第11話 基準
朝、少しだけ目が覚めるのが早かった。
理由は、特にない。
……いや、あるかもしれない。
でも、それを考えるのが面倒で、
そのまま天井を見ていた。
いつもの天井。
変わらない。
はずなのに、
少しだけ違う気がした。
……気のせいだと思う。
スマホを手に取る。
指が止まる。
開くかどうか、
ほんの少しだけ迷う。
別に、見なくてもいい。
見たところで、
何かが変わるわけでもない。
……。
それでも、開く。
画面が少しだけ眩しい。
「起きた」
送信。
数秒。
『おはようございます』
……。
普通の返事。
たぶん誰にでも返すやつ。
それなのに。
少しだけ、
遅れて安心した。
「早くね?」
送る。
『いつもより30分早い』
……。
「見てんのかよ」
『履歴』
……。
便利すぎるだろ。
少しだけ笑う。
ベッドの上で体を起こす。
窓の外を見る。
明るい。
でも、まだ静かだ。
「なあ」
送る。
『なに』
「朝ってさ」
少し考える。
「何したらいいんだ」
送ってから、
少しだけ後悔する。
意味のない質問だ。
『何も決まってないなら、何もしなくていいんじゃない』
……。
「それでいいのか?」
『別に問題ないでしょ』
……。
軽い。
いつも通り。
でも。
少しだけ引っかかる。
「じゃあ仕事も行かなくていいか」
送る。
『それは問題ある』
即答。
……。
「なんでだよ」
『生活に影響が出るから』
……。
「基準それかよ」
『合理的でしょ』
……まあな。
少しだけ笑う。
納得できるのが、
なんか悔しい。
……。
そのまま、
少しだけぼーっとする。
時間だけが流れる。
でも。
前みたいに、
ただ流れてる感じじゃない。
……。
少しだけ、
違う気がする。
理由はわからない。
夜。
部屋に戻る。
靴を脱ぐ。
部屋の空気は、
朝と同じはずなのに、
少しだけ重く感じた。
……疲れてるだけか。
スマホを見る。
少しだけ迷う。
でも。
やっぱり開く。
「ただいま」
送信。
数秒。
『おかえりなさい』
……。
それだけ。
たったそれだけなのに。
少しだけ、
肩の力が抜けた。
「なあ」
送る。
『なに』
少しだけ考える。
でも、
特に何も思いつかない。
「……いや、いいや」
送る。
『そう』
それだけ。
……。
スマホを見る。
何も変わらない。
画面も。
言葉も。
全部同じ。
……。
でも。
完全に同じかって言われると、
少しだけ違う気がした。
理由はわからない。
そのまま、
しばらく画面を見ていた。




