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地下迷宮ひとり歩き  作者: 夜朝


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8/60

7.地上 〜迷宮入口にて〜

一階の魔物だと察したナイラは

木陰に身を潜めて自分は植物だと

自身に言い聞かせた


それが彼女にとって一番かんたんな

気配を消す方法なのだ


しばらくすると片目に傷跡がある

淡い桜色のうさぎが迷宮の中から出てきた

まだ一階の半分ほどしか知らないナイラには

それが迷宮の外で出会うのが珍しい魔物なのか

それともよく出没するものなのかどうかが分からない


うさぎは左右を確認すると迷宮入り口の横にある

枯れ木のうろに入っていった


後ろ姿がかわいい


そう思って和んでいたナイラだが

ヤムはかたい表情を崩さなかった


それだけではない


彼は気配を消したまま立ち上がり

うろに近付こうとしたのだ


それをナイラは彼の手首に触れて止めた

首を左右に振って意思表示をする


彼女のそばに身を屈めたヤムは険しい顔をして

相手の小さい顔を指差す


娘はなおも首を振った


そうこうするうちにうさぎがまた出てきて

ひょこんひょこんと迷宮の中へ戻っていった


ヤムが憤まんやる方ない様子で

ナイラに食ってかかる


「なんで邪魔すんだよ!

 あのシーフラビットの耳の毛皮

 むちゃくちゃ高く売れるんだぞ!」


「何ひどいこと言ってんですか!

 だから止めたんですよ!

 うさぎから耳を取ったら

 死んじゃうじゃないですか!」


「死んだら食うじゃねえか!

 おまえだって食堂で

 うさぎの肉が出たら食うだろ?」


ナイラが所属している

命の精霊殿では

肉食は制限されていない


彼女は鶏肉の次に

うさぎの肉が好きなのだった


なので一瞬

言葉に詰まる


「うっ……で

 でも

 ──でも! 食べるためと売るためとじゃ

 意味が違うじゃないですか!」


次に言葉に詰まったのは

ヤムの方だった

一理あると思ったのだろう

彼は頬をぽりぽりかいて

気まずそうに答える


「ん……まあどっちでも良いんだよ

 息の根止める時にゃ

 感謝の言葉を唱えるんだからな」


「ちょっとヤムさんっ

 殺すのは絶対ダメですよ」


身振りも加えて『絶対』に

めいっぱいの力をこめた

ナイラを見てヤムも声を張る


「なんでだよ!

 高値で売れる素材をみすみす見送るなんざ

 商人の風上にもおけねえぞ!?」


「嫌なんです!

 私は命の精霊に

 不戦の誓いを立てています!

 ──いいえ

 もしそれがなかったとしても

 たとえ誰が相手であっても

 戦うことも命を取ることも

 したくないんです!

 私と一緒にいる間は

 ヤムさんにもやらせませんからね!」


同行者が魔物狩りに積極的だったら

一体何のためにパーティを抜けてきたのか

意味が分からない


ナイラは下から睨み上げて

ヤムをびしっと指さした


面倒くさそうに

後頭部をかいてから

両手を腰に当てて

ヤムが言う


「あー……なんか

 そんなこと言ってたな

 ……じゃあ同行は2階までだな」


「う

 ……分かりました

 でも最初の約束は守ってくださいよ?

 ちゃんと単独行ができるようになるまでは

 面倒みてください」


「分かってるよ

 商売人にとって契約の履行は絶対だ

 そこは心配要らねえ

 ──ついてこい

 迷宮にもぐる前に

 ひと仕事あるぞ」


「はい

 何ですか?」


先ほどまで険悪なムードが漂っていたのが嘘のように

二人とも平常心に戻っている


そしてヤムは先ほどうさぎが出てきたうろに近寄った

太い腕を穴へ突っ込んで何かを取り出したその手は

枯葉や腐葉土にまみれている


彼が汚れを払って手に握っているものを見せてくれた

ナイラは怪訝そうにそれを覗き込み──目を丸くする


「え

 千銀貨? それもいくつも?」


「なかなかやるな」


「ヤムさん他には?

 他にもあるんですか」


「よし待て待て」


乗りに乗ったナイラが食いついてくるのに

気をよくしたヤムだ

何度かかき分けてお宝を物色する


その中に黒塗りの鍵が数本あった

そっくり同じものが何本もあるのなら

迷宮の攻略用の道具(アイテム)である可能性が高い


噂ではこの迷宮では攻略に必要な道具は

探索者の数だけ生まれてくると言う


「あのうさぎが盗ってきたもんで

 間違いねえな」


「ヤムさんは知ってるんでしょう?

 その鍵についてのあれやこれや」


「というと?」


「どこで入手できるのかとか

 いつ使うものなのかとか

 でも知ってても言わないでくださいね

 ネタバレは探索者に対して失礼なんですから」


「はー

 そりゃおまえ

 めんどくさいやつだな

 ま 良いけど」


それなら道具は持っていかないのかと聞かれて

一応やめておくと答えた


「迷宮の外で手に入れるなんて邪道ですよ

 でもどうしても手に入らなかったら

 その時はここに来ます」


ヤムさんこそ

銀貨とか要らないんですか?


そう聞くと彼は片方の口角を上げた

その手には先ほどの銀貨が一枚だけ握られていた


「一枚だけな

 あまりたくさん取るとうさぎに勘付かれて

 貯蔵庫を他所に移されることも有り得る」


ヤムは残りのお宝をうろにしまい直して

枯葉や土を被せてカムフラージュすると

さて

と一言もらして立ち上がった


それを追いかけてナイラも腰を上げる


まずはヤムが石段を数段降りて

明かり取りの道具を持ち出し光を灯す

それは小ぶりなランタンのようなもので

腰にぶら下げられるようになっている


それまでヤムの腰から下は

闇に呑まれて見えなかったが

光が生まれたことで

階段の最下段まで見えるようになった


ナイラも光石が頭に付いた小さな棒に

魔力を込めて灯りにしてからヤムに続いた


「光が強すぎるな嬢ちゃん

 それじゃモンスターを引き寄せちまうぞ」


「うそ!?

 ……どっ

 どのくらいまでなら大丈夫ですか?

 あんまり暗いと怖くて」


「ははあ

 今までは積極的に呼び寄せて

 経験値稼ぎしてたな

 罪なパーティだぜ」


「──うん

 そう……

 だから一緒にいられなくなったんです」


少し彼女の声のトーンが落ちた


ヤムはパンパンと胸の前で両手を叩き合わせた後

うつむいている彼女の背中を

ばんっと叩いた


わ

と反射でもらす声からは

もう暗い気配は消えていた


「いいじゃねえか

 気の合わねえパーティから足を洗って

 おかげでおれさまに同行できるようになった」


「自己肯定感

 高っ」


褒めたわけではないのだがヤムが胸を張る

何だか大男がますます大きく見えて

それが頼もしさに変わって

ナイラも思わず笑ってしまった


うん

そうだ

これが良い


彼女は光の杖を手に光量を調節して

地下迷宮の一階に降り立った

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― 新着の感想 ―
改稿おつかれさまです! 4.から次の8.まで改めて読ませていただきました。ナイラが戦士たちのパーティから出て、自分の信念で歩み出す大事な場面ですね。改めて読ませていただき、会話のやりとりや描写に引きこ…
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