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第三十三話

「おはようございますルナ様!」

「ルナ様、ごきげんよう」

「ルナ様、今日もお美しいですわ……」

「ああ……女神様は地上にいらしたのですね」


 学園が、とんでもないことになっていた。

 登校するルナに代わる代わる挨拶しに来るのはまだしも、遠巻きに見守っている生徒たちは重症だ。


「あ、あははは……」


 ルナも困惑している。

 どうにも、お偉いさんをちぎっては投げ、ちぎっては投げしたことで崇拝されるようになったとのこと。


「本当にそれだけか?」


 異様な光景を説明するには足りていない。


「ふ、普通です。何故だか決闘を申し込まれたので返り討ちにしただけで……」

「数は?」

「十を越えた辺りで数えるのをやめました」

「そりゃまた……」


 贔屓目抜きにルナは人当たりが良く、立ち回りと上手いので嫌われるタイプではない。

 入学早々、目をつけられたにしても数が異常だった。


「何が理由だろうな」

「それがわからないんですよね。最初は男性が多かったので、虫除けが機能してないのかと思いましたが……」


 最終的には半々とまではいかないが、女性の割合もそれなりに高かったらしい。


「ルナの実力を買って腕試しに来てたのかもな。首席だし」

「かもしれませんね」


 とはいえ、現実的な考えではないだろう。

 いくら平民が首席を取ったからといって、それだけで仕掛けてくるプライドの高い奴はそう多くない。

 複数の理由が絡んでいるのならば、それこそ考えても仕方がない話だ。

 適当に納得して受け入れるに限る。


「好かれてる分には損もしないしな」


 見た限り、囲んでいるの女性が多いので俺も安心だ。


「う、うーん、普通にお友達として接して欲しいです」


 苦笑するルナの気持ちもわかるが、自然と冷めていくまで難しいだろう。


「良いじゃんか。俺もルナ様って呼んでやろうか?」

「もう! 怒りますよ!」


 ルナが頬を膨らませる、怒ったふりをすると黄色い悲鳴が上がる。

 気勢が削がれたルナは小さくため息を吐く。


「本当にやめてください……」

「わ、悪かったよ。もう言わないからさ」

「なら許してあげます。ほら、早く行きましょう」


 逃げるように校舎へと入り、ハーヴェルの研究室へと足を向ける。


「じー」

「どうしたんですか?」

「また変な魔法がかけられていないか確認をな。ルナがやったみたいにさ」


 昨日、ルナが入り口の前にいた俺に気づき、呟きを聞き取ったのは魔法によるモノだった。

 特定のエリアに設置する感知魔法みたいなものだろうか。

 理論はわからないが、特性はおおよそ理解できた。

 害を与えないからか、こちらからの感知が非常に難しいのが厄介だ。


「設置型の魔法があるのは知ってたが、こいつのは特別厄介だ」

「先生の魔法は特別製ですからね」


 ルナ曰く、魔法を発動する際のロジックが常人とはかけ離れているらしい。

 だからこそ重宝され、だからこそ理解されないのだと言う。


「私やエレーナ先輩みたいに聞けば理解できる人はそれなりにいるらしいんですけど、同じロジックを元に構築できる人には会ったことがないんですって」

「ふーん」


 それはある種の孤独だろう。


「でも、私にはセンスがあるから期待してるって言ってくれました。肩を並べられるように頑張ります!」


 気合が入っているルナを見て、ふと疑問に思う。


「初めて会った時から妙に懐いてたよな」

「ハーヴェル先生にですか?」


 頷く。

 一見すると人懐っこいルナも本当に心を許す相手は限られる。

 ハーヴェルは俺の記憶が確かなら早々にその座についた。


「確かにそうですね……。村にあまりいないタイプだったのもありますけど」

「そもそも、あの年頃の人間があまりいなかったよな」


 何があったか俺たちの世代は多いが、基本的に村は徐々に過疎化していた。

 少し足を伸ばせば、それなりの規模の町があるのだから当然だが。

 そのため、ハーヴェルの年頃の世代がごそっといなかったのだ。


