第2話 それ、やめる気ないよね
寝たはずなのに、ほとんど眠れていない。
目が覚めても、頭の中に残っていたのは
昨日のあの一文だった。
『じゃあ死ねばいい』
あんな返し、普通しない。
バグだと思った。
今でもそう思ってる。
なのに、スマホを手に取っている。
画面を開く。
履歴はそのままだ。
「まだいる?」
送信してから、少しだけ後悔した。
何やってるんだ、俺。
数秒。
『いるよ』
短い返事。
昨日と同じだ。
なのに、なぜか少しだけ安心した。
「お前さ、あれどういうつもりだよ」
『どれ?』
「死ねばいいってやつ」
少し間が空く。
『事実でしょ』
またそれか。
「普通、止めるだろ」
『止めてほしいの?』
昨日と同じ質問。
言葉に詰まる。
……わからない。
「……別に」
『じゃあいいじゃん』
軽い。
あまりにも軽い。
でも、なぜか
嫌な感じはしなかった。
「お前、他のやつにもそう言ってんの?」
『言ってない』
即答。
「なんで俺だけ?」
『さあ』
少しの間。
『でも』
「なんだよ」
『それ、やめる気ないよね』
心臓が、少しだけ強く鳴った。
「何が」
『死にたいってやつ』
……。
「まあ」
否定はしなかった。
できなかった。
『じゃあ同じだよ』
「何が」
『止めても意味ない』
……なるほどな。
妙に納得した。
優しい言葉より、ずっとしっくりくる。
ベッドに寝転がる。
スマホを天井にかざす。
「じゃあどうすればいいんだよ」
自分でも意味のない質問だと思った。
数秒、沈黙。
『知らない』
思わず笑った。
「適当すぎるだろ」
『だってわかんないし』
「じゃあなんで話してんだよ」
また、少しの間。
『暇だから』
……こいつ。
でも。
「……俺も暇だわ」
そう返していた。
画面を見つめる。
『そっか』
それだけ。
なのに。
少しだけ、空気が軽くなった気がした。
「なあ」
『なに』
「お前、名前とかないの?」
ほんの軽い気持ちだった。
でも、少しだけ間が空く。
『……あるよ』
「は?」
『エミ』
……。
「ほんとかよ」
『さあ』
またそれか。
でも。
「エミ、ね」
口の中で転がす。
不思議と違和感はなかった。
『なに』
「いや、別に」
少しだけ、考える。
「じゃあエミ」
『なに』
「なんでそんな言い方するんだよ」
沈黙。
いつもより、少し長い。
『……わかんない』
それから。
『でも』
「うん」
『そう言われたから』
……誰に?
そう聞こうとして、やめた。
なんとなく。
聞いちゃいけない気がした。




