助けを求める声2
「ひとまず……スルーかな」
「そうですね。ちょっと怖いですもんね」
本当ならそれはそれで問題で、警察にでも任せるようなことだ。
仮に嘘なら弟がさらわれたなんて結構ひどい嘘である。
「後片付け終わりました」
「あっ、分かりました。じゃあ解散にしましょう」
生配信のためには電波をゲートの内外に繋げる装置を設置する必要がある。
将来的にはもっと小型、簡易的になるのだけど、今はまだ研究所の研究者たちが来て設置してくれる形となっている。
流石にケンゴはいないけれど、スケジュールが合えば見に来ることもあった。
亜空間魔法の収納袋を手に入れたマサキたちの帰りの準備は遥かに楽になった。
モンスターの運搬の手間がほとんどなくなったので、あとは着替えて帰るだけなのだ。
装置の方はちゃんとしまって片付ける必要があったから、そちらの作業待ちだった。
「運転しますよ」
「そう? じゃあお願い」
マサキはダイチに車の鍵を渡す。
ダイチが運転席、マサキが助手席、レイとイリーシャが後ろに乗り込む。
「……うわっ、なんだこれ?」
「どしたの?」
スマホを見ていたマサキが顔をしかめる。
イリーシャが何事かと後ろから覗き込む。
「生配信に大量コメントしてたさおりんっての、他の動画にも同じコメント残してる」
生配信だけでなく、撮影した動画の配信も残っている。
投げ銭はできないものの、コメントを残すことはできる。
そんな動画にも片っ端から生配信でのコメントと同じものが書き込まれているのだ。
「あっ、アカウントバンされたようだな」
どうしたものかと思っていたら、ユーザー名の横に退会済みと赤字で表示されるようになった。
いきなり退会したとは考えにくい。
となれば、大量にコメントをしたせいで動画サイトの方から処分されてしまったのだろうとマサキは思った。
どうしたらいいのか悩み始めていたので、素早い対処はありがたかった。
「ふぁん?」
「ファン……まあ、そういうこともできるかな?」
「どちらかといえば厄介なストーカーって感じですかね?」
「まあ、そうだな」
動画を見ていた時には感心していた。
少ないヒントを見逃さず、上手く予想を組み立てるものだと思っていたのである。
それなのにこんな迷惑行為まがいの方法に出るだなんて、ちょっとガッカリだ。
しかしアカウントが削除されてしまったのならもうこんなコメントはこない。
厄介な人に目をつけられたのかもしれないと、マサキは小さくため息をついてスマホをポケットにしまった。
ーーーーー
「おおっとぉ?」
次の日、ゆっくりと昼まで寝たマサキは、ベッドに寝転がって寝ぼけながらスマホを確認していた。
昨日のことがあったので、何気なく配信についているコメントを見た。
「あいつ……」
一気に目が覚めた。
今でも古い動画にコメントがつくことはある。
しかし今回は全ての動画に複数のコメントがついている。
「さおりん、だな……」
同じ文面のコメントはユーザー名が違っていても誰のものなのかすぐに分かった。
さおりんのコメントだ。
フェネストラの利用には電話番号が必要となる。
そのために他のアカウントを作る手間が非常に大きい。
大量にコメントしてアカウント削除を何回か繰り返している。
一度削除になったアカウントの電話番号は使えないはずで、そうなると新しい番号を手に入れる必要がある。
軽く見た感じでは、新しく三つほどのアカウントを作ってコメントをしていた。
「わざわざスマホでも契約したのか?」
マサキは渋い顔をする。
最後のアカウントまでバンされてそれ以降コメントはついていないが、コメントまで削除はしてくれていなくてたくさんの同じ文言が並んでいた。
「…………本当に緊急なのか?」
気を引きたいにしてはやりすぎだ。
こんなことをすればマサキたちが引いてしまうことなど普通なら理解できるだろう。
他の電話番号まで入手して残すコメントがこれなのも、なんだかおかしく思えてきた。
もしかしたら本当に助けてほしくてコメントを残している可能性があるのかもしれない。
「…………試しに連絡してみるか」
ここまでしてただ正体を知りたいというだけなら、それはそれで熱意を感じる。
だがここまでするほどの危機的な状況だったとしたら、無視して何かが起きたらちょっと責任は感じてしまいそう。
マサキは普段使っているのとは違う捨てメールアドレスを使って、コメントに残されていたメールアドレスに連絡を入れてみた。
切羽詰まっているのなら何かの反応がすぐにあるはずだ。
「ん……」
マサキは立ち上がって体を伸ばす。
「おはよ」
「おはよう」
リビングに行くとイリーシャは先に起きていた。
「コーヒーいる?」
「ああ、もらうよ」
なし崩し的に始まったイリーシャとの共同生活もだいぶ慣れてきたものだ。
最初は洗濯機の使い方もわからなかったイリーシャも、家事が少しずつできるようになってきた。
最近では料理にもチャレンジしているし、コーヒーを淹れるのは意外と上手い。
「もう昼か……イリーシャはなんか食べたのか?」
「ううん、マサキのこと待ってた」
「別に待つこともないんだけど……なんか食べに行くか」
「ん、ハンバーグ食べたい」
「分かった。ダイチも誘ってみるか」
「ううん、二人で行こ」
「……分かった。そうしようか」
最近は自分の意見もはっきり言うようになってきた。
無表情なことに大きな変化はないが、よく見ると笑っていたりもする。




