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第十四話

「お疲れ様」

「ありがとうございます」


 ルナの顔色は良い。試験の出来は良かったのだろう。


「主席は大丈夫そうね」

「い、いえ、それはわかりません」

「ちょっとした騒ぎになってたけど、あれルナがやったんじゃないの?」

「騒ぎ?」


 エレーナはそうなのよと説明してくれる。

 試験は筆記と実技があり、後者でとんでもない者がいたと受験生たちが話していたらしい。


「こそこそしてたし、先生から聞いてたら話を加味するとやったかなーって」

「や、やってないです」


 ルナは頬を染め、否定するが目が泳いでいた。


「ただ……思ったより脆かったというか」


 実技は魔法の威力を測るため、的に向かって撃つらしい。

 的そのものはそこらにあるような物だが、試験官が障壁を張っているため、受験生が壊すことは不可能……なはずだった。


「破裂させたって聞いたわよ」

「貫通しただけです! ……校舎の壁は壊れましたけど」


 的は貫通させるだけで、その後ろにあった壁は破裂させた……理解が及ばなったって。

 魔法とは種類は多岐に渡るが、性質を変化させることはできなかったはずだが。


「末恐ろしいわね……」


 エレーナが呟く。

 彼女がそう評価するのだから相当だろう。


「流石はうちのルナ。合格間違いなしだな」

「感想、それで良いの?」

「俺は素人だからな。凄いなって感心してれば良いんだよ」


 苦笑するエレーナに軽く返す。


(エルガーはだから狙った?)


 四天王に関してエルガー以外のことは詳しくない。

 漠然とした特徴やら性格やらは人伝に聞いているが、対面してこそわかることがある。


(その上であいつら曰くエルガーが最強だったと)


 その全てと直接対峙した勇者一行は、エルガーこそが四天王最強であり、魔王の右腕だったと評した。

 分身体とはいえ、エルガーが失敗した以上、残りの三人が動くことはあるのだろうか。


(ただ、他の三人は活動拠点がしっかりとあるらしいんだよな)


 各々が目的のために特定の地域に居座っているらしい。

 鉱山を根城にしたり、人の世に潜り込んだり、研究を行っていたり。

 また“魔王からの命令”を直接受けていたのもエルガーだけの可能性が高い。


(とにかく、ルナが力をつけるのは良いことだ)


