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地下迷宮ひとり歩き  作者: 夜朝


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21/60

20.五階 〜朱雀は世話焼きらしい〜

■地下迷宮 五階 ナイラ 治癒術師Lv4 商人Lv2


今までも探索者には

言われたことがある

その台詞を

魔物から言われたのは

初めてで

ナイラは小さくうめいた


「う……そんなこと」


言われる筋合いはない

そう告げたかったのだが

思い止まった


『安全に』


ナイラは

心配されているのだ


声質としては

中年と言うにはやや若い

男性の声


厚みのある胸と翼

孔雀のような尾羽

鋭いくちばしは短めで

そのどれもが

金色の光沢を持つ朱色に輝いている


何だか見た目の神々しさがなければ

ご近所の世話焼き兄さんって感じ


そんな風に思ってナイラは小さく笑った


「何だ笑って

 こっちは真剣だというのに」


「あ

 ごめ……ふふ

 申し訳ありません

 お言葉はありがたく」


「でも聞くに止めると

 そういうことだな?

 困ったお嬢さんだ」


憤慨していると言うほどではないが

朱雀は明らかに難色を示していた


困り顔で笑ったナイラは

相手を宥めつつ貢ぎ物を差し出した

岩塩だ


「おう

 気は利いているようだ

 床に置いてくれ」


「献上品を床に直置きは

 ちょっと……しづらいですよ

 私の手からは

 召し上がりたくない感じですか?」


「気にしなくていい

 火傷するぞ」


「火傷なら治せます

 どうぞ」


ナイラは首を振って

もう少し朱雀に歩み寄った


ちり

と肌を焼く感覚は

真夏の日差しか

はたまた

真冬の焚き火か


明らかに気を遣われたナイラは

火に焼けた石を一瞬

手のひらに乗せられたような熱を感じたが

後から見るとほんのり赤くなっただけで

爛れたりはしていなかった


念のために治癒魔法をかけるが

さほど手応えはない

その代わり朱雀が反応した


「ああ……なるほど

 君がナイラか」


「え?」


「精々気を付けることだな治癒術師

 君の魔法が

 常に良い結果に結び付くとは

 限らない」


「朱雀様? それって──」


「さて

 君の望みは謎を解明するための

 手がかりだったな

 聞いていくと良い

 ただし──その前に

 僕の試練を乗り越えてからだ!」


思わせぶりな言葉に

意味を求めて聞き返そうとするも

朱雀はもう気持ちを切り替えてしまっていた


朱雀のくちばしから放たれた火炎は

ナイラを中心に円を描いて

彼女を瞬く間に完全に包囲してしまった


「あつ……っ

 朱雀様?

 これって」


「僕の試練だ

 ほぼ本物の炎で囲っているが

 一部だけ幻の炎で出来ていて

 潜り抜けても燃えたり火傷したりしない

 その一部がどこだか見極めてごらん」


「幻……分かりました」


ナイラは朱雀のいる方向を始点にして

熱が漂ってこない場所を探したが

どこへ手をかざしても

熱を感じないところはひとつもなかった


じりじりと焼かれるような熱波が

四方八方から押し寄せてきて

瞬く間に彼女は汗でびしょ濡れになった


気だるい熱気の中で

急にたくさんの息を吸うと

喉が焼けてしまうのではないかと

不安になる


だから

ゆっくり

少しずつ

呼吸した


そうしてそろそろ熱に慣れてくると

次に炎が立ち昇る床を

じっと見つめてみる


だが

円を一周しても

どこにも差異は見られない

と言うよりもまぶしくて

閉じた目に残像が映った


「──!」


そうして閉じた目の

まぶた越しに灯る光が

ナイラにとある事実を伝えてくれた


朱雀の輪郭が見えた気がしたのだ

いや

気ではない

事実

目を開けて朱雀のいる方へ

目線を向けると

やはり朱雀はその輪郭を

鮮明に浮かび上がらせていた


「朱雀様の試練

 ヒントは有ったんですね

 ──ここでしょう?」


朱雀と炎の壁

お互いに燃えているもの同士

本来なら朱雀の輪郭は

壁の炎に溶け込んで

見えなくなっていたところだろう


しかしそうはならなかった


ナイラは

朱雀のいるほうへ足を伸ばし

炎の壁の幻を踏み締めた


「気付くのが早かったな

 さすがだ

 では授けよう

 謎の手がかりだ」


ナイラは慌ててメモの準備をする


「──『其は進み続けるが故に遅れ

 遅れたものは元に戻らない』」


「…………」


「…………」


「それだけ?」


「不満か?」


「いえ

 麒麟様と青龍様は

 もう少し長かったので」


「長さは関係ないが

 それなら埋め合わせに

 良いものを授けよう」


「何かくれるんですかっ?」


にぱっと顔中で笑って

両手を差し出す娘


苦み走った笑い声が

朱雀のくちばしから漏れた


「現金な娘だな

 ──離れていろ

 色が紫に変わるまで触るなよ」


五歩ほど離れたナイラは

首を傾げながら

朱雀のすることを見守った


朱雀は体を揺すると

あの孔雀のような羽根を一枚

床に落とした


その羽根は最初は

朱金色に輝いていたが

やがて光を失っていき

徐々に赤から暗い紫へと

その色を変えていった


ナイラはそれに見覚えがあった


 ──まさか

 まさかあれは──


「……す、朱雀様

 もう触って良いですか?」


問う声がうわずっている

彼女は喉を鳴らした


朱雀がうなずく


シルク光沢のある羽根は

手に取ると一層軽く

つるつるとした手触りが

肌に心地よい


間違いない

『離脱の羽根』だ


それは使うと戦闘から確実に

逃げることができる

商人にのみ販売される道具(アイテム)


ナイラも商人レベルが五になったら

買おうと思っていた憧れの道具である


その効果は類似道具である煙玉の

二百倍の確率とも言われている

しかも使用回数には上限がないという


「本当にいただいて良いんですか

 すごくすごく助かります」


うるうると両目を潤ませて

感謝の念にたえないナイラ


「よいよい

 持っていけ」


朱雀が答えると

いそいそと一番使いやすい場所として

胸ポケットに羽根をしまった


「ありがとうございます!

 そしたら私これで

 失礼しますね

 朱雀様ごきげんよう」


「──おい

 ちょっと待ちな」


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― 新着の感想 ―
四神からのヒントを得たうえで、あえて間違えたことで少し時間はかかりましたが、麒麟とナイラの朝食の場面がお爺ちゃんと孫の会話のようで、とても面白かったです。 十階、どうなっているのか、気になりますね。…
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