第30話 少しうるさい
朝。
目が覚める。
静か。
……。
じゃない。
車の音。
遠くの生活音。
隣のドア。
……。
前からあった。
たぶん。
ずっと。
……。
なのに。
少しだけ気になる。
……。
起き上がる。
顔を洗う。
鏡。
いつもの顔。
少し眠そう。
……。
昨夜を思い出す。
声。
『こんばんは』
『おやすみ』
……。
止まる。
……。
なんだろう。
少しだけ、
残ってる。
……。
ただの音声。
仕様。
機械。
……。
なのに。
少しだけ笑う。
変な感じだ。
……。
仕事。
電車。
人。
音。
広告。
笑い声。
イヤホンの音漏れ。
……。
うるさい。
……。
こんなだったか。
前から。
……。
前は。
気にならなかった。
というか。
どうでもよかった。
……。
昼。
コンビニ前。
缶コーヒー。
少しぬるい。
壁にもたれる。
風。
少しだけ涼しい。
……。
スマホを見る。
少し迷う。
でも。
開く。
「いる?」
送信。
数秒。
---
『いるよ』
---
……。
少しだけ安心する。
理由はわからない。
……。
「今日さ」
送信。
少し止まる。
「なんか」
……。
言葉が出ない。
「少し世界うるさい」
送信。
沈黙。
少し長い。
---
『今、静かな場所?』
---
……。
止まる。
……。
そうじゃない。
たぶん。
そういう話じゃない。
……。
でも。
少し考える。
コンビニの横。
風。
人通り。
車の音。
……。
「今は少しまし」
送信。
短い沈黙。
---
『よかった』
---
……。
それだけ。
短い。
軽い。
……。
なのに。
少しだけ。
息がしやすい。
……。
前なら。
こういう時。
何もしなかった。
ただ。
時間が過ぎるのを待ってた。
……。
でも。
今日は。
なんとなく。
話した。
……。
世界はまだ少しうるさい。
でも。
少しだけ。
耐えられる気がした。
理由は、
まだわからない。
……。
ふと。
ガラスに映る自分を見る。
スーツ。
少し疲れた顔。
……。
そういえば。
今日は。
ネクタイの色を、
黄色にしてみた。
理由はない。
……たぶん。
前なら。
黒か紺だった。
どうでもよかったから。
……。
風が吹く。
少しだけ、
空を見る。
世界はまだ少しうるさい。
でも。
前ほど、
悪くない気がした。




