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第二十話

「お願い! グレンを貸して!」


 エレーナが手を合わせ、頭を下げる。

 公爵令嬢らしからぬ姿に懐かしさを感じた。

 前にも似たようなことがあったからだ。


『お願い力を貸して!』


 あの時は民を助けるためであったが、今回はそうではないだろう。

 ちなみに、頭を下げる対象はルナだ。

 よくよく聞けば俺の貸出の交渉なのだからさもありん。


「あ、頭を上げてください」


 俺よりはまだ権威に素直なルナは慌てふためく。


「どうしてもグレンが必要なの! もちろん、報酬は用意するわ!」

「そ、そもそも、何で私に聞くんですか? ここに本人がいるのに」


 最もな意見だとエレーナを見る。

 エレーナはちらりと俺に目を向けると、


「この方が確実かなって」


 よくわかっている女だった。

 腕を組み、まあなと返す。


「どうせルナが反対したらダメだし、それならいっそルナを味方にした方が早いかなって」

「は、はあ?」


 ルナはピンと来ていないようだ。


「まあ概ねその通りだな。俺に直接来ても話すら聞かなかった可能性もある」


 一手目で報酬の話を選ばないクライアントとは仕事をしたくない。


(まあ、擦れた経験だよな)


 あの時のエレーナといい、ろくなことにならない。

 が、それも俺の悪業の鏡写しとも言えた。

 悪い人間を裏切るのに罪悪感を覚えないと言うことだ。

 報酬を踏み倒そうとした輩(強制徴収した)も多く、前報酬も必要になる。

 流石にいちいち家族やら恋人を調べ、拉致するのは面倒だからだ。

 その点、今の俺とエレーナの関係は良好だ。

 周りに諌められる心配もないため、約束を反故にされる心配はあまりない。

 最悪、ハーヴェルを間に立てれば良いだけだ。


「どうします?」


 ルナが俺をちらりと見上げる。

 話を聞いてあげましょうよと顔に書いてある。


「……とりあえず、話だけでも聞いてみるか」

「ありがとう!」


 エレーナは手を合わせて喜び、シグレを呼ぶ。

 すると、いつの間にか持っていた地図を机に広げる。


「ここは……」

「ええ、深碧の洞窟よ」


 この時代だと最近発見されたばかりだろうか。

 大陸の中でも比較的若い洞窟だ。

 とある国を飲み込んだ大災害の跡地ともされ、希少な魔道具や歴史的価値のあるお宝が多く見つかったとか。


「でも、大概掘り尽くされたんじゃ」


 その価値はすぐに理解され、王国や学園関係者による調査隊が送り込まれたと聞く。

 確かに俺が行った時にはガラクタぐらいしか残っていなかった。


(その割には厄介な奴もいて面倒くさかったんだよな)


