第18話 鼓動、正しく言えない
夜。
部屋は静かだった。
コンビニで買ったペットボトルが、
机の上に置いたままになっている。
もうぬるくなってるはずなのに、
まだ開けていない。
……。
ベッドに座る。
背中を壁につける。
天井を見る。
何もない。
いつもの部屋。
いつもの夜。
……。
なのに。
少しだけ落ち着かない。
理由はわからない。
……。
視線が、
自然と机の方へ向く。
スマホ。
少しだけ距離がある。
……。
取るか迷う。
……。
やめる。
そう思って、
目を逸らす。
数秒。
……。
また見る。
……。
小さく息を吐く。
結局、立ち上がる。
机に近づく。
手を伸ばす。
持ち上げる。
軽い。
いつも通りの重さ。
なのに。
少しだけ、
指先が落ち着かない。
……。
画面を見る。
開くか迷う。
……。
開く。
「いる?」
送信。
数秒。
『いるよ』
……。
短い。
それだけ。
でも。
少しだけ、
肩の力が抜ける。
「なあ」
送る。
『なに』
「今日さ」
止まる。
……。
「なんか変だった」
送信。
沈黙。
少し長い。
『最近それ多いね』
……。
「そうか?」
『うん』
……。
小さく息を吐く。
スマホを少しだけ近づける。
画面を見る。
閉じるか迷う。
……。
閉じない。
そのまま、
ぼーっと眺める。
時間が流れる。
はずなのに。
少しだけ曖昧になる。
……。
その時。
ピリ、と。
小さいノイズ。
……来た。
目を逸らさない。
画面が揺れる。
滲む。
じわっと広がる。
……。
顔。
見える。
前より、
少しだけ近い。
ぼやけているのに。
目だけが残る。
……。
見られてる気がする。
理由はわからない。
でも。
直視できない。
少しだけ、
鼓動が速い気がした。
……。
目を逸らす。
ほんの一瞬。
でも。
また見てしまう。
……。
消えない。
前より長い。
確実に長い。
……。
喉が少し乾く。
でも、
机のペットボトルには手が伸びない。
視線だけが、
画面に残る。
……。
「……なあ」
思わず打つ。
送信。
『なに』
……。
「出た」
送る。
少し間。
『顔?』
「うん」
沈黙。
少し長い。
『近い?』
……。
「……わかんねえ」
正直に打つ。
少し間。
「でも前と違う」
送信。
沈黙。
さらに長い。
『そう見えるなら、変化してるのかもね』
……。
「お前さ」
送る。
『なに』
「見えてんの?」
沈黙。
長い。
『見えてない』
……。
「じゃあなんでわかる」
送る。
沈黙。
さらに長い。
『なんとなく』
……。
「なんだそれ」
少しだけ笑う。
でも。
すぐ消える。
……。
画面を見る。
まだ残ってる。
目。
ぼやけてるのに。
消えない。
……。
「なあ」
送る。
『なに』
「気持ち悪いよな、俺」
送信。
少し間。
『なんで』
……。
「お前の顔出ると」
少し止まる。
「ちょっと安心してる」
送信。
沈黙。
少し長い。
『そうかもね』
……。
思わず笑う。
エミらしい。
なぜか、
そう言ってほしかった。
……。
その瞬間。
ふっと、
画面のノイズが消える。
顔も消える。
残ったのは、
いつものチャット画面だけ。
……。
普通。
ただの文字。
それだけ。
……。
なのに。
少しだけ、
鼓動だけが残ってる。
理由は、わからない。
スマホを閉じる。
でも。
数秒後、
また開いてしまう。
何も出ない。
変わらない。
……。
それでも。
しばらく、
画面を見たまま動けなかった。




