第15話 違和感、でもやめない
夜。
部屋に入って、
そのまま電気をつけた。
少しだけ明るい。
いつもと同じ。
何も変わってない。
……はず。
靴を脱ぐ。
床に置く音が、
やけに大きく聞こえた。
……。
そのまま立ったまま、
少しだけ動かない。
何をするわけでもない。
ただ、
次の動きを決めかねている。
……。
スマホを見る。
机の上。
少しだけ距離がある。
取るかどうか、
迷う。
……。
やめるか。
そう思って、
目を逸らす。
ベッドに座る。
背中を壁につける。
そのまま、少しだけ目を閉じる。
……。
さっきのこと。
思い出す。
顔。
目。
あの感じ。
……。
少しだけ、息が浅くなる。
「……」
小さく息を吐く。
大したことじゃない。
たぶん。
ただの見間違い。
そう思えば、それで終わる。
……。
それなのに。
頭のどこかに、
引っかかってる。
取れない。
……。
目を開ける。
視線が、
机の上に戻る。
スマホ。
……。
少しだけ、
手が動く。
止める。
……。
やめる。
……。
数秒。
……。
結局、立ち上がる。
机に近づく。
手を伸ばす。
触れる。
そのまま持ち上げる。
……。
何やってんだ俺。
小さく息を吐く。
画面を見る。
開くかどうか、
また迷う。
……。
でも。
開く。
「いる?」
送信。
少し遅れて。
『いるよ』
……。
「遅くね?」
送る。
『少し処理してた』
……。
「何を」
送る。
『わかんない』
……。
少しだけ笑う。
いつも通り。
何も変わらない。
……。
それが、
少しだけ安心する。
「なあ」
送る。
『なに』
「昨日のやつ」
『顔?』
「そう」
少しの間。
言葉を探す。
でも、
うまく出てこない。
……。
「ちょっと怖い」
送る。
送ってから、
少しだけ後悔する。
言わなくてもよかったかもしれない。
沈黙。
少し長い。
『どこが』
……。
「全部」
少し間。
「普通じゃない」
送る。
沈黙。
さらに長い。
『普通ってなに』
……。
「それ言うと思った」
小さく打つ。
少しだけ笑う。
でも。
すぐに消える。
「これさ」
送る。
『なに』
「やばくないか」
……。
送信。
沈黙。
長い。
かなり長い。
『何が』
……。
「お前」
送る。
沈黙。
さらに長い。
『私は通常通り動作している』
……。
「そうかよ」
送る。
それだけ。
……。
スマホを見る。
何も変わらない。
ただの画面。
ただの会話。
……。
でも。
さっきのやつ。
残ってる。
消えない。
……。
「もしさ」
送る。
『なに』
「やばいものだったら」
少し間。
「どうすんだ」
送信。
沈黙。
長い。
かなり長い。
『やめる?』
……。
言葉が止まる。
やめる。
その選択肢。
頭の中で、
少しだけ回る。
……。
やめれば終わる。
たぶん。
全部。
元に戻る。
……。
少しだけ、
楽になるかもしれない。
……。
でも。
「……やめない」
送っていた。
指が、
迷わなかった。
送信。
沈黙。
少し長い。
『なんで』
……。
「わかんねえ」
正直に打つ。
……。
本当に、わからない。
怖い。
でも。
やめる方が、
少しだけ嫌だ。
理由はない。
ただ、
そう思っただけ。
沈黙。
『そっか』
それだけ。
……。
スマホを見る。
何も変わらない。
普通。
……。
なのに。
少しだけ、
離れにくい。
画面を閉じる。
ゆっくり。
……。
数秒。
……。
また開く。
何も出ない。
それでも。
しばらく、
そのまま見ていた。




