真夜中のおしゃべり
「もーーー失礼しちゃうわ」
人にも猫にも見えるギルティネが腕をブンブンと振り回して暴れる。
それを人にも狐にも見えるファルファレルロが黙ってみている。
「なんなんですの!? ナベリウスぅ? 勝手に魔力を流してくるなんて!信じられませんわぁ」
やれあの男は扱いが雑だの、あの女は爪を引っかけただの、ギルティネの口から次から次へと文句が出てくる。
気の済むまで言わせておこうとファルファレルロは身じろぎ一つせず黙りこくる。
「ファルファレルロもなんとかおっしゃいな!」
「なんとか」
「んもーーー!」
怒りで土人形が造られては朽ちるを繰り返す。
「ならハーゲンティとの契約を破棄でもするか?」
「あたくしが!?まさか」
ファルファレルロの言葉にギルティネがハッと鼻で笑う。
精霊としての矜持は残っているようだ。
「契約を続けるのなら、ギルティネはハーゲンティにどうして欲しいのだ?」
「ハーゲンティに? ……」
今度はギルティネが黙ってしまう。
自分でも気付いているのだろう、今の状況は自分にも原因がある事に。
ファルファレルロと同じように契約主の魔力に溶け込んで姿を隠せるようにしていれば、ハーゲンティはエルダの存在を徹底して隠していただろう。
それをせず、あえて姿を見せ、さらにはハーゲンティにエルダを自慢しろとまで言ったのだ。
「それは何だ」と聞かれるたびに「うんざりだ」というハーゲンティの感情は2柱へ伝わってきている。
「さっさとエルダを渡して質問してきた者が開けないと自身で確認するのが手っ取り早い。今さら他の誰にも触らせるななんて言えないぞ」
「……契約に盛り込んでおけば良かった」
ワイナモイネン以来の契約者に、どうやら浮かれていたようだ。
その気持ちはわからないでもないとファルファレルロが首を傾けながらうなずく。
「良いの、良いのよ。ハーゲンティはできるだけ自由でいてほしいもの。好きに行動してほしい。でなければあたくしは契約した意味がないもの」
「と、言うと?」
人間と契約をすることに、精霊は共通する目的がある。
デックアールヴ族とリョースアールヴ族で別の目的もある。
そして精霊個々にも目的がある。
個々の目的はたいがい面白いかどうか、でありファルファレルロも例に漏れずハーゲンティと契約した理由は“ギルティネを出し抜けられるならこんなに面白いことは無い”が1番に来る。
ギルティネは何が面白いと思ってハーゲンティと契約をしたのだろうか。
「ハーゲンティは王になる」
ギルティネの確信を持った言い方にファルファレルロは眉根を寄せる。
「だが本人は王にならないとはっきり言っている」
「いいえ、王になるわぁ」
「自分の意思を簡単に曲げるような性格ではないぞ」
ハーゲンティはワガママだ。
ファルファレルロはこの数か月、行動も発言も心の中も見てきてハーゲンティをそう評価している。
自分のやりたいことを即座に行動に移す。周囲に止められた時その場では引き下がるので一見聞き分けの良い子に見えるが、心の中ではどうしたら許しがもらえるのかをずっと考えている。条件があるのか、時期の問題なのか、とにかく欲しい物は欲しいし、やりたい事はやりたい。
やりたくない事柄に関しても前述の条件の項目に当てはまる場合は素直に従う、ように見せかけていかに手を抜くかや、教えられた手順よりも効率のいい方法が無いかを考えて早々に終わらせる。
そして時々、どうやっても許可が下りそうにないものはバレずに実行する方法を考える。先日のギルティネの試練の起動などがまさに当てはまる。
ハーゲンティは変な所にばかり知恵が回り、思考を共有しているはずなのに理解できないことが多い。そんな余計なことに頭を使わず真面目に勉強しろとファルファレルロがつい思ってしまうくらいハーゲンティという人間は自分の欲に忠実だ。
身分を振りかざすことなく努力で勝ち取っているといえば聞こえはいいが、どこまでも自分を軸に生きているワガママな少女がハーゲンティである。
「欲しいものを手に入れるための努力を惜しまない。素敵じゃなぁい」
ギルティネは「やっぱり契約してよかったわぁ」と歌いだしそうなくらい声を弾ませる。
ファルファレルロも、何もそれに困っているわけではない。むしろ自分の欲のために悪魔である自分までも振り回すことに好感を持っているのだから。
「それで、ハーゲンティのどこを気に入ったのだ」
結局今の話はファルファレルロがどこを気に入ったかの話であって、ギルティネの答えではなかった。
どこを気に入ったのか、何を見て王になると感じたのか。
王になってほしい、それだけならファルファレルロもハーゲンティに少しばかり期待をしている。だが、ワガママなハーゲンティは王を望んでいない。欲しいものは欲しくて、いらないものはいらない。
我々の契約主にとって“王”はいらないものなのだ。
「別に、この国の玉座である必要はないんだものぉ」
これだからリョースアールヴ族は嫌いなのだとファルファレルロは心の中で独り言を言う。
「あたくしのことを聖獣様と呼びながら、決して上位者として畏れ敬うのではなく対等な関係であるかのように話しかけてくるのよぉ? 礼儀知らずってわけではないから丁寧さももちろんあるのだけれどね」
ふふふ、とギルティネが笑い声をはさむ。
「いいじゃなぁい。首を垂れ続けて決して顔の見えない誰かではなく。所詮精霊であって神ではないと見下してくる愚か者でもない」
ギルティネは自分で自分を抱きしめるように腕を回す。
「あたくしを上手く使ってくれそうじゃなぁい?」
それにはファルファレルロも納得した。理解した。共感した。
「えぇそう、だからハーゲンティの意思を尊重してエルダの写しを与えるに留めたんじゃなぁい」
ファルファレルロが先に契約しているっていうのももちろんありますが、とため息混じりに言葉をこぼして視線をあさっての方向へ向ける。
「ハーゲンティが自由に振る舞えば振る舞うほど、あたくしの理想の王に近づく」
ワイナモイネンを超える王、まだそんなものをリョースアールヴ族は求めているのか、デックアールヴ族の吾には理解できないなと、ファルファレルロは腕を組んでギルティネを肯定も否定もしない。
「『ニライカナイ』の復活も夢じゃないわぁ」
最後の言葉にだけは否定を込めて睨みつけた。




