第十五話
見事首席合格を果たしたルナ。
今夜はパーティだと盛り上がっているところにエレーナがやってきた。
「先生が呼んでるわ」
ついてきてと歩き出したエレーナを見送る。
何故だかシグレも残る。
「なんで誰もついてきてないの!?」
顔を真っ赤にしたエレーナが叫びながら戻ってくる。
「だって……なあ?」
「私たちには私たちの予定がありますし」
「お嬢様、気配ぐらい読んでくれないと困ります」
「シグレまで!?」
涙目になるエレーナ。
こうしてみるとただの若者だ。
シグレといい、知らない姿が簡単に出てくる。
(俺が知ってるの一面でしかなかったってことか)
かくいう、俺も二人には見せたことのない顔をしているだろう。
「い、今はシグレはどうでも良いから! ……それより、予定があるのよね。どうしようかしら」
「「また今度で」」
「……ちなみに内容を聞いても良いかしら?」
不審さを感じたのか、エレーナは疑う目つきで聞いてくる。
しかし、俺たちは出て小さくバツを作る。
「プライベートはNGなんで」
「いくら先輩でも言えないことはあるんですよ」
「絶対用事ないわよね! 面倒くさいからって適当にやり過ごそうとしないで!」
「お嬢様、心を落ち着けてください。旦那様が見たら何というか」
「なんでこんな時だけ正論言うのよ!」
シグレがまるで従者のようなことを言う。
戦闘能力だけかと思いきや、存外俺の知らないところではしっかりしているのかもしれない。
……まあ、王子に斬りかかったらしいが。
「お願いだからあ」
甘ったるい声でルナに縋り付く。
自分の容姿をわかっての計算なのか、天然なのか……ほら見ろ。ルナはすっかり絆されてしまった。
「に、にいさーん」
「はいはい、ルナが良いなら付いてくぜ」
「良いの!」
ぱあっと表情が明るくなる。
「良かったですね、お嬢様」
「シグレ、嫌い」
「がーん!」
……本格的にエレーナの評価は差し替えた方が良さそうだ。
それとも、三年以内に俺の知るエレーナになるのだろうか。
思ったほど役に立たない未来の知識に、こっそりため息を吐く。
この様子だと他の奴らも印象とは違うかもしれない。
(まあ、指導教官繋がりの二人と違って、接点を作らなければ良いだけか)
俺が知っている人物は皆癖がある。
やっていたことがことなので仕方がないが。
ルナに悪影響を与えるかもしれない。
「あ、でも拗ねてるお嬢様可愛い。もちろん、グレンはカッコ良いぞ!」
「兄さん、この芋虫羽化する前に捨てたらどうです?」
……もう悪影響を受けているような。
「ごめんなさい、ルナ。その芋虫は私の従者なの。捨てるのだけは勘弁してあげて」
「エレーナ先輩がそう言うのでしたら……」
「グレングレン。ナチュラルに芋虫扱いされてるんだけど」
「……反省しろ」
シグレは何もわかっていなさそうな顔でわかったと言う。
多分、何もわかっていない。
「じゃあ、先生の部屋まで案内するわ。ついてきて」
そう言ってエレーナが先導する。
「……いるわよね」
五歩ごとに後ろを振り返るので、面倒になった俺とルナはエレーナを挟むようにして歩く。シグレはエレーナの真後ろだ。
「……何故、掴む」
見るとエレーナが俺たちの腕を取っていた。
「ルナは良いけど、グレンは気づいたら瞬間にはいなくなってそうだし」
「なんとグレンは忍者だったのか」
シグレが謎の食いつきを見せる。
確か忍者とは戦闘スタイルの一種で、不可思議な技を使うとか聞く。実物は見たことがない。
なるほど、いなくなる部分から忍者を思い浮かべたのか。
「そんなことできないって」
「そうですよ、エレーナ先輩。いくら兄さんでも神々しいまでのオーラはいきなりでは消せませんよ」
「「神々しい……?」」
