったから、私汗臭かった?」
「よし、わかったわ。ミリー、学園の授業で──」
セレイナの話が進むにつれ、ミリーリアの顔が真っ赤になっていく。
説明しているセレイナも、気恥ずかしさからか、顔が熱を帯びていくのを感じ取る。
「え、でもさっきは触られも──」
「そりゃいきなりあんな事になったら誰でも固まるって。この際だからハッキリ言っておくけど、ミリーにあんな事されたら、ほぼ全ての男は野獣と化すわよ。それくらいアナタは魅力的なの。覚えておきなさい。そして気を付ける事!」
「えー、セッちゃんの方が可愛いよー。スラっとしててキレイだし、しっかりしてるし──」
授業は続く。
「あれ? でもそんな事知ってるセッちゃんはもしかして──」
「バ、バカ! アタシはただ授業の内容から一般論として──」
「おやおや? 顔が赤くなってきてますなー。これはもしかして──」
「だから! アタシも詳しくは分からないけど──」
「でも私が知らない事を教えてくれたし本当──」
「────……てば!」
「そうな──」
「とにかく、これから冒険者として活動していく上で、戦闘面以外でも自分の身を守る必要性は理解してくれたかしら?」
「うん。少し無防備っだったって事だね」
「わかってくれたらいいのよ。じゃあ、アタシはもう寝るわね。おやすみなさい」
「おやすみー」
そう言い残し、セレイナはミリーリアの部屋を後にした。
(えーーー、そういう事だったの?? そうなの? 使い魔さんに変な人って思われてる??)
いくら純粋なミリーリアとはいえ、性に関する知識がゼロではない。
ただ、自分の行いと知識が結びつかないだけである。
(どうしようどうしようどうしよう)
ベッドの上で軽く足をバタつかせ、悶えるミリーリアはなかなか眠りにつくことができなかった。




