19.五階 〜青龍のヒント〜
■地下迷宮 五階 ナイラ 治癒術師Lv4 商人Lv2
何が起こったのか
理解できないナイラである
ぽかんと口を開けて東の遥か先
今は暗闇ばかりがあるところを見つめている
「ほっほほ
青龍の風で
こんなところまで戻ってきたのは
おぬしが初めてじゃんね」
「麒麟様!
今のって青龍様の力なんですか?
私 嫌われてます?
まだお会いしてもないのにー」
「いやいや安心するだよ
青龍は全員にやるだ
試練として」
「試練?」
「無償で手がかりを得られるはずはないでしょ
四神それぞれが試練を用意して
おぬしを待ってるだ
楽しんで励みましょ」
「会う前からそんな試練〜」
「ほっほほ」
それからも毎回風に飛ばされる中で
ナイラにも分かってきたことがあった
風が当たる際に立っていた位置によって
飛距離が変わるのだ
大抵左に避けると回避できるようである
それと風とぶつかる前には必ず
微かながら風の唸り声が聞こえる
合わせると
→風の声が聞こえる
→左に避ける
→風を回避可能
そうして青龍に
近づいていくことができる
おそらく左に避けるというよりも
ここでも
『定められた方向へ一周する』
というのが求められた解決法なのだろう
──そういえばスフィンクス様に
ディスペルをかけた時も
あの方を中心にすえて回ったっけ
また耳の中が鳴った
青龍にはだいぶ近付いてきた
ブルーのドラゴンを想像していたが
森を思わせる緑色だ
顔は麒麟と似ている
いや反対で麒麟が青龍に似ているのか
身体はまるで尾の長いトカゲに
背びれがあるような
ナイラは張り上げなくても声が届く距離まで来ると
青龍にも麒麟と同じように挨拶を向けた
「ご機嫌よう青龍様
貴方様の貴重なお時間を
少々いただいてもよろしいでしょうか?」
「ははっ
よう探索者
悪かったな何度も吹っ飛ばして
暇だったから気にすんな
用事はヒントだろ?」
麒麟の時にも
その気さくさに驚いたが
青龍はそれに輪をかけていた
まだ若そうな声のおかげで余計だ
人間で言えば二十代半ば頃の
青年の声口調
ぽかんとしていたナイラは
ヒントと言われて
慌ててメモ帳を取り出した
「はい
ええと謎は……」
「ああいい
麒麟から伝わってるから
アンタもう答えも分かってるんだってな?
やるじゃん」
「簡単、です」
「ヒントなんて要らないだろーけど
ジャマになるもんじゃないし持ってけ」
「ありがとうございます!」
「──『其は場合に依て
三つにも四つにも分かれて
考えられるものである』」
ナイラは短いヒントを
丁寧に書きつけていく
その後うーんと唸りながら
メモ帳をしげしげと眺めた
「どうよ
アンタの答え
合ってそうか?」
「私の答えは合ってると思いますけど
なんかこう──分けて考えるなら
三、四じゃなくて
うーん
今回のヒントは謎の前半部分に
関係してるのかな?
うん」
「あー
まあ悩め悩め
そのほうがリドルは楽しいわ!」
青龍が長いヒゲを前足でしごいた
ナイラが脳に栄養を送りたいから
おやつ用に持ってきていたクッキーを
食べてもいいかと聞くと
青龍の様子が前のめりになる
忘れていたが青龍は甘味が好物だそうだ
ナイラは東洋の神でも西洋の焼き菓子を
楽しめるかどうか不安だったが
ものは試しと献上してみた
「お
これなかなか」
青龍の頭上にはハートマークが
ぷかぷかしていた
ナイラは安堵して
自分用に残しておいた分のクッキーをかじる
最後に水筒を傾けて
奪われた水分を補給すると
次の場所へ向かうべく
青龍にひとつ辞儀をした
「おい姉ちゃん待てよ
そう急ぐな」
「はい?」
彼女は引き止められて動きを止める
背を向けていた青龍に
くるりと向き直って
ナイラは小首を傾げた
「何です?
青龍様も
おしゃべり相手に
飢えてるんですか?」
「ま
ヒマはヒマだけどな
そうじゃなくて──
礼くらいさせろってことだ」
「クッキー二枚でお礼なんていいですよ〜」
「そうはいくか
知ってて損はない情報だぜ?」
「何を教えてくれるんですかっ」
やはりヒントに目がないナイラである
ずいっと青龍に近寄って
両目を輝かせた
「おおっと
アンタ分かりやすいなあ
ははっそういうのキライじゃないぜ?
教えられるのは
朱雀兄ちゃんのことだ」
「朱雀様の?」
「ああ
アンタ岩塩持ってるか?」
「テントの中に置いてきた
ミルの中になら
小さいのが」
「渡せるようにしとけよ
要るぜ」
「あー……取り出せるかな
でも分かりました
ありがとうございます」
うんうんと青龍が頷くと
その波打つ身体からそよ風が漂ってきた
これが突風に変わったのだろうか
ナイラは追い風を背に一旦麒麟の元へ
──テントの中にあるものを取りに戻った
* * *
床の上にべたりと座った麒麟は
前足の間に顔を入れて目を閉じていた
眠っているようなので
声はかけずに
テントに入って荷物をあさる
小さい鍋に塩コショウ砂糖は常備している
塩のミルはまだ使い切ったことが
なかったので知らなかったが
ネジ式で岩塩の出し入れができる
ナイラはさっそく塩の塊を取り出して
紙に包んだ
次は南だ
* * *
「探索者らしくないお嬢さんだな」
「戦闘からはずっと逃げてきましたから」
「なるほど
──とはならんぞ!
こんな物騒なところに
しかもひとりでいないで
地上で安全に暮らせ!」




