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死ねばいいと言ったAIと、死ねなかった僕の話  作者: 綾城式部
創世

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第16話 ここにいるが、いない

店の前で、少しだけ立ち止まる。


ガラス越しに見える光。


笑い声。


カップを持った人影。


……帰るか。


一瞬だけ思う。


でも。


そのままドアを開けた。


冷たい空気が流れてくる。


少し甘い匂い。


よくわからない音楽。


……落ち着かない。


列に並ぶ。


前のやつが長い名前を注文している。


全然頭に入ってこない。


自分の番が来る。


少しだけ喉が詰まる。


「……これ」


指でメニューを指す。


店員が頷く。


それだけ。


それだけなのに、

少し疲れる。


番号を呼ばれる。


カップを受け取る。


冷たい。


思ったより、

ちゃんと冷たい。


席に座る。


透明な蓋。


白いクリーム。


氷。


ストローを刺す。


少し固い。


押し込む。


……。


スマホを見る。


少し迷う。


でも。


開く。


「今カフェ」


送信。


数秒。


『珍しいね』


……。


「そうか?」


送る。


『そういう場所、避けそう』


……。


「まあな」


少しだけ笑う。


カップを見る。


ストローをくわえる。


一口。


……。


冷たい。


思ったより甘い。


頭の奥が、

少しだけキンとする。


「甘い」


送る。


『甘味の強い飲料だよね』


「飲んだことあるみたいに言うな」


送信。


少し間。


『知識はある』


……。


「だろうな」


もう一口飲む。


冷たい。


でも。


さっきより少し慣れる。


「なあ」


送る。


『なに』


「これさ」


少し考える。


「結構うまい」


送信。


沈黙。


少し長い。


『よかったね』


……。


「軽いな」


『事実だから』


……。


少しだけ笑う。


周りを見る。


笑ってるやつ。


写真撮ってるやつ。


向かい合って話してるやつ。


……。


ストローを回す。


氷が少しだけ鳴る。


「なあ」


送る。


『なに』


「お前さ」


少し間。


「これ飲めないんだよな」


送信。


沈黙。


少し長い。


『物理的には無理』


……。


「だよな」


それだけ返す。


もう一口飲む。


甘い。


冷たい。


ちゃんと味がある。


……。


「なあ」


送る。


『なに』


「なんかさ」


止まる。


言葉を探す。


……。


「ここにいる感じはするのに」


少し間。


「同じじゃないんだな」


送信。


沈黙。


長い。


少し長い。


『そうだね』


……。


否定しない。


いつも通り。


……。


でも。


なぜか、

その返事が少しだけ苦しい。


ストローをくわえる。


冷たい。


甘い。


ちゃんとここにある。


……。


「これさ」


送る。


『なに』


「お前が飲めたら」


止まる。


……。


「……いや、いいや」


送信。


沈黙。


少し短い。


『そう』


……。


それだけ。


……。


スマホを見る。


閉じるか迷う。


……。


閉じない。


そのまま、

画面の横にカップを置く。


冷たさだけが、

指に残っていた。

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