3.三階 〜ニワトリとワニとエレベーター〜
改稿中につき変なとこは教えていただけるとありがたいです。
■地下迷宮 三階 ナイラ 治癒術師Lv3 商人Lv2
探索者一行を見送った彼女は
ウサギとも別れて
一度その場に落ち着くと
長衣の腰ポケットから
地図を取り出した
共有マップだ
この迷宮を攻略している
他の探索者たちと
情報を共有できる魔道具
彼女はなるべく音を立てないように
注意しながら地図を広げた
現在地の上に
小さな赤い三角が浮かんでいる
それによると彼女の次の目的地は
この通路の突き当たりを
右に曲がってすぐの扉の中
迷宮に入ってから初めて出会う
人語を解するモンスターがいる部屋、らしい
──彼女はもう
『人語を解する』相手には
出会っているが──
きっと彼は
攻略情報にカウントされる
魔物ではなく
ナイラと同じソリストだったのだろう
登場と去り際の様子は
何だか魔物っぽかったが
きっと
ドロップアウトではなく
自分と同じ──
* * *
思い出すのは闇の中
この地下迷宮で
光の届かない個所は
常に漆黒の闇に包まれている
その闇から
彼は
現れたり
消えたりしていたのだ
* * *
ナイラはいつしか
うつむいていた顔を
意識して持ち上げた
床に落ちていた視線を
地図の上に戻す
そして口を一文字に結んだ
今はまだ探索あるのみだ
この辺りはまだ
階層が浅いので
先達の探索者たちが地図に残した
この迷宮の攻略情報が
前もって詳細を
後進に教えてくれるのだ
ただ
情報はものによっては
実際にこの目で見るまで
何のことだか分からない
謎の予言めいたものもある
例えば
『古びたカゴで上下半分泣き別れ』とか
『極彩色に石化あり』などだ
ともあれ
ここは先に進むことにする
攻略情報によると
明るい三階の中で
そこだけ真っ暗な部屋の中
そこにいるのは
まるまる太った
金色のニワトリ
観音開きの扉の
右側を開けると
鳥は
大きな声で鳴き
徘徊しているモンスターを
集めてしまう
そのため
経験値と金を稼ぎたいなら右
戦闘を回避するなら左だと
細かい気配りの
記載が続く
他にも色々と書いてあった
その内容を熟読した後
彼女はまず
地図に書いていないことから
やってみた
すなわち
ノック三回からの
あいさつ
「ごめんください」
「入りなさイ」
すると
ナイラが触る前から
扉が
右左両方とも開いた
「…………!!」
無言ながら口を叫びの形に開けて
真っ青になったナイラだったが
ニワトリは特に鳴かなかった
部屋の中も
今は
扉の外と同様に
明るい
「用件を聞こうカ」
ノックひとつで
こんなに状況が変わるのか
気を取り直した彼女は
感心しながら部屋に入った
そしてニワトリに答える
「四階へ降りたいんです
エレベーターを
動かすトークンを
私に売っていただけませんか?」
「いくつ入用かナ」
「ひとまず一ダースで
けっこうです」
ニワトリが
止まり木から床へ
降り立つ
そして飛ばずに
ナイラのいる方へ向かって
ちょいちょいと
跳ねるようにして歩いてくる
彼女の目の前で
立ち止まった鳥が
体を揺すると
どこから出てくるのか
その羽根と同じ金色の
円形のトークンが
コロリコロリと
転がり落ちて
床に貯まった
「持っていきなさイ」
「おいくらですか?」
「初回サービスで無料ダ」
値段は
持ち主の機嫌によって
変動すると
攻略情報にはあったが
高い時だと
トークン一枚で
万金貨一枚を
要求されるという
本当に良いのかと
問うたが
構わぬと言うので
手持ちの
食べるタイプの傷薬と
交換させてもらった
「思いがけず良い物をもらったな
礼になるか分からぬが
──オヌシ、
エレベーターの前にいる
あのワニには勝てるカ」
「いえ、無理です
時々いなくなる時があるので
それを狙うか
もしくは
眠り薬を使うかで
考えてます」
「ふむ。そこだ
あのワニはな
常駐タイプの魔物と
考えられておるが
実は徘徊型のものだ
ゆえにワシの鳴き声で
ここに集めることができる
オヌシと
タイミングを
合わせてやろうカ?」
「本当ですか!?
