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地下迷宮ひとり歩き  作者: 夜朝


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3/60

2.三階 〜回想と探索者とシーフラビット〜

改稿中にて変なとこは教えていただけるとありがたいです。

■地下迷宮 三階 ナイラ 治癒術師Lv3 商人Lv2


真紅のリボンで纏めた

腰まである長い黒髪に

真白い長衣

更に

小柄な体格には見合わぬ

大きな荷物を

背に負っているのが

ナイラの基本的な探索スタイル


水精の影響を受けて

壁と同じくらい

しっとりしている髪は

少し重たげに横に垂らして

艶光る様子が美しい


彼女は

卵形の輪郭に大きな目が印象的な

地下迷宮には不釣り合いな

愛らしい顔立ちをしていた


十ブロックほど進んだろうか

だいぶ安心感が増してきたようで

口元に笑みを浮かべ

彼女は一度振り向いた


時々はこうして

良からぬ相手が近くまで来てないか

確かめないといけない


魔物の接近を報せる魔法も

使えはするのだが

まだ魔力が育ち切っていないナイラでは

長時間の使用は厳しい

そのため四階についてから

使うつもりだった


しかし

もしかしたら

近くまで来ていないか

確かめたい相手は

徘徊型のモンスターだけでは

なかったのかもしれない


彼女の脳裏に思い浮かぶのは

端正な顔立ちの青年だった


迷宮の闇に沈む小麦色の肌

低い声


一度思い出すと

あれこれと湧いてくる感情


次に会えるのは


いつ?


だなんて


心捕らわれている場合ではない


彼女は首を左右に振ると

用心に用心を重ね

床を踏んだ


その靴は

底がゴムに近い素材で出来ており

かなり重いのだが

足音が立たないのが利点だ


敏捷性よりも

モンスターとの

エンカウント率の低下をとって

三階までは何とかなっている


しかし

四階以降では

できれば

身軽になっておきたい


単独行動のコツを教えてくれた

商人クラスの師匠が

ナイラに語ったことだ


『モンスターと会わずに済ませられるのは

 まあ大体三階までだな』


『四階からは駄目なんですか?』


『四階から下のモンスターは

 幹部以外は縄張り意識が希薄でな

 行けるところはどこでも行こうとする

 だから行動範囲が広くて

 探索者にも会いやすくなるんだ」


『……なるべく早く

 浮遊の羽根を

 手に入れるようにします』


浮遊の羽根は

靴に装着すると

床上一センチの高さを

浮かんで歩けるようになる魔道具


本来の用途は

落とし穴等の罠避けだが

足音が一切立たなくなる

盗賊御用達のアイテムでもある


地上でも売ってるから

買うと良い


師匠はナイラにそう言った


紺色の髪に青い瞳

恰幅の良い大男だった


商売道具を山と携行し

魔法の財布を

地上の倉と繋げて

貨幣を出したり入れたりしていた

その様子が懐かしい


面倒見の良い師匠だったが

ソリストになると決めた時から

いつかは来ると分かっていた

別れの時は

三階に到着してから

すぐに訪れた


『戦闘スキルはあえて磨かなかった

 回復技能は

 薬の品ぞろえも

 魔法の扱いも申し分ない

 後は運だな

 健闘を祈ってるぞ』


また会える日を楽しみにしている


そう告げた師匠は

軽く手を挙げて

ナイラと別れた


それからというもの

一人になったナイラは

曲がり角を曲がる度に

こっそりと

向こう側を覗いて


誰もいないことを確認してから

先へ進む


そんな慎重すぎるほど

慎重な探索を続けているのだった


三階の

湿気って重たく感じられる空気が

胸を圧迫する


深く呼吸して

気を取り直す


まだソロは始まったばかりだ──


 * * *


さて

そんな彼女が

しばらく進むと

前方に

小さな動物が座って

震えているのが見えた


ジャンプ力のありそうな太めの足


今にも根本から千切れ落ちそうな

長い耳


血らしき赤い液体にまみれた全身は

ウサギに似ている


真ん丸い目は赤く

まるで泣いているかのよう


左のまぶたに傷跡がある

その獣に

彼女は

見覚えがあった


側に片膝をついて

話しかける


「どうしたの

 また探索者にやられたの?」


ナイラが聞いても

言葉は返ってこないが

ひとつ頷くのを見た彼女は

いつものように

魔物を治療することにした


精霊の誓いのこともあるが

治癒魔法を使えば

それだけ経験になる

そうやってレベルを稼いでいるのだ


自分のためにも

相手のためにもなる

一石二鳥の

地下迷宮攻略方法だった


傷口に左手の平をかざし

右手の人差し指を天へ向ける


彼女は呪文を唱え始めた


「天に住まう

 光の導き手に

 お願い申し上げます……」


一番効力の弱い魔法でも

この程度の傷なら充分


そう考えて発動させる


魔法を使うと灯る光は

周囲の壁の明かりにまぎれて

目立たなかった


ウサギに似た動物は

魔法光が収まると

元通りにくっ付いた耳を

ピンと立たせてジャンプ一番


クルリと宙返りしてみせてから

どこかへ去っていった


後に残されたのは

ウサギの血の跡と

金貨が数枚


うまくいってホッとしたナイラは

金貨を回収した後

床に着いていた膝の汚れを

払い除けてから

また歩き始めた


と、さっきのウサギが

全速力で駆け戻ってくるではないか


見れば探索者たちに追われている


彼らは口々に

「ドロボー!」だの

「カギ返せ!」だのと

騒いでいた


ナイラはスピードを落としたウサギと

並走しながら言う


「こらまた!

 盗みはダメよ

 返してらっしゃい!」


あちこち曲がった先は

行き止まりだった


肩で息をしながら

背後からやって来た探索者たちに

降参の意味で

広げた両手をあげてみせる


と、革鎧を着て

剣を構えた男が

不穏な空気を漂わせながら

言ってきた


「あんたか、

 盗みを命令したのは……」


「し、知らない知らない

 濡れ衣ですよ!

 私はこの子の怪我を治しただけ!

 本当ですよ!!」


「仲間でもないモンスターを

 わざわざ治療するのは怪しいわ

 もしかしたら

 そいつ

 ドロップアウトなんじゃないの?」


「ちゃんと定期的に

 地上に戻ってます!

 魔物化した人間のモンスターじゃ

 ありません!」


このやり取りが面倒で

探索者のパーティからも

身を隠しているのだ


彼女はウサギが持っていた

一階と二階を

行き来するための鍵を

探索者から言われた通り

彼らに返した


去り際

これから地上に戻る予定だが

一緒に来ないかと

同行を勧められた


これもまた

いつものことだ


彼らの目に

自分はよほど

頼りなく映るのだろう


礼とともに

丁重に断りを入れる


今回は四階まで

行ってみるつもりなのだと

新しく挿入したエピソードですが元の内容に少し付け足したり順番を入れ替えたりしただけになります。

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