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悪役やるならこんな風に  作者: リボン会長


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58話

 

 生憎の雨。

 まるで私の心が反映されているようだ、なんて言ったら酔っているのかと疑われるのだろうか。それとも自分が世界の中心のつもりかと責められるだろうか。

 いや、女の子はいつだって世界の中心なのだから何の問題もない。

 そう自己中心的な結論をつけて、目の前に差し出されたカップへと手を伸ばす。


「ハーゲンティ、昨夜はきちんと眠れましたか?」

「ご心配いただきありがとうございますレラージュ王女。側近たちがすぐに休めるよう尽してくれました」


 私は今、王宮の会議室にいる。

 子供の秋の社交が終わり、高位の貴族以外は領地へ、学生たちは寮へ戻り静かになった王宮は厳かな雰囲気に満ちている。

 本来ならばプルソン更衣の離宮にいるはずだったのだが、ウハイタリの別邸をそろそろ出発しようかという時間に合わせて王宮から迎えの馬車と伝令が来て会議室へ通された。

 私は演奏会の日にレラージュと約束をした茶会のため領地へ戻る日程を遅らせていたのであって決して尋問会のために残っていたのではないと、レラージュにだけ笑顔を向ける。


「それは良かったです」


 私が聖獣の書を持ち帰った大事件の翌日だからだろう、一応私とレラージュが囲む机はお茶会の体裁を取っているが、周囲は私の頭上に浮く黄色い本から決して目を離さない。

 レラージュの後ろには大勢の文官たちが並び、何人かは研究所の制服姿も混ざっている。

 みなその手にはペンを握っていて、お茶会は名ばかりであると強く主張している。

 たぶん、レラージュの側近だけでなく王や他の王子たちの書陵官も並んでいるのだろう。

 それはこちらも同じで、私の側近に混ざりザブナッケとバティンの書陵官が数人ついてきている。

 私たちはしばらく無言でお茶を飲み続けた。


「ノーンハスヤ異母兄(おにい)様から報告書は見せていただきました」


 1杯目を飲み終えたレラージュが切り出す。

 私は黙ってうなずく。


「ハーゲンティ、本当に、何があったのです?わたくしにも言えない事なのですか?」


 レラージュには演奏会の日に場を収めてもらった恩がある。

 今日だって、きっと自分との約束が先だと強く出てくれたに違いない。でなければこんな風に目の前にお茶とお菓子が並んでいるはずがない。

 しかし、言えないものは言えない。


「どうぞ、レラージュ王女もお試しください」


 百聞は一見にしかず。

 ノーンハスヤの時と同じように、レラージュへと黄色い本を差し出す。

 レラージュの側仕えが受け取ろうと手を伸ばしてきたが、レラージュはその手に待ったをかける。


「下がっていなさい」


 私が差し出しているのはただの本ではない。

 王宮や各領地に祀られている像の飾りでもない。

 写し(レプリカ)とはいえ、聖獣が創り出したという意味では本物なのだ。

 本物の、エルダ。

 こればかりは側仕えを仲介してはいけないとレラージュが判断し、私の手から直接本を受け取る。


「ハーゲンティ以外も、触ることができるのですね」


 言われて、あ、確かにと思った。


「昨夜手に入れたばかりなので、何ができるできないといった実験はしていません」


 なにせノーンハスヤに本を自慢し始めたところで盛大に私の腹が鳴ったのだ。

 魔力も枯渇まではいかないがかなり減って顔色もそこそこ悪かった。

 夜になっていたこともあり私はすぐに帰宅が許され、馬車へ乗った瞬間に気が抜けて寝落ちもした。

 私の目覚めと同時に問い詰めたかったのだろうが、今朝はフードファイターかっていうくらい朝食を貪ることに時間を費やした。

 王家もウハイタリ公爵家の誰も、この黄色い本の情報を持っていない状態だ。

 レラージュ側、私側、どちらの書陵官もみなペンを握り直す。


「何か試してみたいですね」


 私はそう言いながら、ぼんやりと本を一度私に返してもらわなきゃな、と考える。

 するとレラージュに握られていた本がその手を抜け出して戻ってきた。


 まだ実験始めてないよ!


「失礼いたしました。実験するなら一度戻して、と考えたのです。そうしたら本が……」

「エルダはハーゲンティの心がわかるのですね」


 レラージュの瞳は驚きと興奮と、少しの恐怖を孕んでいる。

 ギルティネがワイナモイネン以来の契約者、そう言っていたのは本当なのだろう。

 光の聖獣アルラディについても“時々”契約していると言っていたので、歴代の王全員が契約してきたわけでもない。

 エルダの契約者は珍しい、よりももっと希少な存在。


 周りの私に対するこの対応を考えると、何十年どころか何百年ぶりの契約者の可能性が高いな。


 めんどくさいなと考えてしまったからだろうか、黄色い本が私の後ろへと下がった。

 お前のことじゃないよと私は黄色い本をつつく。


「エルダはディリエル異母兄様とヴァルファール様も手に入れられないかしら」


 レラージュが呟くように言う。

 行きの馬車の中で聞いたレラージュの決まった未来を思い出す。

 王家の血を薄めないため、1代置きに王は必ず異母兄弟(姉妹)を娶る決まりがある。

 金の髪のディリエルが生まれ、歳の近い女児をと望まれて生まれたのがレラージュだ。

 レラージュと同い年に金の髪のヴァルファールも生まれたため、ディリエルとの婚約内定は流れたが、王太子に選ばれたどちらかの王子と結婚することは決定事項である。

 時期王より先に決まった時期王妃。

 どちらと結婚するのかだけが未定の、未来の重鎮。

 私という公爵家の金髪が生まれただけでは揺らがないはずだった。

 