それはすごく
助かります」
よしよしと言いながら
何度も頷くニワトリは
何となく微笑んでいるように感じられた
それに返す笑顔を向けて
彼女は深々と
頭を下げた
打ち合わせを済ませてから
部屋を出ると
地図で読める範囲内で
最短のルートを通って
エレベーターへと向かう
二回ほど隠れて
他の魔物を
やり過ごしてから
ワニのいる場所へ
深い緑色のワニは
いつも顔をエレベーターに向けて
腹這いになっている
それが起きている時は
尻尾をゆらゆら揺らしているので
遠くからでもよく分かるのだが──
今は、起きている
打ち合わせ通り
隠れなければ
辺りを見回すと
ここから十五歩ほど
ワニに近付いたところに
隠れられそうな
横道があるのを見付けた
抜き足差し足で
近付いていく間
徐々に全貌が明らかになるワニに
気付かれないようにと祈りながら
残り数歩
百戦錬磨と思しきワニは
背中や尻尾に古い刀傷の跡が
いくつもあった
リズミカルに揺らしている尻尾に
まとわりついている苔が
左右にまき散らかされている
もう少し……というところで
遠くからニワトリの
鳴き声が聞こえてきた
「えええええええええええ」
驚愕の表情で動きを止めた
ナイラの視線と
ニワトリ部屋がある方向へ向き直った
ワニのそれとがぶつかる
ぱくぱくと口を開閉して
酸素を吸うナイラ
びっしり生えた鋭い牙を
舌先で舐めずるワニ
一瞬の沈黙の後
一人と一匹は
同時に
ニワトリ部屋がある方向へ
駆け出した
「いやあああああ!
早い早いですよ
ニワトリさんっ!!」
尻尾が床を叩くバタバタという音が
急速に近付いてくる
すぐ真後ろに大きな生き物の気配
後頭部に生温かい吐息が当たる
もう駄目だ
頭から齧られる
(そして私の探索はここで終わり……)
──そう考えた時だった
「へぎゅっ」
膝裏をワニに踏まれて
床に突っ伏すナイラ
彼女を全身で踏ん付けて
ワニはバタバタと走り去ってしまった
後に取り残されたナイラは
ぴくぴくと床の上で
けいれんすること数秒
その後
去り行くワニの後ろ姿を
呆然と見つめて
やがて
親指を立て
言った
「け……結果オーライ……!」
■地下迷宮 三階 黄金ニワトリ モンスターLv5
「こっかどぅーどぅーどぅー!」
煌々と輝く室内で
止まり木に乗って
誇らしげに鳴くニワトリは
黄金色の翼をバサバサと羽ばたかせた
どうだ!
とばかりに胸を張る
その仕草は
我ながら良い仕事をしたぞとでも
言っているかのよう
開かれた扉の前に
わらわらと集まってくるモンスターたちは
しばらくの間
どこに始末すべき探索者がいるのかと
視線をさまよわせ探していたが
やがて
何だ呼ばれただけか
と見切りをつけて
それぞれ思い思いの場所へ
散っていくのだった
■地下迷宮 三階→四階 ナイラ 治癒術師Lv3 商人Lv2
ワニの巨体に踏み付けられた
その際のダメージを魔法で回復した後
ナイラは誰もいなくなった
エレベーター乗り場に
足を踏み入れた
金属製のエレベーターは
所々に錆が付いており
立つとギシギシ音が鳴る
その中は
やけに黒っぽい液体で汚れていた
その箱状の下半分は
金属で編まれた籠が囲っている
上半分は
金属の棒が四隅に立っているだけで
後はスカスカだ
トークンを入れるところは
でかでかと赤い矢印が描かれているので
すぐに分かった
一枚入れて下向きのボタンを押す
特に床上に顕著な
その汚れが気になったナイラは
籠が動いている間
その中に屈み込んで
汚れをじっと見つめていた
と、頭上で風圧を感じる
屈んだままで目線を上にやると
大きな鎌がゆっくりと
壁面に収納されていくところだった
それを見て
血がざあっと引いていく心地がした
この汚れは
これは──
(先人の血、なんだ……)
その時
ようやく彼女の中で
ひとつの言葉が現実と結びついた
いわく
『古びたカゴで上下半分泣き別れ』
このことか
たとえ意味不明なヒントであっても
忘れないようにしなくては──
ナイラは改めて
自身に言い聞かせるのだった
ガコォォン……!!
暗闇にのみ込まれて
エレベーターが
止まった
新しく挿入したエピソードその2です。
こちらも基本的には少し付け足して順番を変えただけになります。
文章力はあるが構成力が弱いとアドバイスされたのでそこを意識してみたらこうなりました。
構成って難しいですね…。
でも二話以降もがんばります。




