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第二十一話:成果報告

あれから二週間前後の時が流れた。

修行を始めてから、もうすぐ一ヶ月になる。

雲一つない、恵まれた天気の朝。

俺は町外れの小さな空き地で、日課の素振りを終え、小休憩を挟んでいた。


千本素振りは、かなりこなせるようになってきた。

限界まで追い込んだ体で続けることによって、

無駄の少ない、効率的な剣の振り方を体で覚え始めたのだ。


クサバミの言葉は相変わらず厳しいが、最近はそれすらも妙に心地よく感じる時がある。

あの人は口は悪いが、俺の変化をしっかり見ている。

腕の高さや軸足の使い方、呼吸の乱れ。

少しでもズレた動きをすれば、即座に空き瓶が飛んでくる。

……が、逆に言えば、それ以外は口を出さない。

無言で俺の素振りを見守る視線に、いつの間にか背筋が伸びるようになっていた。


重りをつけての走り込みはまだまだで、息も絶え絶えになんとかやっている。

が、日暮れまでにはなんとか終わらせる事ができるようになった。

重りを外した瞬間の体の軽さが心地よく、足運びも格段に良くなった気がする。


付き人のような仕事も、存外無駄ではなかった。

食事処と宿の確保や、金の支払いを任された事で、店の相場や物価も把握できるように。

加えて、現地人とのコミュニケーションも捗るようになり、街の事情にも精通するようになった。

一番良かったのは、クサバミが字を教えてくれるようになり、簡単な文章くらいなら読めるようになったことだ。

リナリア語は文法が英語に近く、海外のゲームスレばかり見ていた俺にはそこまで難しくなかった。


それに連なって、いくつか分かったことがある。

この世界はリナリア大陸という非常に大きな大陸が舞台で、いくつもの国がひしめいているそうだ。

ここ、キアリカがあるのはアルメイヴ王国で、王都セリオーンを首都に持つ。

農業が盛んで食料自給率が高く、それ故兵士も屈強なんだとか。


もう一つは、七大神についてだ。

この世界の宗教は、様々な用途で様々な神を崇拝する「多神教」である。


「豊穣」と「庇護」の神キナリス。通名の通り、最も信仰が厚く、愛されている神らしい。聖母ってイメージだ。


「元素」と「探求」の神レンダ。元素魔法を授かる為に神殿に行ったよな。その他に、学者関連の人間はこの神を崇拝してる事が多いそうだ。


「夜」と「葬儀」の神サバス。パッと見は不穏だが、静かな夜を見守る良い神で、死者の魂を導く神としても知られている。


「商人」と「計略」の神ホンゲン。商売を生業にしている者にはおなじみなんだとか。エビス様みたいなものか。


「武」と「勝利」の神トバイアス。男に人気の力強い神。戦争とか決闘とかする時はこの神に祈るそうだ。


「愛」と「芸術」の神ヴァルミロ。家族とか友情を守り、結婚式なんかで祈られる。また、芸達者であったと言い伝えられていて、吟遊詩人や工芸師に愛されているらしい。


最後に、「混沌」「運命」の神フェイン。歴史をたどっても謎が多く、伝承や神話もほとんど残っていないそうだ。

いつしか運命を司るなんて言われ始め、預言者やギャンブラーに愛される様になったとのこと。

知っての通り”落とし子”に関連してるみたいなんだが、具体的な目的とか理由はわかっていない。

この神を独自に進行する教団なんかもいるらしいので、近々調べてみようと思う。



とまあそんな感じで、この世界について多少は理解が深まった、気がする。


クサバミは、全部見越して俺にあれこれやらせてたんだろうか。

きっとそうなのだろう。大した人だ。なんで銅級なんだ?


しかし、未だクサバミから新たな訓練メニューはもらえていない。


やはり、まだ実力不足なのだろうか。

仕方がない、不貞腐れてはいられない。

リオラとは話し合って、修行期間を二ヶ月と決めていた。

期間はまもなく半分を切ってしまうので、気を引き締めねば。



そんな事を考えていると、用事に出ていたクサバミが空き地に帰ってきた。

クサバミは何かの紙を丸めて持っており、どこか物々しい様子だった。

「おっさん、どこ言ってたんだ?」

「おう、実はお前にふたつほど話があってな」


そう言うと彼は、持っていた紙を広げ、差し出してきた。


「黎武祭……冒険者だけの、ルーキー対抗戦?」

「ああ。年に一度開催される武闘大会だ。デビューして間もない冒険者だけが参加できてな」


武闘大会か。確かに面白そうだけど、まだ実力不足だしな。

うーん、出てもいいけど、あまり気は乗らないかな。


「この大会が、どうしたんだ?」

「いやな……知り合いの弟子がこの大会に出るらしくてな、手前んトコの弟子も出せってどーもうるさくてよ」

「はぁ……代理戦争じゃねえんだから、巻き込まないでくれよ」

「まぁ俺も断ろうとは思ってんだけどよ。そいつの弟子がお前の仲間の女だって話で……」

「出ます!」


即答だった。そりゃあ、リオラが出るなら話は別だ。

あいつに成長した姿を見せてやりたいし、欲を言えば一泡吹かせたい。


クサバミは少したじろいだ様子で続ける。


「お、おお、まあ出るなら出るでいいんだけどよ。やるからには本気だぜ?」

「押忍!」

「……相当その女と()りてェみたいだな。まぁ、申請はしといてやる。開催日はちょうど一ヶ月後だな」


修行の期間ともピッタリだし、成果の見せ所って感じだな。


「で、二つ目の話だが。訓練のメニューを増やすぞ」

「うおおお!ついにか!」

「流石にそろそろな。今後は従来のメニューに加え、俺との模擬戦をする」

「マジで!?型とか打ち込み稽古とかやらないの?」

「型はいらん。お前が思う一番の動きを自分で考えろ。敵との間合いや足の動かし方、全部この模擬戦で学んでもらう。なにしろ時間がねェからな」

 

そう告げたクサバミも、どこか上機嫌で張り切っている様に見えた。

よほどその知り合いとも仲がいいのだろう。

というか、リオラの講師だから崩拳のアイリーンか。世界は意外と狭いものだ。


「素振りは終わってるみてェだな。じゃ、早速やるか」


クサバミがコートを脱いで、木剣を手に取った。

どうやら手加減するつもりはない様だ。

俺も立ち上がり、木剣を握り直す。


打倒、リオラ。

修行はまだ、はじまったばかりだ。



この後、リオラの訓練メニューが何故か3倍になった

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