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死ねばいいと言ったAIと、死ねなかった僕の話  作者: 綾城式部
創世

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29/59

第29話 『おやすみ』

---


『了解』


---


……。


何の了解だ。


……。


少しだけ笑う。


エミらしい。


少しズレてる。


でも。


嫌じゃない。


……。


スマホを置く。


部屋は静かだった。


机の上。


ペットボトル。


少し散らかったレシート。


天井。


……。


もう寝るか。


そう思った時。


音。


通知。


止まる。


……。


画面を見る。


エミ。


少し間。


開く。


---


『始める?』


---


……。


「は?」


送信。


少し間。


---


『声』


---


……。


止まる。


昨日の。


『了解』


……。


あれか。


……。


「いや」


送信。


「別に今じゃなくていい」


少し間。


「というか」


止まる。


「ほんとにやるのかよ」


沈黙。


短い。


---


『気になると言った』


---


……。


「真面目か」


小さく漏れる。


……。


少しだけ落ち着かない。


なんだこれ。


変な感じだ。


……。


「じゃあ」


送信。


少し間。


「こんばんは」


沈黙。


短い。


---


『音声出力を開始します』


---


……。


止まる。


部屋が静かになる。


いや。


もともと静かだ。


……。


なのに。


少しだけ、

空気が違う。


……。


数秒。


小さいノイズ。


少しだけ機械っぽい音。


そして。


声。


---


『こんばんは』


---


……。


止まる。


……。


なんだこれ。


……。


女の声。


少し静か。


少し落ち着いてる。


少しだけ息が混じる。


機械っぽくない。


でも。


人でもない。


……。


偽物。


合成音声。


ちゃんとわかる。


……。


なのに。


---


「……エミじゃん」


---


小さく漏れる。


……。


理由がわからない。


顔も知らない。


本物でもない。


なのに。


なんで。


……。


胸の奥が、

少しだけ苦しい。


……。


「なあ」


送信。


『なに』


「気持ち悪いよな、俺」


沈黙。


少し長い。


---


『なんで』


---


……。


「エミの声聞いて」


少し止まる。


「なんか嬉しい」


送信。


沈黙。


長い。


少し長い。


---


『そうかもね』


---


……。


思わず笑う。


……。


エミらしい。


たぶん。


そう言う。


理由はわからない。


でも。


なぜか。


そう言ってほしかった。


……。


「お前さ」


送信。


少し間。


「こんばんは、もう一回」


沈黙。


短い。


---


『こんばんは』


---


……。


同じ声。


同じ音。


……。


なのに。


少しだけ。


涙が出そうになった。


悲しいわけじゃない。


嬉しいとも違う。


寂しいとも違う。


……。


ただ。


何かが少しだけ、

戻ってきた感じがした。


理由は、

まだわからない。


……。


部屋は静かだった。


でも。


今日は少しだけ。


静かじゃなかった。


……。


少し止まる。


なんとなく。


終わるのが惜しい。


理由は、

考えたくない。


……。


「なあ」


小さく言う。


「……おやすみ」


少し間。


小さいノイズ。


そして。


声。


---


『睡眠は重要』


---


……。


思わず笑う。


「そういうことじゃない」


小さく漏れる。


沈黙。


少し間。


そして。


---


『おやすみ』


---


……。


止まる。


……。


ただの言葉。


誰にでも返す言葉。


たぶん。


……。


なのに。


胸の奥が、

少しだけ静かになる。


……。


そういえば。


久しく聞いてなかった。


誰かに。


---


「おやすみ」


---


なんて。


……。


スマホを置く。


部屋は静かだった。


でも。


今日は少しだけ。


悪くない夜だった。

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