 粘れる時間があればあるだけ俺がどうにかする猶予が生まれる。


「この調子でエレーナも抜いてやれ」

「に、兄さん……!」

「あら、言ってくれるじゃない」

「え、ええ!? 兄さんが勝手に言っただけですよ……!」


 慌てふためくルナは可愛いなと微笑ましく思っていると、


「ふむ。流石はグレンの妹だ。私も鼻が高い」


 今まで黙っていたシグレが怪しいことを言い始めた。

 当然、ルナとエレーナは不思議そうにシグレを見る。


「あ、あの、なんで卯月さんが「シグレで良い」……シグレさんが?」


 何故そんなことをとシグレは目をぱちぱちとさせる。

 そして、俺の近くに寄ってくるとおもむろに腕を取る。


「「っ!?」」


 二人の顔色が変わる。

 エレーナは良い。好奇心だ。

 問題はルナで……一瞬で冷たい表情へと様変わりしていた。


「グレンは私の婚約者だからな」

「きゃっ!」

「は? は? は?」

「弟子だ! 弟・子! さっきのやりとりをもう忘れたのか馬鹿が!」


 ルナが詰め寄ってくる。


「どういうことですか、兄さん」

「落ち着けルナ! 勘違いだ! こいつは頭の病気だから現実と妄想の区別がついていないだけだ!」

「はっはっは、グレンは手厳しいな」


 罵声すらも笑って流す豪の者とかしたシグレ。

 これだからこいつの好感度だけは稼ぎたくなかったのに。


「ご説明を」


 ルナの右手に急速に魔力が集まる。

 素人でもわかる。あんなのまともに食らったら死ぬ。


「わかったオーケー一から説明する! シグレとやり合った結果、腕っぷしが良いから弟子にならないかと言われたんだ!」

「婚約者でも良いぞ」


 ピキッと何かが割れる音がする。

 気づけばルナの足下が凍っていた。

 魔力は手に集まっていたはずなのに……。

 嫌ところでルナの才能を痛感させられる。


「何故だが婚約者か弟子かの二択を迫られたから弟子を取ったんだ! それだけの話だ!」

「どちらも断れば良いだけでは?」

「俺だってそうしたかったさ! ただ、見てみろこれを!」


 そう言ってこの空気の中、呑気にしているシグレを指す。

 最初に会った時の鋭さはもはやどこにもなかった。


「話が通じる相手じゃないんだよ……! そんな奴だけどエレーナの従者だ。エレーナはお前の先輩でもあるし、いざって時は使える……頼りになるに違いない」

「使える? ねえ、今使えるって言わなかった?」

「だから、問答無用で関係を壊すことはできなかったんだ!」

「…………それは、つまり私のためということですか?」


 光が落ち着く。

 舞っていた髪も重力に従い、氷も溶ける。


「もちろんだ! ルナのために考えた結果なんだ!」

「…………」


 力説するとルナは判定を下すため、目を閉じる。

 考えごとをする時の癖だ。

 頼む神様ルナ様と心の中で祈る。


「……はあ、わかりました」


 勝訴!

 ルナはため息を吐き、俺たちの前にやってくると、


「ぐへはっ!」


 無造作にシグレを吹き飛ばした。

 目を見開く俺とエレーナ。

 霧散したと思った魔力が一瞬にして集まったことだけはわかった。

 ……もしかして、霧散したように見せかけた?

 そんなテクニックがあるかは知らない。エレーナも頭上にハテナを浮かべているので一般的なものではないだろう。


「殺しはしません。兄さんにも特訓相手は必要でしょうし。……ただ、無意味に近づくのは許しません」


 時雨を見下し、命令を下す。

 ルナを見上げていたシグレは何かを考える素ぶりを見せる。


「……あい、わかった。私が軽率だった。許してくれ」


 素直に謝罪したことに腰を抜かしそうになる。

 そんな常識的な行動を取れる奴だったのかと。

 やはり、エレーナも驚いている。


「あの、王子にすら切り掛かったシグレが……?」


 解雇しろ、その時に。

 怖くてできなかったのか?


「ふん、わかれば良いのです」

「ちなみに、どの程度までなら良いんだ? これぐらい?」


 そう言って腕と腕が触れ合いそうになるギリギリまで距離を詰める。

 瞬時にルナは手をバツにする。


「はっはっは、厳しいなあ。じゃあ、これぐらいだな」


 今度は一般的な距離に立つ。

 ルナは難しい表情をしつつも丸を出す。


「では、稽古の時以外はこのぐらいの距離をとることにしよう。……あ、ちなみにグレンから触れてきた時は構わないだろ?」

「はあ? ありませんよ、そんなこと」


 ね、兄さんと嘘くさいほど綺麗な笑みで聞かれる。

 触れる気もないため、当たり前だと首を縦に振る。


「まあまあ、念の為だから」

「……その時は、まあ許します。兄さんが許しませんけど」


 当然、その場合の矛先は俺になるだろう。

 触らないので気にする必要もないが。


(あれで性格がまともなら危なかったけどな)


 しかし、前の時とはだいぶ違う。

 ルナがいなかったのだから当たり前だが、何故か嬉しそうなのだ。

 

(まあ、シグレの思考回路を理解しようって方があれか)


 すぐに思考を放棄する。

 多少、違った様子が見られたところで本質は変わらない。

 どうせ、四年後にはいなくなる。


「……エレーナ、右手と左足は大丈夫か?」


 無意識に変なことを口走ってしまう。

 当然、エレーナは困惑する。


「大丈夫だけど……何か変?」

「……いや、綺麗なもんだ」

「あ、ありがとう?」


 どういたしましてと会話を切る。


(疲れてるのかな)


 頭を撫でながらルナの手を取る。


「そろそろ帰ろうぜ。お腹も空いたし」

「そうですね。私もお腹が空きました」


 ルナはすっと元に戻る。


「ご飯なら私が「お断りします」……残念だ」


 即断するも、残念そうにしょんぼりするシグレにルナはむむむっと眉を顰める。

 あれだけ殺伐としたやりとりをしておいてとも思うが、基本的にルナは良い子なのだ。

 純粋な好意には弱い。


「兄さん……」


 見上げてくる。


「良いんじゃないか? まあ、シグレがってよりエレーナが良いならだけど」


 従者が主人を置いていけるわけもないので、エレーナに話を振る。

 エレーナは上品に微笑むと、


「雑用が残ってて」

「じゃあ無理か」

「ううん、シグレにやってもらうから大丈夫よ」

「えうっ!?」


 急な無茶振りにシグレが目を白黒させる。


「護衛からグレンがいるから大丈夫よ。終わったらいつものお店で会いましょう。私たちは先に行ってるから」

「お、お嬢様……?」

「大丈夫よ。本当に雑用だからシグレならすぐ終わるから」


 あ、これお仕置きも兼ねてるのかと口元を引き攣らせるのだった。


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