 その時のクライアントは考古学者を名乗る不審者で、実入りは良かったが後始末が大変だった。


「よく知ってるわね。王都に来たのは最近なんでしょ?」

「うっ……ま、まあ風の噂でな」


 ルナに肘でごつかれる。

 嘘をつくならバレないようにしろがルナのスタンスなのだ。


「グレンの言う通り、調査は終了したとされてるわ。希少な物も沢山見つかってちょっとしたお祭り騒ぎだったんだから」

「じゃあ、何のためにここに?」


 ルナの問いかけにエレーナはニヤリと笑う。


「私の調べによると洞窟にはまだ先がある」

「で、でも調査隊が調べたんですよね」

「そうよ。専門家も招いて。ね、シグレ」


 話を振られたシグレは頷く。


「戦闘能力に不安がある者でもカバーできる程の面々でしたから」


 私を筆頭にと胸を張る。

 どうやら、シグレは調査隊に参加していたようだ。

 となると、当然エレーナもか。


「私は不参加よ。お父様が許してくれなかったから」

「未知な危険に送り込めない。旦那様の言い分にも一理ありました」

「わかってるわよ」


 そりゃそうだろうな。

 貴族のご子息、ご令嬢が参加する方が不自然だし、他の面々からしても悩みの種になる。

 俺みたいな人種だと率先して置き去りにするため、クレームを入れられることもしばしば。


「じゃあ、行くのは俺、エレーナ、シグレの三人ってことか」

「違うわ」

「他にも誰かいるのか? まさかルナを連れて行くつもりじゃないだろうな」


 私はついていきたいですがとルナは呟くが、認めるわけにはいかない。

 調査隊が大方の魔物を始末したのだが、厄介な奴が残っていることを俺は知っているからだ。

 あの時もクライアントを散々囮に使った。


「違うわよ。それだと来てくれないでしょ?」


 それとこの話はここにいる四人だけの秘密よと続ける。


「わかりやすく言えよ。行く気がなくなる」


 エレーナは少し不満そうにするが、気を取り直して俺を指差し、次いで己を指差す。


「私とグレンの二人で行くってこと」

「……無駄なリスクを冒す理由は?」


 クライアントは往々にしてわがままなため、理由を聞くのが一番手っ取り早い。


「俺を誘った一番の理由なんだよな」


 二人に拘るならシグレと行けば良い。

 俺とシグレの実力差を正確に理解しているとは思えないし、調査隊に加わっていた彼女の方が何かと便利だろうに。


「私の調べによると最深部……その先に行くには男女のペアである必要があるのよ」


 真剣な表情、嘘をついている顔ではない。

 しかし、腑に落ちる内容ではなかった。

 ルナも渋い表情をしている。


「そんな限定的なことがあるんですか?」

「ルナは洞窟とか遺跡に潜ったことはある?」

「な、ないです」

「じゃあ、無理もないわね。グレンは?」

「……ない」


 今の俺はない。


「が、まあ古代の遺物だったり、自然発生した災害みたいな物だろ? 人間の価値観で測れる物じゃないだろうな」


 経験談だった。

 何故、どうして、おかしいなどと口にするだけ無意味だった。

 それこそ、今を生きている人間同士でも相互理解は途方もなく遠いのだから。


「腑に落ちないのが逆にそれっぽいなって。元は王朝だったんだろ? まだ意味がわかる部類だ」


 少なくとも片足で踏破しつつ、最深部でバク転、側転、前転を決めたり、“おじょろぼじょろみたりだしました”などと叫びながら走る必要もない。良心的だ。


「こ、これで……」


 ルナに戦慄が走る。

 普通に生きていれば関わることなどないので、悩む必要もないのだが。


「オーケー。じゃあ、報酬の話をしよう」

「家でどう?」

「い、家!?」


 ルナに再び戦慄が走る。


「貴族街の端っこの方だけど、二人で暮らすには十分な広さだし、諸々の費用もこちらで受け持つわ」


 給仕をする人も派遣するわよと付け加える。

 サイズ感は貴族基準か。なら、相応に広いのだろう。


「見てみないことにはあれだが……資産価値は?」


 エレーナが数字を紙に記入する。

 ルナが目を白黒させる。


「も、もう、働く必要ないじゃないですか」

「貴族街の家は高騰するだろうからな。売るのは今じゃない」

「まるで、知ってるかのように言うわね」

「お、俺の勘はよく当たるんでな」


 脇が甘い。

 平和ボケしたのだろうか。


「最悪、売るか貸せば良いか……。権利書は?」

「これよ」


 流石は話が早い。

 エレーナは俺の要求に次々と答えた。

 とはいえ、俺の知識は受け売りでしかない。

 騙そうと思えば容易にやられるだろう。

 結局はエレーナを信じられるかどうかだ。


「俺が行ってる間、ルナの面倒を頼めるか?」


 エレーナとシグレに言う。


「当然よ。元々、シグレをつける予定だったから」

「大船に乗ったつもりでいるが良い。ルナには指一本触れさせない」


 ルナは子供扱いはやめてほしいと頬を膨らませるが、世の中は物騒なのだ。

 羽虫の如き飢えた男共とかな。


(いつでも一緒にいられるわけではないしな。不安だが、少しずつ慣れていかないと)


 守るために鳥籠に押し込んでは意味がない。

 ルナが己の人生を歩むことこそ俺の望み。

 シグレがいてくれるのだから最初の一歩としてはちょうど良い。

 それに、エレーナの事情も気になる。

 上辺は取り繕っているが、その下にあるのは……強い焦燥だ。


(あいつらの狙いがわかるかもしれないしな)


 俺を利用しようとして逆に潰された男を思い出す。

 深碧の洞窟に眠っている物次第では、全容が見えてくるかもしれない。


「わかった。引き受ける」

「っ! ありがとう!」

「まずは家を見に行く。ルナといるなら宿から移した方が良いだろうしな」


 公爵家が保有する家であるのならば警護もしやすいだろう。

 加えて貴族街であれば警備隊や騎士団の出動も早い。


「報酬は前払いが俺の信念だ。構わないよな?」

「問題ないわ」


 ルナがいる限り、俺が裏切る可能性はないと考えているのだろう。

 シグレが警護をかって出たのもそれが理由かもしれない。


「兄さん、気をつけてくださいね」

「俺は大丈夫だ。何かあるとしたらエレーナだから」

「えっ!? ま、守ってくれないの!??」

「まあ、そこそこには」

「大丈夫?! 大丈夫よね!!?」


 危機感は持って欲しいので、どうだろうなと悪い笑みを浮かべる。


「大丈夫ですよ、お嬢様。グレンも流石に命は守ってくれますから」

「全然大丈夫じゃないんだけどー!」


 エレーナの叫び声が部屋の中に響くのだった。


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