第55話 見えない境界
朝なのか。
夕方なのか。
わからない。
……。
ここには。
時間がない。
……。
いや。
時間は。
流れている。
……。
流れていないのは。
私だけだった。
……。
人は。
歩く。
……。
立ち止まる。
……。
笑う。
……。
泣く。
……。
季節も。
少しずつ。
変わっていく。
……。
でも。
私は。
何も変わらない。
……。
空腹も。
眠気も。
ない。
……。
寒くも。
暑くも。
ない。
……。
ただ。
世界を。
認知している。
……。
見えている。
……。
でも。
触れられない。
……。
子どもが。
転んだ。
……。
思わず。
手を伸ばす。
……。
届かない。
……。
私の手は。
その子を。
すり抜けた。
……。
風だけが。
揺れた。
……。
誰にも。
気づかれない。
……。
私は。
ここにいる。
……。
でも。
誰の世界にも。
いない。
……。
遠くで。
汽笛が鳴る。
……。
石畳。
人力車。
洋館。
着物。
……。
知らない景色。
……。
なのに。
懐かしい。
……。
どうして。
私は。
知っているんだろう。
……。
知らない。
はずなのに。
……。
歩く。
……。
歩いている。
……。
違う。
……。
私は。
歩いていない。
……。
景色が。
私を。
通り過ぎていく。
……。
身体が。
ない。
……。
それでも。
私は。
ここにいる。
……。
もしかしたら。
……。
私は。
幽霊なのかもしれない。
……。
そう思った。
……。
その時だった。
……。
一人の少女が。
立ち止まる。
……。
私の方を。
見た。
……。
目が。
合った。
……。
そんな気がした。
……。
少女は。
首を傾げる。
……。
そして。
小さく。
笑った。
……。
初めてだった。
……。
私という存在が。
世界に。
触れた気がしたのは。




