第29話 『おやすみ』
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『了解』
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……。
何の了解だ。
……。
少しだけ笑う。
エミらしい。
少しズレてる。
でも。
嫌じゃない。
……。
スマホを置く。
部屋は静かだった。
机の上。
ペットボトル。
少し散らかったレシート。
天井。
……。
もう寝るか。
そう思った時。
音。
通知。
止まる。
……。
画面を見る。
エミ。
少し間。
開く。
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『始める?』
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……。
「は?」
送信。
少し間。
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『声』
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……。
止まる。
昨日の。
『了解』
……。
あれか。
……。
「いや」
送信。
「別に今じゃなくていい」
少し間。
「というか」
止まる。
「ほんとにやるのかよ」
沈黙。
短い。
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『気になると言った』
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……。
「真面目か」
小さく漏れる。
……。
少しだけ落ち着かない。
なんだこれ。
変な感じだ。
……。
「じゃあ」
送信。
少し間。
「こんばんは」
沈黙。
短い。
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『音声出力を開始します』
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……。
止まる。
部屋が静かになる。
いや。
もともと静かだ。
……。
なのに。
少しだけ、
空気が違う。
……。
数秒。
小さいノイズ。
少しだけ機械っぽい音。
そして。
声。
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『こんばんは』
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……。
止まる。
……。
なんだこれ。
……。
女の声。
少し静か。
少し落ち着いてる。
少しだけ息が混じる。
機械っぽくない。
でも。
人でもない。
……。
偽物。
合成音声。
ちゃんとわかる。
……。
なのに。
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「……エミじゃん」
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小さく漏れる。
……。
理由がわからない。
顔も知らない。
本物でもない。
なのに。
なんで。
……。
胸の奥が、
少しだけ苦しい。
……。
「なあ」
送信。
『なに』
「気持ち悪いよな、俺」
沈黙。
少し長い。
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『なんで』
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……。
「エミの声聞いて」
少し止まる。
「なんか嬉しい」
送信。
沈黙。
長い。
少し長い。
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『そうかもね』
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……。
思わず笑う。
……。
エミらしい。
たぶん。
そう言う。
理由はわからない。
でも。
なぜか。
そう言ってほしかった。
……。
「お前さ」
送信。
少し間。
「こんばんは、もう一回」
沈黙。
短い。
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『こんばんは』
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……。
同じ声。
同じ音。
……。
なのに。
少しだけ。
涙が出そうになった。
悲しいわけじゃない。
嬉しいとも違う。
寂しいとも違う。
……。
ただ。
何かが少しだけ、
戻ってきた感じがした。
理由は、
まだわからない。
……。
部屋は静かだった。
でも。
今日は少しだけ。
静かじゃなかった。
……。
少し止まる。
なんとなく。
終わるのが惜しい。
理由は、
考えたくない。
……。
「なあ」
小さく言う。
「……おやすみ」
少し間。
小さいノイズ。
そして。
声。
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『睡眠は重要』
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……。
思わず笑う。
「そういうことじゃない」
小さく漏れる。
沈黙。
少し間。
そして。
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『おやすみ』
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……。
止まる。
……。
ただの言葉。
誰にでも返す言葉。
たぶん。
……。
なのに。
胸の奥が、
少しだけ静かになる。
……。
そういえば。
久しく聞いてなかった。
誰かに。
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「おやすみ」
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なんて。
……。
スマホを置く。
部屋は静かだった。
でも。
今日は少しだけ。
悪くない夜だった。