 レラージュは、ディリエルとヴァルファールのどっちに聖獣と契約して欲しいんだろう。


 エルダを手に入れたから王になるのではない。

 私はこの国の王になる気はないし、聖獣たちも「王になったら面白いのにぃ」くらいで私が王になることを本気で望んでいるわけではない。

 ただ、周囲の人々が何をどう考えているのかはまた別だ。

 このままでは私の意思など関係なく王太子に持ち上げられそうだし、そうなればレラージュの地位は崩れる。

 どちらかの王子がエルダを手に入れ、王太子の座を確実にするのが今のレラージュの目標だろうか。


「わたくしがエルダを手に入れられたのは偶然が重なったことが大きいです。何の労もなく手に入れたわけではありませんが、最初のきっかけはたまたまとしか表現できません」


 だってザブナッケに殺されかけたのがキッカケだから。


「王家にはアルラディ様のエルダについて何かしら記録に残っているのではありませんか? 入手方法、は......わたくしと同じ契約だったと考えると残っていないでしょうね。どちらの王子がアルラディ様に気に入っていただけるか、わたくしには測りかねますが、挑戦してみるのも」

「え」

「え?」


 私はガバっと黄色い本を振り返る。

 本は私の視線から逃れるように高く高く飛んでいく。

 レラージュも自分の書陵官たちを振り返る。

 書陵官と研究員が1人ずつ駆け寄ってきてレラージュの耳元で何かを話す。


「ハーゲンティ、今の話の流れからして過去の王に、アルラディ様のエルダを手に入れた方がいらっしゃるのですね?」


 記録が残っていない?


 なんで、と思ったが自分がバカなだけだった。

 本の中身を話せない契約を結ぶし、ファルファレルロはちゃんと(?)手の中にしまえる。

 そして冗談だと笑い飛ばしたいが悪魔と聖獣は魔王を生み出そうとしていた。

 歴代のエルダを手に入れた王たちは、国を揺るがしかねないと口を噤んでいたに違いない。


「やってしまった、か?」


 あぁごめんなさい今までの王様!

 でもでもだって私悪くないもん!

 ギルティネが! ギルティネがあああああ!


 本が皆に見える形で手元にあるからこそ、社交をめちゃめちゃにしても許されたということはすっかり頭から抜け落ちてひたすら私は他責する。


「他に話せることは? なんでも良いのです。教えてください」


 真剣な顔で問われるが、私自身知っていることがほとんどない。

 話せない契約をしているしていない以前の問題なのだ。

 たまたま死にかけてファルファレルロと契約ができたが、歴代の契約してきた王たちがこんなオマヌケな方法で契約しているはずがない。


「報告書に記載されていると思われますが、エルダに関する事柄、特に本の中身は話せない契約をギルティネ様と結んでおります」

「わたくしが金の髪ではないから、ということではないのですね?」

「違います」


 私はゆっくり首を横に振る。


「今目の前にディリエル王子とヴァルファール王子がいらしても同じ返答を返します」


 レラージュとその側近たち全員が納得がいかないという顔をしているが、どれだけ何を言われ詰められようとも答えられない。

 これ以上意味のない問答を繰り返したくない。

 将来的にも演奏会で助けてもらった恩も含めてレラージュともめたくない。

 どうしたものかと考え込み、ふと思い出す。


「言えること、あります」

「なんでも構いません!」


 レラージュが少し早口になる。


「わたくしはギルティネ様からエルダを受け取る際に必ず実行しろと言われている事が一つあります」

「何と言われたのですか?」


 レラージュが息をのむのが分かった。


「ノーンハスヤ王子には実行途中で帰宅してしまいましたから、ギルティネ様へ心象の挽回も図りたいです。レラージュ王女、ぜひ聞いてください」


 私は黄色い本に指先を向け、戻っておいでと念じる。

 フラフラと戻ってくる本に私の側近含めこの場にいる全員が視線を集中させる。

 手元に戻ってきた本をポンポンと軽く撫でるようにたたき、少しばかり表紙の魔石に魔力を流し込んでやる。

 すると、魔石だけでなく本全体が淡く黄色い光を放ち始めた。


「ギルティネ様からの命を実行します」


 レラージュは声を出さずひとつ頷いた。


「今からわたくしのエルダ自慢話にお付き合いください」

「え」


 本日二度目の「え」をいただきました。

 そりゃそうだよね。

 周りがあっけに取られている間に私は話始める。


「まずはこの装飾。見てください―― 」


 私にこんなことをさせるなんて! 絶対ぜったいぜーーーーったい!! ギルティネは私のことが嫌いだ!!!!




 


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