50話
広く、長い廊下。
濃淡さまざまな黄色で彩られた美しいギルティネの宮殿は、アラブ様式とルネッサンス様式が融合したようなデザインで、王宮ともウハイタリの城とも違う雰囲気がある。
ファルファレルロに記された地図を指でたどり、壁の装飾を目にしながらゆっくり進む。
花や絵が飾られておらず、廊下を進んでも進んでいるように感じないので地図が手放せない。
そして同じ名前の部屋と用途不明な部屋が多く、通り過ぎた部屋がなんだったのかを確認するにも地図が必須だ。
応接、食堂、寝室、客室などなどが複数個ずつある。これはウハイタリの城も複数個ずつあることを知っているので「お城はそんなもんだろう」と納得できる。それ以外の部屋だ。
知恵の部屋
理解の部屋
慈悲の部屋
峻厳の部屋
美の部屋
勝利の部屋
基礎の部屋
王国の部屋
王国の部屋ってなんだ?
とにかく上の階を目指すことにする。
「この先の階段を、あれ?」
見間違いかと思い、じっと地図を睨む。
そして振り返る。
「今さっき、え」
地図が、道が、変わっている。
そんなバカな。エントランスはどこだ?
地図を指で戻り自分が1~2分前までいたエントランスを探す。
どこにもない。
先のページへ進む。ここにも無い。
前のページに戻る、戻る、戻る。あった。
左上に1階と書かれている。
なら、今私は何階にいるのだろう。
恐る恐る指を挟んでいたページを開く。
「4階」
階段を登った覚えはない。
「もたもたしていると目的の扉を開けても違う部屋に出るぞ」
ファルファレルロの言葉に気が遠くなる。
迷宮攻略ってレベルじゃない。
「なんでよ! 試練どころじゃないじゃん」
「これもまた試練」
「キィィイイイイイ」
さすがにこれはヒステリックになっても許されるでしょう。
ファルファレルロを両手で上下にブンブン振る。
やめろって聞こえた気がするけれど無視だ。
「はぁ、はぁ、はぁ……あ」
一通り暴れてからピンときた。
「道がどんどん変わるのが試練ってことは、どこかにその仕掛けを解除する部屋とか道具があるんじゃないですか?」
どうだ? 正解か? ファルファレルロをじっと見る。
「その通りだ」
ファルファレルロの答えと同時に地図がピカっと1度だけ瞬いた。
きっとどこかに変化がある。
ページを前に後ろにめくっていく。
「あった」
先ほどまで無かった記述が2つ。
大きなサロンの位置に「劇場」、もう一つは王国の部屋に「ギルティネ」が追記された。
「まず劇場を目指す、で良いんですよね?」
最終的にギルティネのいる王国の部屋へ向かい、試練の合否を判定してもらうんじゃないかと予想し、確認の意を込めてファルファレルロに尋ねる。
「そうだ」
よしよし。
目標がハッキリしただけで不安が少し和らいだ。
それにしても、
「不思議を通り越して気持ち悪い」
「何がだ」
「宮殿も、魔法も、ぜーーーーーんぶです」
もとは魔法のない世界で23年も生きたのだ。
映画やアニメの魔法に憧れはあったが、さすがにギルティネの居住は度を超していて理解を脳が拒む。
「ま、いいや」
本当は全然良くない。しかしはっきり口に出すことで、少しでも自分の気持ちを誤魔化そうという狙いだ。
効果はあった。
「やるしかないんだ、なんだっけこーゆーときって、『逃げちゃダメだ』?」
「知らぬ、それから逃げられない」
「あーいや、そうじゃなくてですね」
人造人間がどうのと言ったところでこのネタは一生通じない。
私は異世界転生なんてするもんじゃないなと明後日の方向へ視線を彷徨わせる。
「いやあああああああああああ」
走っている。
それはもうカーブの度にGを感じるほど速く。
筋繊維が悲鳴を上げているが、ためらわずに魔力を両脚に流して私は全力疾走する。
「なんで言ってくれなかったんですか」
「今言っただろう」
「お~そ~い~!」
この宮殿の中にいられるタイムリミットがあったのだ。
王宮で扉を召喚するために使用した魔力はそのまま扉の維持に使われ、その魔力が尽きると扉が王宮から消え、私は出られなくなる、と。
「あまりにのんびり歩いているから声をかけてやった。一応手助けをする契約だからな」
一応、に引っかかりつつこちらも“一応”反論する。
「変化する道に何か法則性がないかな? とか! 考えながら歩いてたんです!」
ゆっくり歩いた甲斐あって、30秒ごとに道が変わっていくという法則を見つけた。
タイムリミットを知った今、私にできることは新たな法則を探すことではない。
道が変わる前に走り抜ける、だ!
時間がないので階段を降りる時はほぼ飛び降りになる。
凝ったデザインの美しい手すりを眺めるでも手を添えるでもなく乗り越える。
しっかりファルファレルロを掴んで着地すれば、ほぼ足に負担をかけずに降りられる。
持っててよかったファルファレルロ。
「間に合えええええええ」
劇場の扉を視界に捉える。
道が変わるまであと3秒。
「仕方がない」
ファルファレルロがそう言って背中へ周り、押して加速を援助してくれる。
「いけるっ」
右手を目一杯前に出す。
あと少し。
もう取っ手に触れられる。
ガッ
掴んだ扉に体当たりをしながら開いて、私は中に転がり込んだ。




