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悪役やるならこんな風に  作者: リボン会長


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55話

 

 王宮内、黄色のサロン中央の魔法陣と不自然に現れた扉はいまだ静かにたたずみ、その魔法陣を囲むようにハーゲンティの護衛の子供たちとウハイタリ騎士団の大人20人ほどが立っている。

 ハーゲンティが扉をくぐり、その扉が完全に閉じた後にサロンの出入り口が一斉に開いたのだ。

 ハーゲンティの側近以外は全員一度外に避難し、連絡を受けたウハイタリ騎士団が出動した。ムルムルも残りたがったがチャクスの指示で騎士団の到着と入れ替わるようにウハイタリの別邸に戻っている。今残っているハーゲンティの側近は護衛官見習いのみだ。

 ウハイタリ騎士団と王立研究所の職員が現場に到着したのはほぼ同時で、すでにひと悶着が終わった後だがまだ睨み合いを続けている。


「見習い、すぐにそこを退きなさい。ここは王宮内で、このような不思議な現象は我々王立研究所の研究員が対処するべきなのです」

「わたくしはハーゲンティ様から扉の警固を命じられました。決してここを動きません」


 大人の、宮廷勤めである研究員を相手に一歩も引かないチャクス。

 それもそのはずだ。サロンから退出した人々の報告で魔法陣に弾かれるから近づくなと警告が回っているというのに、研究員たちは「本当に弾かれるのか試さねばならない」といって何人も突撃しては騎士団に投げ飛ばされている。

 こんな状態がすでに8時間過ぎた。

 さすが、騎士たちは余裕そうな顔である。

 対して研究員たちはかなり疲労の色が濃い。あきらめればいいものをと思ってしまうが、未知への探求心が強いからこそ研究員なのだ。まだねばっている。


「チャクス、そろそろ交代要員が来る。その時に見習いを全員引き上げなさい」


 この場の指示を任されている騎士に帰宅を言い渡され、チャクスだけでなくハーゲンティの護衛は全員悔しい顔をする。


「側近が誰一人いない状況は、駄目だと思います」


 顔をゆがませながらチャクスはボソりと言い返した。


「よろしくない、だ」


 冷静に訂正された。


「主を想う気持ちは理解するが、交代の中にケレブスがいるので問題はない。それに、ハーゲンティ様の見習いは全員幼すぎる」


 身もふたもない事を言われてしまい誰も口を開けない。


「入学している年齢ならまだしも、全員未就学だ。今日はいったん引きなさい」


 理由をしっかりと説明されてしまえば納得するしかない。


「……はい」


 チャクスが絞り出すように返事をする。

 研究員たちを追い払いながら、交代の騎士が到着するのを待っていると、それほど待たずにサロンの正面口が大きく開かれる。

 ケレブスら、ウハイタリ騎士団の交代が到着したのだ。だが、妙に周りがざわついている。

 一斉に視線を向けるわけにはいかないのでチャクスは少し遅れて視線を向けた。

 ケレブスはもちろん来ていた。しかし見慣れない人たちも大勢で入ってきていた。

 王宮の騎士団だ。

 チャクス含む子供たちは王宮騎士団にまで警戒の視線を向ける。

 そして側に立っている大人の騎士に小突かれて一緒に跪かされる。

 研究員たちも動きを止め、その場に跪いた。


「立ったままで良い、警戒中だろう」


 この場で礼は必要ないと手を上げている中心人物をこっそり教えてもらう。


「唯一成人している王の子、ノーンハスヤ第一王子殿下だ」


 大人の社交に参加ができない自分たちは交流を持っていない。さらに自分たちが6歳で初めて社交に参加した時の開会式で顔が判別できないほど遠くから姿を1度拝見しただけ。

 王子だと教えてもらっても、あぁ、とはならなかった。

 チャクスはディリエル王子といいレラージュ王女といい、王家の方々は行動力があるなと感じ、その血を濃く受け継いだ自分の主もまた行動力が有り余っているお方だったと思い至ってなぜかノーンハスヤへの好感度が上がった。


「現場にいたウハイタリの見習い代表、1人こちらへ」

「はっ」


 ノーンハスヤに呼ばれ、チャクスが前に出る。

 実家の爵位とハーゲンティの最初の側近という面から護衛見習いの代表はチャクスだ。

 グイソンに後を任せると告げて王宮の騎士が集まる場所へ移動する。入れ違うようにウハイタリ騎士団の交代要員も移動する。

 すれ違いざまケレブスから「頼んだぞ」と言われたチャクスは一人前扱をされたようで、先ほど幼すぎると言われて重くなっていた心が軽さを取り戻す。


「ハーゲンティ様の護衛官見習い。伯爵の子、チャクスです」

「女御の子、ノーンハスヤだ。側でに見ていた者の話が聞きたい。手短に説明を」

「はい」


 チャクスは何が起こったのかの説明と、ハーゲンティからの注意事項を述べていく。

 そのあとはひたすら研究員を近づけないようにしていたと話す。


「研究員の仕事だ」


 ノーンハスヤから少し冷たい視線を向けられた。

 チャクスはもちろん分かっている。研究員たちの言い分は間違っていないし、王立研究所の職員への抵抗は王家への抵抗に捉えられかねないことだとも。

 それでも護衛騎士であるチャクスは主の命令が最優先で、魔法陣に近づくなと言われている以上それを遂行する。

 ノーンハスヤとしても前代未聞の事件がこうも立て続けに王宮で起きては、王家の威信にも関わるのでなんとか解明したいところである。

 誘拐未遂に関しては公になっていないだけでたびたび起きていた可能性はあるが、今回は大々的に広がってしまった。

 同じ轍を踏むまいと警備を強化している王宮内でまた事件ともなればうるさい領地が出てくる。


「ここは王宮で、ウハイタリ領ではな……」


 ノーンハスヤは言葉を続けられなかった。

 こそこそと隠れてちょっかいをかける研究員たちを目にしてしまいノーンハスヤは額を押さえる。


「研究員をいったん下がらせる」

「ありがとうございます」


 もっとうまくやれ、という思いとそれができるなら最初から研究員になっていないかという思いがぶつかってため息が出る。

 事件の詳細は他から聞いた情報と差異がないことから、チャクスへの質問内容を事件からハーゲンティ個人へと変更する。

 こちらはウワサで聞いていた人物とはまるで別人だなと不信に感じたが、チャクスの目がキラキラと輝いていたので「調べるべきはウワサの出所か」と脳内修正する。


「もういいぞ」

「はい」


 チャクスが敬礼を取ろうと腕を上げた瞬間。


ギ、ギギ……ギ


 全員が振り返る。

 中央の魔法陣がひときわ輝き、中央の扉がゆっくり開いていく。

 その奥から軽い、子供の足音が響く。


「ただいま戻りました。あれ? チャクスとムルムルは?」


 ハーゲンティが戻った。

 そして周囲の顔を見回し、扉をくぐる前は側にいた側近が欠けていることに気づき探すように視線を動かす。

 当然のように自分の名前を呼んでくれる主の元へチャクスは駆け出した。





  


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