「兄さん以外は懐いてましたよ」

「……そうだっけ?」


 ルナより五年分過去の記憶になるからか酷く曖昧だ。


「そうですよ。みんなでプレゼントを送るって時も隠れてたじゃないですか」

「んな子供っぽい」

「兄さんは、最近大人びてきただけで、基本的に子供っぽい人柄ですよ?」


 グサっと心に矢が刺さる。

 思い返してみれば、確かに村にいた頃はお世辞にも大人びていたとは言えない。

 むしろ、よく様変わりした今の俺に違和感を抱かないなとすら思う。


「大人びたとは言っても兄さんは兄さんですけどね。根本は変わってません」

「だいぶ、悪どくなったぞ?」

「自覚がなかったのかもしれませんが、兄さんは元から目的のためなら手段を選ばない人でしたよ」

「…………いやいや」

「覚えてませんか? 私がお祭りの時、狩りで一位になってって頼んだじゃないですか」

「あー、確か一位の景品を欲しがったんだよな。……って」

「そうですよ」


 前髪をとめている髪飾りに手を触れ、ルナは嬉しそうに笑う。


「ずっと使ってるんですから」

「ルナは本当に物持ちが良いな」

「特別大切にしてるからです。……兄さんとの思い出です。びっくりする程、怒られてましたし」


 ルナを引き取って一年か何かだったのだ。

 とにかく、ルナが欲しがる物を取ってあげたく、子供に許されたエリアを出た……ところか、立ち入り禁止の奥地に足を踏み込み、巨大な魔物に遭遇した。

 記憶の中の魔物は朧げで、どんな種類だったかは覚えていない。


「兄さん、花火で森を焼きかけたんですよ、覚えてます?」

「覚えてる、というか思い出した。普通にやれば絶対に勝てないから火で囲って、火花の音と光で混乱させて、それから矢を射った」


 子供の腕力では、致命傷は与えられず、激昂させてしまうはめに。


「最後は……えっと、毒塗りのナイフでやったんだっけか」


 友人の父親が使っているのを見ていた俺は、こっそり盗み出し、腰に刺していたのだ。

 ナイフの扱いなど遊びでも習ったことはなかったが、そこは才能があったのだろう。

 弓の弦を取り付け、即席の投擲物にした。

 弓を囮がわりのブーメランにし、魔物が意識を逸らした死角からナイフを飛来させた。


「結構な毒だったらしく、親父に随分と怒られたな」


 魔物を引きずってきた俺を見て、村の大人たちは大騒ぎしたものだ。


「兄さんのせいで子供の参加は禁止になったんですよ?」

「はっはっは、第二第三の俺が現れたら危ないもんな」

「もう胸を張らないでください。しかも、私が欲しかった景品は子供部門の一位ので」

「いや、マジでそこだけは擁護できない」


 年下のルナが把握しているルールを俺は全くわかっていなかった。

 とりあえず、一位になるなら大人に勝たないとと意気込み、ルナの話を最後まで聞かずに出発したのだ。


「他にも四年前、隣町でからまれた時も」

「多勢に無勢だったからな。露天の一つや二つ、使うだろ」

「当たり前だろみたいな顔しないでください!」


 露天は建てやすく、崩しやすい。

 武器にするにも防具にするにも、目眩しに使うにも便利なのだ。

 もちろん、弁償は因縁をつけてきた相手側に押し付けた。

 どこの貴族かわからないが、町の警備兵と顔見知りな俺の意見が採用される。


「……浮気がどうとか言ってませんでしたか?」

「友情を確かめ合ってただけだな」


 弱味は友情の結束を固くする。

 だから、俺は必要な友情を強固にすることを厭わない。


「脅迫とかしてませんよね?」

「脇が甘い方が悪いんだよ。まあ、してないけどな」


 お話をしただけだ。


「仲が良いから最近子供が生まれたんだってなって話をしたり、可愛い恋人だよなとか、借金で悩んでるならいつでも相談しろよって声をかけるのも普通だろ?」


 爽やかな笑顔で語るもルナは呆れた様子を崩さない。


「ほら、変わらないでしょ?」

「…………」


 話の始まりを思い出し、完敗したことを悟り、口を閉ざすのだった。


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