表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役やるならこんな風に  作者: リボン会長


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
61/63

57話

 

 コツコツとわざとらしく靴音を響かせて歩く。

 ファルファレルロはきちんと仕舞った。

 ギルティネの書は仕方がないので頭上から気持ち後ろを漂わせておく。

 扉を完全にくぐると照明がまぶしくて、一度目をつむってしまった。


「チャクスとムルムルは?」


 私は扉の一番側にいるグイソンに尋ねる。


「ムルムルは側仕官なので避難させました」

「ありがとう。チャクスは、あ」


 駆け寄ってくるチャクスの姿が視界に入る。

 奥に大人の群れがいるので、状況説明か何かで呼ばれたのかもしれない。

 ここでようやく周囲を見渡す。大人は奥だけでなく、自分が立っている魔法陣の周りにもいる。

 予想していたが、その予想を上回る大人数が自分を取り囲んでいて、魔法陣から出なければならないのに足を動かす気になれない。


「おかえりなさいませ、ハーゲンティ様」

「ただいま、チャクス。面倒なことを任せてしまいましたね」


 チャクスが目の前で跪き、エスコートのために手を差し出してくれる。

 私はその手を取るために魔法陣から出た。

 途端に、扉は魔法陣の中へ沈んでいく。

 魔法陣の光もどんどんと薄まっていき、扉が沈み切るのと同時に光も消え去った。


「ああああ」

「まだ何も情報が」


 いっせいに騒ぎ出す集団にちょっとおどろいて肩がはねてしまった。


「大丈夫ですよハーゲンティ様。彼らは王立研究所の研究員たちです」

「あれが」


 研究員と言えば白衣のイメージを持っていたが、誰も白衣を着ていなかった。

 代わりに揃いの制服のようなものを着ている。

 ポケットもたくさんついているようなので作業着と言った方が近いかもしれないが、貴族が着る服なので当然工場の上っ張りのような作業着ではない。

 消えていく魔法陣を目に焼き付けようと目をかっぴらく集団が怖い。


「疲れました。魔力もかなり消費したので早く戻って休みたいです」


 行きましょう、と促したがチャクスが動かない。

 チャクスだけじゃない、護衛含め私を囲む騎士全員が一点を見つめて固まっている。


「え、あぁ」


 みんなどこをみているんだろうと視線を辿ると、頭上の黄色い本に向いていた。

 研究員に気づかれる前に帰りたい。彼らはまだ床を見ている。なんならへばりついている。

 今のうちだ。


「静かに、大丈夫ですから」


 ちょいちょいと手招きをし、大人に囲んでもらう。

 子供の自分はうまい具合に隠れられた。

 本は私の少し上なので問題なく隠れる。

 ウハイタリの集団がゆっくり動き始める。

 どうしても本が気になってしまうようでチラチラと視線を送る人が何人かいる。やめなさい、バレるでしょうが。


「ハーゲンティ様」


 隣にいるチャクスが小声で話しかけてくる。


「ノーンハスヤ第一王子殿下がいらっしゃっています」


 ん、だよね。

 このまますんなりなんて、帰れないよね。


 進行方向が、出入り口からじわじわとノーンハスヤへと変わっていく。

 ギルティネの居住からの帰り道、結局上手い言い訳は何も思い浮かばなかった。

 この黄色い本に関しては思い切り自慢しろとお言葉をいただいているのでそれでいいとして、中で何があったかは話せない。

 けれど自領や自宅ではなく王宮で問題を起こした。

 起きたんじゃない、起こしたのだ。


「王子殿下は怒っていらっしゃいましたか?」


 おそるおそるチャクスに確認する。


「怒っている、とは、少し違うかと」

「そうですか」


 怒っていないならいっか、とチャクスの肩へお頭を預ける。


「大丈夫ですか?」

「ん、がんばります。だからギリギリまで寄りかからせてください」

「はい」


 広いとはいえ室内。

 あっという間にノーンハスヤの前に到着した。

 ノーンハスヤ、ノーンハスヤの護衛、王宮騎士、だけでなくウハイタリの騎士の視線も全て黄色い本に向けられる。

 私の周りを囲めという指示にすんなり従ったのは、どうせ王子殿下の前で説明があるからその時に聞こうということだったようだ。

 なんてこった。

