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地下迷宮ひとり歩き  作者: 夜朝


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23/60

22.五階 〜白虎は無口なお姉さん〜

■地下迷宮 五階 ナイラ 治癒術師Lv4 商人Lv2


「そう……」


その時ナイラはふと違和感を覚えた

白虎はあんまり嬉しくなさそうだ

その口調がじっとりしめっぽい


その湿度を吹き消そうとするかに

ナイラはからりと

晴れやかな口調で言う


「あ! でも

 白虎様の貴重なお時間を頂戴できるなら

 ちょっとおしゃべりに

 お付き合いいただけると

 すんごくうれしいです」


「そう?

 こちらは構わないわ」


先ほどより安堵の色が濃い声音で

そう返してくる白虎だ

何だか嬉しそうである


どうやら白虎は

迷宮攻略とは無関係なところで

ただのおしゃべりを楽しみたかったらしい


四神はそんな相手に飢えているのか

揃いも揃って──


ナイラにはそれが不思議に思えた


どうも四神たちは

思念波を飛ばして

互いに情報交換ができる様子だ


滅多に来ない探索者を

待ち構えなくても

話相手なら自分たちで

事足りるのではないだろうか


しかも大抵の探索者は

この階の謎を解くのに必死で

ヒント以外の話など聞いてもいないような

そんなものが多いのではないか


しかし何となく

その辺りのことを

ずばっと聞きづらい雰囲気が

目の前の神獣からは漂っていた


麒麟や青龍になら

「話し相手が欲しいのか」

なんて気楽に聞けたのだが──


声からして白虎は

沈みやすい気質の女性のようだし

不用意な発言で傷付けてはいけない


ナイラは喉まで出かかった疑問を

飲み込むことにした


すると何の前触れもなく

急に白虎が語り出す


それは謎の手がかりだった


「──『めぐりめぐる円の中

 人には始まりを知らせ

 鳥には終わりを告げる』」


「え?

 あ

 わ

 お待ちください

 メモメモ!」


ナイラは結局二回繰り返してもらって

ようやくメモを取れた


それからは

女子トークとなったが

白虎は正直なところ

会話のキャッチボールが

しづらい相手であった


「白虎様の毛並み

 すごくお綺麗ですよね

 どんなお手入れしてるんですか?」


「舐めてるの」


「白虎様って酸っぱいものの他には

 何かお好きなものあるんですか?」


「昼寝……とか」


しかしナイラはくじけない

こぼれ落ちそうになる言葉を

拾い上げて何とか話を続けようとする


「あれ

 そしたら普段は夜行性なんです?

 起こしちゃって申し訳ない」


「ううん

 夜は夜で寝てる……

 でも昼寝も好き」


「私も昼寝は好きですよ

 ひなたぼっこ兼ねて

 でもここじゃできないか

 白虎様

 ここにくる前は

 どんなところにいたんですか?」


「そうね……ここに来る前は

 生まれ故郷にいたの

 岩山よ」


だいぶ会話になってきたと思って

ナイラは嬉しかった

相槌を打ちながら

次は何を聞こうかと

頭を回転させていく


しかしそんな

ぎこちないやり取りの終わりは

突然やってきた


白虎がしたのは

それはそれは大きな

あくびだった


「ふああぁ……

 眠くなってきたわ」


そんなにつまらない話に

付き合わせてしまったかと

内心でショックだったナイラは

白虎の続きの言葉に安堵した


「何か食べると

 必ず眠くなるのよね

 そちらもそろそろ

 出立の刻限ではないかしら」


「白虎様

 眠くなるの分かってて

 私の献上品

 食べてくださったんですか」


「もちろん

 可愛らしい手で

 可愛らしいものを差し出されて

 断ったりできないわ」


また大きなあくびをひとつ


何だか上半身を丸飲みされそうな

大口を見てナイラはどきどきする

胸を押さえた


「さあ

 もうお行きなさい

 話し相手になってくれてありがとう

 久方ぶりに楽しかったわ」


「はい

 こちらこそ

 ありがとうございました」


辞儀ひとつ落として

その場を立ち去ったナイラだ


その後

まるで大地震の前触れの地響きのように

ごごご……という音と振動が

白虎のいる西側エリアに

響き渡っていたりした


 * * *


四神の最後は

北を守っている玄武だ


北へ向かうと迷宮の中なのに

ちょっと小ぶりな丘があった


それを登って降って

北の端までたどり着いたのだが

誰の姿も見えない


   * * *


「──ようやく来たな」


彼のひそめた独り言は

ナイラの耳に届くことはなく

よって彼女が振り向くこともなかった


   * * *


ナイラは麒麟から

玄武の姿は

とりあえず亀だと聞いていた


だが亀どころか

甲羅も見当たらない


出かけているのだろうかと

北エリアで待つことにした


丘のてっぺんでキューブをふくらませて

座った足をぶらぶらとさせる


何もすることがなくて

茶が入っている水筒を傾けた


懐中時計の長針が半周するまで

そのまま待ってみたのだが

動くものの訪れはない


退屈で退屈で

ナイラは四神たちの気持ちが

ほんの少しだけ

分かったような気がした


誰か話し相手が欲しかった

今は誰もいない

この目の前に


「あーあ

 玄武様

 何やってんだろ

 早く帰ってくれば良いのにっ」


立ち上がってぼやく

その手から水筒が転がり落ちた

フタも開いたままだ


慌てて拾いに行くが

丘の上なので

ふもとまで転がり落ちてしまう


「あ〜もう」


「無礼者!」


拾い上げた水筒のフタを閉めていると

どこからか年嵩の女性の怒り声が聞こえてきた


ナイラはきょろきょろと辺りを見回すが

声の主は姿を見せない

──と思ったが

違った


声の主は

丘そのものだったのだ


すぐ隣にある丘が

徐々にせり上がっていく

やがてそれは四本の足と蛇の尾を持つ

巨大な亀の姿をとった


「──!!!!」


すぐには言葉も発せないナイラである


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