当然の如く謎のことを言うルナに俺とエレーナは首を捻る。
「わかる」
シグレは何故か肯定した。
「……そんなきな臭いオーラ出てたか?」
「……神々しいって言われてその感想?」
生憎、神は信じていない。
仮にいるとしても性悪だと思っている。
「つまり兄さんオーラです!」
「グレンオーラだな!」
ルナはフッと鼻で笑い、
「シグレさん、少しは話がわかるようですね」
シグレに手を差し出す。
「光栄だ。ルナとは、いつか語り合いたいもんだ」
「兄さんがいない時であればぜひとも」
二人の間で謎の信頼が生まれている。
俺を媒介にしてなのは良いが、理由が理由だけに素直に喜べない。
「お前の従者、凄い勢いで壊れてないか?」
「元々壊れてたから……まあ、正常よ」
酷い言われようだった。
懐が深いというか、逆の立場だったら行動原理が読めなさすぎて恐怖でしかない。
「それより行くわよ。先生はあれで気が短いから」
「イメージ通りなんだが」
端的というか、シンプルというか、頭の片隅にある記憶にある人物像はそうだった。
「気をつけて、本人は気が長いと思ってるから。あと、歳の話もしないでね。教官の中だと若い方だから」
「め、面倒くさいな」
ルナははっきりと指摘するタイプではないので大丈夫だろう。
俺も意識しておけば口を滑らせることはあまりない。
「よくシグレが耐えられるな」
「シグレは出禁よ」
そうか。滑らせていたか。
いや、そもそもその気がないのかもしれない。
「あのババア気に食わないんですよ。事あるごとにお嬢様に用事を押し付けて……。ルナも気をつけなよ」
「わ、わかりました」
気づけばシグレがルナに先生の愚痴を言っていた。
二人の相性は最悪のようだ。
「着いたよ」
三階の角部屋の前で立ち止まる。
プレートにはハーヴェルの名が書かれていた。
その下には出禁リストが貼られてある。
シグレの名は一番上かつ大きく書かれている。
「ひーふーみー……結構いるな」
「気難しいから……」
中には元弟子もいるらしい。
流石にこう多いと先生に利があるケースのみとは思えなかった。
「……俺も外で待ってるわ」
「ダメよ。グレンも名指しで呼ばれてるんだから」
従者の件もあってねと言われたら反論できない。
「すみません、兄さん。私のせいで」
ルナが申し訳なさそうに謝る。
そんなルナの頭に手を置き、
「気にするな。ルナのせいじゃないからさ」
そう言ってゆっくりとなでる。
ルナは気持ちよさそうに目を細める。
『……なにやってるんだ、アンタら』
どこからか声が聞こえる。
発信源は……プレート?
「プレートが喋った?」
『プレートが喋るわけないだろうが』
「しゃ、喋ってますよ、兄さん!」
「新手の魔物かもしれない。とりあえず、斬るか」
「待って待って! っていうかグレンはわかってるでしょ!」
ルナとの憩いの一時を邪魔されたので斬ろうとしていたことはバレているようだ。
俺は柄なら手を話すと、
「あれは遠見の魔法ってやつだ。離れている場所を見たり、対象に声を飛ばせる」
「そんな魔法があるんですね……」
「ただ二つを同時に使う奴は初めて見た。流石名高い先生様だ」
『ふん、随分とお世辞が上手くなったみたいだね』
ガラッと扉が開く。
中の様子は何故だか見えない。これも魔法の影響だろう。
『入っておいで。もちろん、そこの芋虫以外な』
「誰が入るか害虫」
シグレが芋虫なのは共通なのか。それともエレーナを見ていたのか?
『ほら早くしな。気が長いと思ってるババアが怒り出すよ』
「っ!?」
後者だったようだ。
涙目で震えるエレーナを伴い、扉を潜る。
「よく来たね」
部屋の奥、一人がけ用のソファーに腰を下ろした女性ーーハーヴェルはニヤリと笑い、指を鳴らすのだった。