 騎士たちが私の扱いに慣れてきたと思うことにしておく。


「そ、その宙に浮いている、本? は、何だ?」


 ノーンハスヤが言葉を詰まらせながら私に説明を求める。

 しかもこのタイミングで研究員にも見つかった。


「それは何だ!? どうやって浮かしているのだ」


 突進してくる研究員たちはウハイタリの騎士が追い払ってくれた。

 比較的、落ち着いた様子の研究員が1人だけ話し合いに加わる許可を得て、ノーンハスヤの隣に立った。


「いいか、絶対に口を開くんじゃないぞ」


 違った、見学だった。

 ノーンハスヤに注意された研究員はニコニコしながら頷く。

 他の研究員たちは王宮の騎士たちに摘み出された。

 騒がれても面倒だったので私は内心ホッとする。

 ウハイタリの騎士が「初対面のご挨拶を」と耳打ちしてくれたので右足を後ろに引きながら会釈をする。

 私に合わせてウハイタリの騎士たちも会釈をする。


「お初にお目にかかります。ハーゲンティと申します」

「顔を上げろ」


 ゆっくりと姿勢を戻し、ノーンハスヤの顔を見上げる。

 青い瞳に赤みを帯びた銀色の髪、そしてしっかりとしたアゴ。


 母親がリオウメレなのかな?


 マルティム誘拐事件が頭をよぎる。

 警戒しています、という態度にならないよう気をつけながら口を開く。


「王宮内にウハイタリの騎士団を入れていただき感謝いたします」


 問題は起こした。

 しかし犯罪ではない。

 お小言はあるだろうけれど、連行されたり投獄されるようなことはない。

 はず。

 まずはこのゴタゴタに対応してくださったことへの感謝をのべる。

 自分からアレコレ話して秘密にしなければならない、あまり話したくない情報をこぼすわけにはいかないのでノーンハスヤから質問された事にだけ答える。


「この本はギルティネ様の書の写しです」


 細かい話は一切しない。

 私はまだ6歳なのでノーンハスヤが、質問の仕方を変えないと、とアゴに手を当てて考えてくれる。

 ハキハキと返事をするだけで何とかなるのは好都合だ。この手はいったい何歳まで使えるだろうか。


「ハーゲンティ、ギルティネ様の書をどうやって手に入れたのだ」

「ギルティネ様から直接いただきました」


ザワッ


 一瞬、色々な所から色々な声が聞こえたがすぐに収まる。


「あの消えた扉の中で何があった」

「あの扉はギルティネ様の___」


 声が出なかった。


「ギルティネ様の何だ」

「___」


 私はパクパクと口を動かすが声にならない。

 本当に声が出なくなるんだと謎に感動する。


「お話ししてはならないようです」


 周りがみな視線をキョロキョロと動かす中、ノーンハスヤ1人はじっと私から視線を外さない。


「私が金の髪ではないからか?」


 ノーンハスヤの問いかけはひどく冷めていた。

 私はなんとなく引っかかりを覚えたが、深く考える余裕はないので質問内容にだけ答える。


「いいえ殿下」


 金髪、は前提条件なので本当の返事は「はい」になるが、ディリエルたちを連れて来られてさあ話せと言われては困るので私は否定の言葉を口にする。


「これはわたくしがギルティネ様と本の中身を話さないという契約を結んだからです」


 扉の向こう側を知るには聖獣か悪魔どちらかの本が必要になるので、本の中身扱いなのだろうと自分の喉にそっと指を添えながら、一度パチリをまぶたを閉じる。


「中を見ても?」

「わたくし以外は見れませんが、試すと言うのであれば」


 私が右手を少し上げると、黄色い本がその手に収まるように滑り込んでくる。


「どうぞ」


 本をノーンハスヤへと手渡した。

 ノーンハスヤが本についているベルトの金具に手をかけるが滑ってしまうように見える。

 革張りで凹凸もあるというのに、どこにも引っかからずスルスルと撫でられていく様子に私はなんとも居心地が悪くなる。

 終いには騎士を数人使ってベルトを引きちぎろうとして惨敗。

 ノーンハスヤは諦めたようにため息をついた。


「聖獣様はこれについて何とおっしゃったのだ」


 何ってそんなの、


「思い切り見せびらかして自慢しろと」


 私が両手を迎えるように広げれば、黄色い本が手元へ戻ってくる。

 それを抱えてニッコリ笑えば、口を開く者はいなかった。





 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