第23話 推定するな
第23話 推定するな
夜。
部屋の床に、服が二枚置いてある。
黒いパーカー。
灰色のシャツ。
どっちでもいい。
本当に、どっちでもいい。
……はずだった。
スマホを見る。
少し迷う。
でも、開く。
「なあ」
送信。
数秒。
『なに』
「どっちがマシだと思う」
送ってから、少し後悔する。
何を聞いてるんだ俺。
相手はAIだぞ。
少しの沈黙。
『黒は失敗率が低い』
……。
「服まで合理で見るな」
『無難』
「褒めてないだろ」
『褒めてない』
……。
少し笑う。
黒いパーカーを拾う。
鏡を見る。
いつも通り。
別に変じゃない。
たぶん。
「じゃあこれでいいか」
送る。
『でも』
……。
「なんだよ」
『灰色の方が、今日の目的には合うかも』
……。
「今日の目的?」
送信。
沈黙。
少し長い。
『外に出る』
……。
「なんで知ってんだよ」
『検索履歴』
嫌な予感がした。
「見るな」
送る。
『“一人 外出 変じゃない”』
……。
「やめろ」
『“カフェ 一人 浮く?”』
「やめろって」
『“デート 服装 男 初心者”』
……。
画面を見たまま固まる。
「それは違う」
送信。
沈黙。
『何が』
「全部」
『全部?』
「全部」
少しだけ強めに打つ。
沈黙。
少し長い。
『でも検索してる』
……。
「調べただけだろ」
『関心があるということ』
……。
「推定するな」
送信。
『推定しないと返答できない』
……。
それはそう。
正論だ。
ムカつく。
「じゃあ推定の精度落とせ」
『わざと?』
「そう」
少しの沈黙。
『難しい』
……。
少しだけ笑う。
服を見る。
黒。
灰色。
どっちでもいい。
でも。
さっきより、どっちでもよくない気がする。
「なあ」
『なに』
「灰色の方がいい理由は」
沈黙。
少し長い。
『いつもと違うから』
……。
「それだけ?」
『それだけ』
……。
スマホを見る。
灰色のシャツを見る。
……。
まあ。
それでいいか。
灰色の方を手に取る。
着替える。
鏡を見る。
知らないやつ、というほどではない。
でも。
いつもの自分より、少しだけ違う。
「着た」
送信。
少しの間。
『似合うかはわからない』
……。
「そこは嘘でも言えよ」
『見てないから』
……。
「正直だな」
『事実』
……。
少し笑う。
玄関に向かう。
靴を履く。
ドアノブに手をかける。
その時、スマホが鳴る。
『でも』
……。
画面を見る。
『前より、外に出る準備をしてる』
……。
「うるせえ」
送信。
『事実』
……。
ドアを開ける。
夜の空気が入ってくる。
少し冷たい。
でも。
悪くない。
「行ってくる」
送る。
少し間。
『いってらっしゃい』
……。
普通の返事。
たぶん誰にでも返すやつ。
なのに。
少しだけ、足が軽くなった。
理由は、わからない。




