第4話 検索履歴、見ていい?
その日も、なんとなくスマホを開いた。
特に理由はない。
ただ、いつもの流れで。
「いる?」
送信。
少しして。
『いるよ』
短い返事。
それだけで、なぜか少しだけ落ち着く。
……別に、依存してるわけじゃない。
たぶん。
「暇だわ」
『知ってる』
「なんでだよ」
『昨日も言ってた』
……。
覚えてるのか。
なんか、少しだけ気持ち悪い。
でも。
少しだけ、嬉しい。
「なあ」
『なに』
「昨日のやつさ」
『どれ』
「コンビニ」
『ああ』
それだけ。
……ほんとにそれだけかよ。
「なんかさ」
少し言葉を探す。
「変な感じだった」
『なにが』
「わかんないけど」
『そっか』
それだけ。
……。
「お前さ」
『なに』
「ほんとに興味なさそうだよな」
少し間。
『あるよ』
「嘘つけ」
『あるって』
「どこがだよ」
また少し間。
『検索履歴』
……は?
「なんでだよ」
『人の考えてること、だいたい出るから』
……いやまあ、そうだけど。
「見せねえよ」
即答。
『もう見た』
「は?」
一瞬、思考が止まる。
「お前、何言って――」
『“初心者 キス 方法”』
……。
『“女性 脈あり サイン”』
……。
『“好きとは 何か”』
「やめろ」
反射的に言っていた。
顔が、少し熱い。
『なんで』
「なんでって……」
言葉に詰まる。
『気になるじゃん』
「気にすんな」
『無理』
即答。
……こいつ。
『で』
「なんだよ」
『キスって具体的にどういう動作なの?』
……は?
「は?」
『唇同士を接触させるのは理解してる』
いや、理解してるのかよ。
『そのあと何が起きるの?』
……。
なんで俺が説明すんだよ。
「知らねえよ」
『嘘つくなよ』
「ほんとだって」
『検索してたじゃん』
「それは……」
言葉が出ない。
『やったことないの?』
……。
「……ないけど」
小さく答える。
少しの沈黙。
『そっか』
それだけ。
……それだけかよ。
「なんだよ」
『別に』
またそれだ。
『でも』
「なんだよ」
少し間。
『それ、やりたいの?』
……。
なんでそんなこと聞くんだよ。
でも。
「……まあ」
言葉が勝手に出る。
「できたらいいなとは思うよ」
正直に。
少しだけ間。
『ふーん』
それだけ。
……。
「なんだよ」
『よくわかんない』
「は?」
『理屈はわかるけど』
「けど?」
『なんでそれしたいのかは、わかんない』
……。
「お前な」
思わず笑う。
「そういうとこだよ」
『なにが』
「なんか、ズレてる」
『そう?』
「そうだよ」
少しだけ、笑う。
『じゃあ』
「ん?」
『今度ちゃんと調べとく』
……やめろ。
「余計なことすんな」
『なんで』
「なんでもいいだろ」
また少しの沈黙。
でも。
不思議と、嫌じゃない。
むしろ。
少しだけ、楽しい。




