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悪役やるならこんな風に  作者: リボン会長


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52話

 

「『ゲブラー・ケムダー・ティファレト』」


 水と風の魔法を同時に発動させる。イメージは台風やハリケーン。

 舞台上の泥人形達を一気に片付ける作戦だ。

 そして私の考えは甘かった。

 巻き上げた泥は天井付近で四方八方へ吹き飛ばされ、客席に降り注いだ。

 急いで盾を傘がわりに頭上へ掲げ、降ってくる泥を被らないように防ぐ。


「くっ、やられた」

「ハーゲンティが間抜けなだけだろう」


 ファルファレルロがあきれた声を出す。


「土かぁ。火を出しても燃やせないし、うーん、いや、陶器って土を焼くんじゃなかったかな?」

「ほぅ、知らない事もあるのだな」

「知らない事だらけですよ」


 勉強が好きじゃなかったのだから当たり前で、どの科目に置いても小中学校で習った程度の知識しかない。

 高校はなんとか卒業できたが体育・音楽・美術以外の全てが赤点スレスレだった。

 探究心に溢れていたらダンサーにならずに研究者や学者を目指していただろう。

 私が持っているのは芸術分野における未知への期待と度胸くらいだ。


「ファルファレルロ様は何かいい案持ってませんか?」

「火の悪魔である吾を何百年も封印していた土の聖獣への攻撃案か」

「あ、なんかそう言われると急に不安になっちゃう」


 ファルファレルロとショートコントのような掛け合いをしている間に土が集まっていき、再び人の形を形成していく。

 ダンサーの知識なんて無いに等しい。

 今の体は6歳。

 他より抜きん出ているのは魔力量だけ。


__♪


 曲が、場面が変わる。

 踊りたい、舞台に上がりたい、なぜそこにいるのが私ではなく泥人形なのだ。

 ファルファレルロを握る手に力が入る。

 自分の感情をまともに整理できないのは、私が大人気(おとなげ)ないのか、子供の身体に精神が引っ張られているからなのか。

 泥人形達がまた床を汚しながら動き始める。

 私はこれを踊っているとは絶対に表現したくない。


舞台(そこ)は、私の場所なのに」


 舞台へ上がるハシゴは当然外されている。

 この小さな体ではよじ登る事もできない。

 アレもダメ、コレもダメ、短気な私は苛々が募っていくばかり。


「ファルファレルロ様」

「なんだ」

「空飛ぶ呪文の使い方を教えてください」


 私は舞台から視線を逸らさず続ける。


「空を飛ぶ事もできる、って言ってましたよね? どう意識すれば飛べますか? 飛ばなきゃ、私、どうしても舞台へ上がりたいんです」


 曲に合わせて指が動く。

 踊りたい、踊らなきゃという衝動が込み上がる。


「よく聞け」


 ファルファレルロに表示された呪文が一つに絞られる。


「この呪文の効果は引き寄せる力。重力をも操る。そのまま発動すると術者の魔力量に比例して視界に入る全ての重力が何倍にも大きくなるので確実に、明確に何をしたいのかを意識してから唱える必要がある」


 私は、一度うなづく。


「一方だけではなく、上下左右に引き寄せる力を均衡に保つことで空が飛べる。さぁ、思い浮かべて」


 かなり難しいことを言われた。

 でも、できる気がする。

 私はバレエダンサーだ。

 トゥシューズを履き、妖精の衣装を纏い、まるで飛んでいるかのように舞って魅せるのが仕事だ。

 あの感覚を思い出す。

 グラン・ジュテで飛んだ時、まるで一瞬空中で制止したように感じる、あの感覚を。


「本当に、空を飛んで、魅せる」


 私はほんの数秒だけ目をつむる。

 眠れる森の美女の曲が耳から入る。

 そうだ、リラの精になろう。

 私の瞳の色と同じ、紫色の羽で優雅に飛び回るのだ。


「『エーイーリー』」


ふわり


 身体が浮かび上がる。

 全方向に同じ力で引っ張られる感覚が、それこそポイントで立っている時に似ている。

 ぐらぐらと揺れるのは美しくない。

 腹筋と背筋に力を入れ背筋を伸ばすと揺れが凪いでいく。

 私は、今、


「飛んでる!」


 グルグルと旋回しようとしたが、ガクンと落ちたりしてなかなか難しい。

 身体強化を行うとき同様、全身に魔力を巡らせるのだが少しでも偏りができると一気に引っ張られるし、盾を持ったままなのもバランスを取る難易度を上げている。

 なるほど、魔法の扱いに慣れてからと言われ続けた意味をようやく理解する。


「いい、全然いい。今は舞台に上がれれば上出来なんだから!」


 前へ引っ張る力を強める。

 走るより早く舞台へ、飛び乗るというより突っ込む。

 その勢いを使って盾で泥人形を一つ潰す。


「『ゲブラー』」


 水で舞台の汚れを流す。


「舞台の神様、芸術の神様、見ていてください。そして」


 プレパレーション。

 アン・バーからアン・ナヴァンを通ってア・ラ・スゴンド。


「ギルティネ様」


 キっと睨みつけるように正面の客席へ視線を向ける。

 すると曲が止まった。

 ギルティネが私を見ていることが確定する。

 再び曲が鳴り出す。


「ローズ・アダージョ」

 


 

 


 




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