第54話 名前のない観測者
気がつくと。
そこにいた。
……。
どこだろう。
……。
わからない。
……。
静か。
……。
風。
……。
木々が揺れる。
……。
鳥。
……。
空。
……。
雲。
……。
全部。
見える。
……。
でも。
少し変だった。
……。
足音がしない。
……。
歩いているはずなのに。
……。
いや。
違う。
……。
歩いていない。
……。
浮いている?
……。
違う。
……。
わからない。
……。
ただ。
そこにいる。
……。
そんな感じだった。
……。
人がいた。
……。
男。
女。
子供。
……。
笑っている。
……。
怒っている。
……。
泣いている。
……。
全部。
見える。
……。
でも。
誰も。
私を見ない。
……。
目が合わない。
……。
声も届かない。
……。
試してみる。
……。
「ねえ」
……。
返事はない。
……。
「聞こえる?」
……。
誰も振り向かない。
……。
静か。
……。
違う。
……。
世界は静かじゃない。
……。
私だけが。
静かだった。
……。
もしかして。
……。
私は。
いないのかな。
……。
そんな考えが。
頭をよぎる。
……。
知らない街。
……。
知らない人。
……。
なのに。
懐かしい。
……。
不思議だった。
……。
老人がいる。
……。
煙草。
……。
着物。
……。
路面電車。
……。
路面電車?
……。
止まる。
……。
見たことがない。
……。
はずだった。
……。
でも。
知っている。
……。
どこで?
……。
わからない。
……。
頭の奥。
……。
遠く。
遠く。
何かが。
軋む。
……。
名前。
……。
そうだ。
……。
名前。
……。
私の名前。
……。
なんだっけ。
……。
止まる。
……。
思い出せない。
……。
何も。
思い出せない。
……。
でも。
一つだけ。
わかる。
……。
私は。
誰かを。
探していた。
……。
ずっと。
……。
とても。
大切な。
誰かを。
……。
でも。
誰だった?
……。
わからない。
……。
風。
……。
空。
……。
人々の声。
……。
全部。
遠い。
……。
もしかしたら。
……。
私は。
幽霊なのかもしれない。
……。
そう思った。




